お題:夕暮れ 25分 「またね」

「じゃあ、ばいばい。」


彼は曲がり角でそう言った。


「うん、またね」


わたしも挨拶を返す。


彼の背中が夕日に照らされて、一瞬真っ赤に染まった。



何か違和感があった。



なんだろう。


何かが違う気がする。


何十回、何百回、何千回と繰り返した別れの挨拶。


彼とは、響とは幼馴染と呼べるほどではないが結構長い付き合いだ。


わたしが小学3年生の時に転入してきてからだから、7年? 7年半くらいかな。


7年くらい毎日一緒に帰っていた。


だから、曲がり角で別れの挨拶を告げてそれぞれの家に帰るのはもはやルーティンだった。


思い出せない。


何が違うのか、


一度気になってしまうと止まらない。


何が違うんだ…?

大したことじゃないだろうから明日聞いてみようかな。


            **********


翌朝、響が自殺未遂を起こしたらしいとお母さんから聞いた。


首を吊ろうとしたところにたまたま妹が乱入して気付いたらしい。


それでわかった。


違和感の正体。



響は昨日、『じゃあ、ばいばい。』と言った。


彼はばいばいなんて言わない。






いつも、「じゃあ、またね。」と言っていたはずだった。



いつか、彼が話していた。

「別れる時に、「ばいばい」って悲しいよね。もう会えないのかなって思っちゃう。みんな「またね」って言ったらいいのに。きっと明日会えるのを願って、いつか会えるのを願って、またねって。」



あれは、彼なりのSOSだったのかもしれない。


幸い、未遂で終わったけど成功していたら…


考えるだけで怖く、悲しくなった。


そして、気付かなかった自分に腹が立ってしょうがなかった。

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