とある依頼でのお話
深夜二時。大抵の人々が眠っている時間に電話が掛かってきました。
「はいはい、此方は何でも屋のレディンメ。うん、はい、把握。うちに任せておいて。うん、キチンと書類書いてもらわないとだから余裕出来たら事務所来てね。あ、家に向かおうか?兎に角、落ち着いてからだね。じゃ」
お姉様が電話を切る。
「
「最近さ、不届き者が山程いるじゃない。何かの流行りで発生してるらしい不届き者。法律は詳しくないけど礼拝所不敬罪で連れていかれる輩。信仰?元からそんなもんない連中だらけの地域だろってのは無しだ。で、連れてかれた連中は罰金と修繕費払って解放されるんだがその後がおかしくてね。どいつもこいつも『双子を見た!』って言うらしい。現代に相応しくない不気味な双子なんだってさ。『壊した、穢した、侮辱した。死んじゃうね。哀しいね。可哀想だね。』とか言ってひとしきり嘲って消える。馬鹿馬鹿しいと記憶の彼方に追いやるけど深夜に手鞠唄が聞こえてきて朝には静まる。それが一週間位続いてごらんよ。気が狂うだろ?そう、ここんところでニュースになってる自殺の一部はこれ。あとは凄まじい衝撃で圧死した不審死も相次いでるんだって。ろくでもない流行りの元凶は何だったかな。あたし、眼精疲労から解放される為にネット断ちしてるから分かんないや。レイイミナ、何か知ってる?」
「検索結果…ダナン
「うん、最後の一文で怪しくなったわ。どうせ知識館で『最近の不謹慎チャレンジ教えて下さい』って書き込んでそんな事知ってどうするの系を無視して、マトモに返答した奴をベストアンサーにしたろ。そこでの情報なんか役に立たないから止めろって言ったじゃない」
あぁ、期待を裏切らない娘ですね。可愛い♥️大好きです。本当の情報はホラー系投稿者ダナー
「出会えた!出会えた!これで俺は大物になれる!再生したな?これは伝播する!祝福だぁ!アッハッハッハッ!」
という支離滅裂なもの。本来はネットの海に消えるであろうそれは前述した通りの再生数一億という動画の存在で話題になったそうです。彼のファンが検証動画を投稿しており、その投稿の後の企画動画のエンディング音声になかった筈の例の手鞠唄が流れているというもの。それは一日で百万再生されたそうです。そう、彼に関わると何故か注目を浴びる。俗っぽくいうと簡単にバズれる。結果、礼拝所不敬罪なんて怖くないのタグを付けた犯行現場の写真や動画が大量に投稿されたそうです。本題はここから。そのタグを付けた一部のユーザーが音信不通になったり、死亡したりする報告があり、範囲を調べるとこの辺りと隣接した一部の地域の人々が被害にあっているそうです。
「凄いじゃん羽耶。流石は巫女。へー、ネットで祟りとか広める賢い怪異とかいるんだ。面白」
お姉様、面白がらないでください。被害が出ている上に怪異が怪異を呼び起こして百鬼夜行が起きたりしたら完全に対応出来なくなりますよ。あまり言いたくはないですが然る専門機関に丸投げをオススメします。
「そんなにヤバイ?」
はい、人々の軽々しい好奇心と浅ましさに辟易しますね。失敬、怪異の人間に対する理解度が既に脅威。そういう判断の上の発言です。
「はーん。双子って良いよね」
今はまだそういった情報は出回っていませんが双子という情報。それに美少女という情報を怪異が開示して、投稿すればそういう俗っぽい癖を満たす為に行動を起こす方が出てきますよ。
「え?美少女なの?」
美少年でも良いでしょう。興味さえ引ければ何でも良いのです。お姉様も食い付かないでください。早く対処しましょう。ややこしくなる前に。
「はいよ。依頼主は電話したのが精一杯だったようでね。心労が祟って寝込んじまった様だよ」
それはそれはお可哀想に。仕業は怪異でも呼び起こしたのは人間。その方を葬りませんこと?という心の声は控えておきましょうね。ふふふっ。そもそも音信不通なので探し出さないと始末出来ませんが。
「サツ人…よく…ない」
愛しのレイイミナ。そういわれても私のリボルバーが撃って欲しいと問い掛けてくるんですよ。下品な事を言いますが硝煙の香りで気持ちよくなりたいものなんです。
「行くんじゃないの?早くって急かしたのは羽耶でしょ。レイイミナも行くよ」
「了解…マスター」
軽く流されてしまいました。構いませんけれどね。私は支度を整えて二人に付いていきました。
―
「壊れてるね」
「崩壊…」
木屑となっている祠だったもの。
「何してる…ウヤ」
レイイミナ、お姉様。魔です。
「そういわれても何も出来ないよ。あたしらの普段の相手は人間だし。何?札でもくれるの?」
えぇ、此方をどうぞ。札の束を取り出してレイイミナの両手に握られた短刀とお姉様の拳に貼り付ける。
「札…消えた」
そういう仕様ですよ。融合するんです。お姉様は拳なのでそうでないと邪魔でしょうから。ちなみに融合なので
「怪異しばけるなんて面白そ。どこにいる?」
「OK!オラァ!」
回し蹴りを食らわせる。攻撃で怯んで消えましたが姿は子供だと認識しました。となるとレイイミナ!横です!
「了解…!」
空を切った感覚でしょうが斬れていますよ。流石、戦闘はずば抜けている愛しのレイイミナ。うっとりしちゃいます。しかし、レイイミナとお姉様の攻撃が通ったのは確認しましたが
「私達攻撃した」「許せない」
「呪ってやる」「祟る」
「でも巫女いる」「変な武器の巫女」
「卑怯だ」「卑怯だ」
「「ね!」」
私の愛銃を変な武器呼ばわりとは許しがたいのでさっさと消して差し上げましょう。人間というのはエゴの塊なんですよ。自分勝手なんです。
「うすーく見えるね。声も何となく聞こえるけど片方男の子じゃない?」
お姉様。そういうどうでもいい事に食い付かないでください。怪異の姿形など偶像にしか過ぎません。関心を向けさせたり、畏れを抱かせる為の手段ですよ。
「排除…」
良いですよ。素敵ですよレイイミナ。片付けましょう。
「他の神」「怪異」
「それを片付けて欲しいだけ」「欲しいだけ」
「祠なんて後から来た他所の奴のもの」「社も邪魔」
「「それだけなのに」」
知った事ではありませんね。害なすなら…おっと、一つ聞きましょうか。
「お二人様、最初に社を壊した人間はどこですか?」
双子は顔を見合わせてヒソヒソと話し合う。
「御神木に閉じ込めた」「使うから生かした」
「私達の御神木」「祠なんかより偉い」
「「凄いの!」」
そうですか。元凶の人間を引き渡してくだされば
「お前邪悪」「人間どうする」
「巫女の癖に女好き」「女好きな女は変」
「「ねー!」」
私はリュックからサブマシンガンを二丁取り出して連射する。言ってはいけない事も分からない小童さんは滅しましょうね。恨めしげに此方を見て消えていく双子の怪異。片が付きました。万々歳ですね。御神木というワードも引き出せたのでよしとしましょう。
「おー怖。片が付いたならいいけどさ。依頼人にもそう伝える。で?御神木ってどこ?」
「検索…御神木…ワード引っ掛からず」
可愛い可愛いレイイミナ。少し歩きましょう。その場所の大きな木をスキャンすれば生体反応が見つかる筈です。
「了解…」
「嫌な予感するけどさ。まさかだよね。ま、好きにして。あたし先に帰るわ。報告忘れないでねー」
はい、お姉様。お疲れ様です。えぇ、好きにさせていただきます。元よりそのつもりでしたので。お姉様を見送ってからレイイミナと獣道を進みました。魔の気配が強く残る場所にて佇んで、辺りを見渡しました。ここですね。スキャンしてください。
「スキャン開始…生体反応発見…ウヤ…凄い」
大した事ではありませんよ。可愛いレイイミナ。救出もお任せします。
「了解…」
レイイミナが華麗な短刀捌きで御神木に取り込まれていた男を救い出す。動画で見た顔。つまりは彼がダナー川箋。でも、そんな名前は覚えておく価値もありません。自然と忘却しましょう。貴方の存在は世間からも消えるでしょう。さようなら、愚かな元凶。眉間を一発で撃ち抜く。リボルバーから立ち上る煙を軽く吸うと全身が高揚で震える。硝煙の香り…♥️たまらないです…♥️
「サツ人…」
天誅ですよ。いえ、介錯です。怪死するよりは何倍も慈悲深い行いです。それに、何でも屋は人だって殺める。今更ですよ。
「うん…」
さて、埋めますか。土地の良い栄養になってくださいね。汚れるのでレイイミナは先に帰ってて良いですよ。
「ううん…手伝う…伴侶…?だから」
突然の告白に固まってしまう。早く籍入れます?段階進めます?結婚式には白無垢とウェディングドレスどちらがいいですか?…はっ!気が付くと血痕共々片付けられ、穴を埋めているレイイミナがそこにいました。あらいけない。私も埋めますよ。
―
「報告良し、経過観察の結果は問題なし。お仕事完了。お疲れ様」
お姉様に労われる。普段の行いと
「マスター…お疲れ様…です」
「怪異問題がうちに来るとはね。他にもあの何でも屋とかいるじゃんか。ガチの祓いしてくれる娘がいる所。あ、羽耶の能力がないって訳じゃないよ。当たり前じゃないの」
あそこですか。あの人達と顔を合わせた事もありますが
「ウヤ…凄い…知れわたってる?」
褒めても何も出ませんよキュートなレイイミナ。
口付けでもしましょうか?
「キス?…なんで?」
伴侶同士のコミュニケーションですよ。
「ううん…遠慮する」
―
こうして怪異事件は幕を閉じました。独自に調べた話をしていきましょうか。まずは怪死について。自死も圧死も手鞠によるもの。手鞠唄で参らなかった人間に直接手を下す為の手段が重力と巨大化させた手鞠の重量による圧死だった訳です。
祠構文読み切りまとめ やみお @YAMIO
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