逃避行

私の彼女の腕はバーコードみたいになっている。

不規則に並んだ切り傷の跡。

まるでピンクの蚯蚓みたいだ。

でも、そんな彼女が私は大好きだし愛している。




とある日、家に帰ったら彼女が血の海の真ん中で倒れていた。

右手には血みどろのカミソリ、左手は深く切られて骨が見えていた。


頭が働かない。

現実を直視できない。

彼女の心臓は動いていない。

彼女はもう動かない。

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

こんなのおかしい。何かの冗談に決まっている。

どうして、どうして彼女は死んだんだ。

もっと生きていたっていいじゃないか。


玄関から外に出て、走る。

走って走って走って、とある廃ビルについた、

屋上まで息を切らしながら登っていく。


靴を揃えて、下を見渡して、彼女の電話にかけて、でも彼女は死んでいるから当然返事はなくて、覚悟を決めて。


やっぱり私が女だからダメだったのかな。


来世は必ず結婚しようね。


そして幸せな家庭を築こうね、






来世に向かって、逃避行。

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