対立と和解、そして氷解
俺がメガネをかけた女の子──通称"メガネっ娘"を好きになったきっかけを語るには、時計の針を小学生時代まで巻き戻さねばならない。
当時一世を風靡していた魔法少女ものアニメ『魔法少女まごか×まじか』
ある日、予知夢によって自分の孫、
そのアニメに登場するキャラクターの中で、俺をメガネっ娘好きにし、俺の性癖を歪ませることになった初恋の相手こそ、まごかの親友の
引っ込み思案だが、誰よりも優しく、まごかのためなら死ぬことすら厭わない女の子。
俺は彼女のキャラクター性に脳をやられ、いつしか彼女の青縁のメガネと三つ編みという、その見た目まで含めて、猛烈に恋焦がれるようになったわけである。
そして迎えた『魔法少女まごか×まじか』最終回。
まごかが魔法少女になれば、まごかは死んでしまう。しかし、誰かが魔法少女にならなければ、世界が滅んでしまう。
そんな絶望的な状況の中で、ぽぷらは自分が代わりに魔法少女となり、まごかを、そして、まごかと過ごした大切な世界を守るための戦いへと身を投じていく──
あの頃より少しばかり歳を重ねた今振り返れば、なんとも感動的で、完成度の高いラストだったと思う。
しかし、愚かなガキだった俺は、ある一点をもって、この作品を駄作扱いしてしまう。
そう、魔法少女となったぽぷらは、三つ編みを解き──メガネを外してしまうのだ。
これまでの11話を通して、見た目も含めて彼女のことを好きになっていた俺は、最後の最後で大胆なイメチェンを遂げた彼女を…受け入れることが出来なかった。
自分のこの気持ちは、所詮一方通行で、彼女に届くことはないのかと、当時は本気で絶望したものだ。
こうして、勝手に始めた俺の初恋は勝手な失望で終わりを迎え、メガネっ娘好きという"
つまるところ、俺は5年以上も、初恋相手の"幻影"を、他のキャラクターを追うことによって忘れようとしているのだ。
なんとも滑稽な話だろう?
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さて、何故急にオタク特有の早口で自分語りをしたのかといえば、今目の前で起こっている事象が、俺の
好みの顔のメガネっ娘が、魔法少女となり、三つ編みを解いて──
(外しちまうのかよ、メガネ。)
「ま、魔法少女だと!?聞いていないぞそんなこと!!」
俺とは違う意味で、俺と同じくらい狼狽えている破壊神もどきの怪人。
どうやら魔法少女というのは、怪人にも認知されている概念らしい。
「さあ〜こうやって対峙してしまったからには、君の命運はここまでってやつだね。ご大層な野望を抱いてたみたいだけど、残念残念♪」
兎畜生が破壊神もどきに煽りを入れる。
相変わらずボヤけて表情がよく分からないが、多分ピエロの如く口角が吊り上がっていることだろう。
きっとそうだ。なんてったってコイツは俺の
正直に言うと、今俺が魔法少女側か破壊神もどき側のどっちかにつけと問われれば、間違いなく後者を選ぶことになると思う。
だって、あまりにも可哀想じゃん。
片やちょっと強い風を起こすことくらいしか攻撃手段がない魔王面のコスプレ怪人。
片や明らかにアニメ最終回付近で開放される最終形態みたいな格好をした魔法少女と、その使い魔。
俺が兎畜生を嫌いなのを差し引いても、戦力差が開きすぎていてもはや心が痛くなってくる。
願わくば俺が栞ちゃんを倒して、魔法少女に変身してもメガネを外さないように命令を…グヘヘヘヘ。
「残念だけど、それは難しいかな〜」
「ひやふぉ!?」
いつの間にか俺の頭の上で胡座をかいている兎畜生。
俺の恥ずかしい妄想を知っている風な語り口的に、思考を盗み見る能力でもあるのかもしれない。
おのれそんな能力まで持っているとは、どこまでも醜悪な野郎だ。
「どうも行き違いがあるようだから訂正しておきたいんだけど、何も僕はメガネっ娘…だっけ?メガネをかけた女の子が嫌いだからメガネを外させてるわけじゃないんだよ〜?」
「何?」
「そもそもの話、変身した魔法少女の上半身からは常に"聖なる力"的なオーラが出てて、触れた生物以外のもの…つまり無機物は、何故かどんなに丈夫なものでも壊れてしまうんだよ〜。このオーラのおかげで魔法少女特有の馬鹿力だとか、原理のよく分からないビームとかが実現できてるわけなんだけど…。」
「…そうか、そんな状態でメガネなんてかけてたら…!!」
「そ、一瞬で弾け飛んでしまうんだ〜。だからこそ、メガネを変身のための"触媒"にすることで、破壊から保護しているというわけさ〜。」
なんでわざわざメガネをかけた女の子を選んだのかとか、そもそもなんで少女を怪人と戦わせているのかとか、無機物が壊れるってコスチュームは大丈夫なのかとか、疑問は次々と湧いてくるが、コイツはコイツなりにメガネっ娘を守ろうとしてくれていたらしい。
それにしても聖なるオーラか…。なるほど、ぽぷらちゃんがメガネを外したのも、それが理由なのかもしれないな。
「疑問には、まあ機会があれば答えるとして、今は栞ちゃんの初陣を見守ろうよ〜。」
「そうだな…。悪い、俺ちょっとお前のこと誤解してたかも。」
「気にすることはないよ〜。誤解されることには慣れてるからね〜。」
「流石にメガネのことで誤解されるのは初めてだけどね〜。」と苦笑している…ように見える兎畜生…改め、スペクラに促され、戦場の方に視線を戻すと、既に攻撃の準備は万端といった感じで、魔法少女が光輝くステッキを高く掲げていた。
恐怖で足がすくんでいるのか、それとも律儀に敵役としての役目を果たそうとしているのか、破壊神もどきは元いた場所から一切動いていなかった。
「さて…ここからが正念場だね〜。」
「そうなのか?もう勝ち確定の状況にしか見えねぇけど。」
「さっきも言った通り、聖なるオーラのせいで、栞ちゃんはメガネとかコンタクトとか、視力矯正のための道具を身につけることが出来ないんだ〜。」
「まあそういう話だったよな。」
「けど、別に聖なるオーラに視力回復とか、身体の欠陥を回復させる力はないんだよね〜。つまり何が言いたいかと言うと──」
「まさか…。」
流石の俺も、ここまで言われれば気がつく。
しかし、ガキの頃からの疑問が、こんな形で氷解することになるとは思ってもみなかった。
もちろん創作の上では、裏設定でとんでもパワーがあったり、そもそもメガネが単なる記号としか扱われていなかったりで、また話は別なのかもしれないが、ここは現実だ。
ハハハ、やっぱり、そりゃそうだよな──
「彼女今、前がほとんど見えてないんだよね〜。」
──メガネを外した魔法少女が、まともに戦えるワケないだろ。
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