第7話 マタイ討伐課五番隊とパトロール
座学と戦闘訓練を終えた蓮は芽依に連れられて五番隊の隊室に来ていた。
「お茶飲みますか?」
「おぅ、ありがとな!」
「芽依ちゃんワシの分も頼むわ〜」
「了解です。小早川さんはどうですか?」
「俺は大丈夫だ」
「はーい」
ケトルからお湯を急須に入れて芽依がお茶を作っている間、蓮は改めて隊室を見回していた。
窓際にニ対二で向かい合うように配置された机。その一つに座って書類の山と向き合う柔造と。
入口側のソファとローテーブルが置かれた簡易的な座談スペース。ソファに座りながら慎也は背筋をピンと伸ばして目を瞑っている。寝ているのではないようで、瞑想かイメージトレーニングをしているのだろう。
ちなみに蓮もソファに座っているのだが、後から来た慎也は対角の位置に座った。
そして麗は窓際の日の当たる席で机に突っ伏して眠っていた。
「どうぞ、熱いので気をつけてくださいね」
「さんきゅー」
湯呑み越しにお茶の熱を感じながら、フーッと息をかけて冷ます。
数回吹きかけてずぞぞと飲むが、熱い。一旦冷めるまで置いておくことにした。
蓮がお茶と格闘している間に芽依はお盆を片づけ、蓮の隣にちょこんと腰掛ける。続いて柔造も座談スペースにやってくると、お茶を一気に飲み干した。
「アッツ!!」
「そりゃ淹れたてなんだから熱いだろ……」
「気をつけてくださいって言ったじゃないですか……」
「書類に集中しすぎてて聞いとらんかった……」
蓮と芽依は呆れたように、柔造は悲しげに口を曲げた。
しかしそんなことには一切興味ないというように慎也が本題に入る。
「今日は何をするんだ」
ちょっとくらい心配してくれても、と半べそを掻きながら柔造はホワイトボードに書き込み始めた。
簡単に描かれているが、マタイとその周辺の地図だろうと分かる。
大体半径1キロメートルくらいだろうか。
柔造は描き終えると三人の方に向かって。
「今日はパトロールをする。蓮も入って初めての隊の活動やからな。エリアとしては案内含めてってことでマタイ周辺にしてもらった」
「へー、パトロールか。モンスターが出てないか見て回るってことだよな」
「そゆことやな。自然発生したモンスターの被害を未然に防げれば万々歳やし、あとはモンスター発生の通報があったときにすぐ駆けつけられるように街中に出とくっていう意図もある」
「大事だな」
「大事やで」
「討伐課は全部で五つの隊がありますけど、それぞれが持ち回りでエリアをパトロールしてるんです。他のエリアだと渋谷新宿あたりとか、横浜方面や埼玉方面まで行ったりもしますね」
「結構遠くまで行くんだな」
「万年人不足なので……。私たちの手の届かない北関東エリアとかになってしまうと、民間委託していたりもしますね」
「まぁ大変だよなぁ」
「はい。私たちマタイ東京本部の管轄エリアは関東なんですが、警察の皆さんとも連携したりして、なんとかやってるって感じですね」
五つの隊で関東を守らなければならないというのは非常に厳しいものがありそうだ。
それほどまでにマタイは人手不足なのだ。
他に京都や仙台、福岡支部も存在するという話だが、どこも状況はさほど変わらないとマタイについての勉強で芽依に教えてもらった。
「芽依ちゃん補足ありがとな。それじゃあお前ら武器持ってパトロール行くで〜」
締まらないな、と思いながらも席を立つ皆に合わせて蓮も立ち上がった。
皆は隊室の自分のロッカーから武器を取り出したが、蓮はまだない。
どうしたら良いものかと柔造に声をかけようとしたところ、柔造から先に物を渡された。
「ほれ、これが蓮の武器や」
「おぉ、サンキュー」
軽いノリで渡されたが、その重さは数キロはあるだろう。
両手でしっかりと受け止めた。
革でできた鞘から柄が伸びている。鞘を少しだけ外して中を覗いてみると、反射するように磨かれた銀色の刀身が見えた。
「うお……」
見ただけでわかる。これが本物の武器。
感動なのか、恐れなのか。蓮の口から声が漏れ出た。
「…………外では無闇に出しちゃダメだよ。……マタイでも不必要な武器の取り出しは警察に捕まるから」
「あ、うっす!」
気づけば背に乗ってきていた麗が肩越しに注意する。麗もレイピアを腰の後ろに提げていた。
蓮は剣を鞘に納め、しっかりと脱落防止ストラップをつけた。
これはモンスターを倒すための武器ではあるが、その殺傷能力は当然人間にも通用してしまう。
取り扱いには十分注意しなければならない。
「ほれ、早よ行くで〜」
先に行っていた柔造に呼ばれて蓮は駆け足で隊室を後にした。
――――現在ここまで(2024/10/14)――――
魔生物対策本部討伐課五番隊――石原蓮はヒーローになる 遠坂 青 @s4xt
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