マタイ討伐課五番隊

第4話 蓮と麗

 「俺をマタイに入れてください」

 足の上に座った少女の頭を優しく撫でながら、蓮は強い決心でミラちゃんに応えた。

 目の前にいるような子供を一人でも多く救いたい。

 二度と悠太と結希のような悲しみは生み出さない。

 二人を守るというこれまで蓮の心を強く支えてきた想いが、衰えることなくその相手を変えた。

 ミラちゃんは穏やかに、しかし嬉しそうに、

「そうか、ありがとうな」

 蓮を迎え入れるような笑みを浮かべた。

 それなら、と言ってミラちゃんは続ける。

「入るにあたって必要な諸々の手続きなんやけどな……」

 国を守る機関に入るのだ、それなりに手続きもあるだろう。

「全部済ませてある」

「は?」

「さっき言うたやろ、諸々手続きしたって」

「諸々ってそういう!?」

 なんと言う話だ。

 蓮が気を失っている間に蓮の入隊手続きが完了していたと言う。

 公的機関がそれでいいのだろうか。

「まぁまぁ、と言ってもあれよ、ここで治療受けさせるのに一回入っといてもらった方が都合が良かったっちゅう話や。もし断られたら除隊させとくつもりやったで?」

 どこまで本気なのか分からない飄々とした言い草でミラちゃんはガハハと笑う。

 なぜだろうか、断っていてもどうにかこうにか入隊の方向に話を持っていかれたような気がする。

「結果としてはちゃんと自分の意思で決めたんやから、ちょっと面倒な手続きがなくなってラッキーくらいに思っといてや」

「まぁいいすけど……」

 はぁ、と蓮は溜息を吐いた。

 先ほどまでの真剣な雰囲気はどこぞへ吹き飛んでしまって力が抜ける。

 緩み切った空気を、しかしミラちゃんはまた少しだけ締めた。

「それじゃあ改めて」

 石原蓮クン、とフルネームで呼びかけてーー。

 

「魔生物対策本部ーー通称マタイへようこそ。俺は討伐課五番隊副隊長、八重柔造や。よろしくな」

 手を蓮に向けて差し出す。

 本当に一区切りとして、歓迎の意を表した。

 蓮は改まった態度に少し照れつつ、手を握り返そうとしたが、途中で手が止まる。

「よろしくお願いします……って、八重じゅう……?」

 何の違和感もない高らかな歓迎と、再名乗りに、一瞬受け入れかけ、急ブレーキで違和感が帰ってきた。

 今何と名乗ったか。たしかーー八重柔造、と。

 はて、これは一体どういうことか。

「名前ってジョセフィーヌ・ミランコビッチなんじゃ……?」

 蓮の窺うような言葉に、柔造は目をパチクリとさせて当たり前のように答えた。

「そんな名前なわけないやん。冗談に決まっとるやろ」

「どんなボケだよ!」

 一切の脈絡もないボケらしいと。

 ちょっとだけ気を遣ったこちらに謝罪して欲しいくらいだ。

 初対面で名を騙られて看破できる人間がいるだろうか。

 蓮は理解した。

 この人はとことんふざけた人だと。

 今日一番のため息を隠すこともなく吐いて、柔造の手を強く握った。

「……よろしくな! 柔造!」

 この人は敬語も丁寧な対応も必要ない。そう判断して完全に素で接することを決めた。

 柔造も何か言うでもなく、笑うだけだった。


 しばしの握力勝負をしたところでーー蓮は身体能力が高い自負があったが、柔造もなかなかいい力をしていた。手の硬さからよく鍛えているのが分かったーー柔造が手を離してマタイの話を始めた。

「マタイはその名の通り、人々の生活を脅かす魔生物モンスターへの対策を行う組織や。それは研究課だったり、治安維持課だったり、俺とかが属しとる討伐課で構成されとる。他の課についてはまた追々説明するとして、まずはウチの話だけ簡単に」

 柔造は壁際に寄せてあった椅子を持ってきて腰掛ける。

 ちょっと長くなりそうだと、蓮は居住まいを正した。

「討伐課には全部で五つの隊と五つの組がある。マタイっちゅうんは東京と京都に拠点があってやな、東京の討伐課を隊で呼ぶんや。せやから俺らはマタイ東京本部の討伐課五番隊って言うことやな。ちなみに蓮クンも五番隊に入ってもらうことになる」

 ここまで大丈夫か、と言葉はないが間で聞いてくる。

 特に難しい話もない。蓮は軽く頷いた。

「ただし、一つ覚えといて欲しいことがあんねんけど、キミはまだ正規隊員じゃありません」

「そうなのか?」

「一応命が関わる仕事だからな。隊員資格が必要なんや。資格試験の内容は筆記と実技」

「筆記……」

 筆記と聞いて蓮は渋い顔になる。

 高校も途中で辞めて全然勉強してこなかった身だ。筆記なんて受かるだろうか。

「そんな心配そうな顔せんでもええ。ちゃんと受かるように教えたるわ。もともと身体能力は高そうやし、ウチには勉強が超得意な奴もおるからな。そいつに教えて貰えばいけるいける」

「それはありがたいけどよ……」

 柔造は問題ないと言うが、それでも不安はある。

 そもそも勉強の仕方すらもう碌に覚えてない。相当頑張らないといけないような気がしていた。

「その勉強できる子含め、ウチの隊には蓮クンと合わせて三人隊員試験受けようとしてる子おるから、また全員集まったタイミングで詳しい話しよや」

「おぅ」

「正規隊員でなくとも、実地研修的な意味合いで隊のサポートはしてもらうし、普段のパトロールだったり戦闘してもらうこともある。正規隊員との違いは正規隊員の指揮下でしか戦闘行為ができないってとこだけやな。寮には入れるし、お給金も出るからそこは安心してな。」

 一通り説明を終えたあと、柔造は蓮の様子を観察する。

 蓮は話はざっくり理解したが、やはり筆記試験に頭を悩ませてウンウン唸っていた。

 しかし何はともあれやるしかない。

 自分で両の頬を叩いて気合を入れた。

「…………頑張ってね」

 膝の上に座った少女に応援されて、一層の気合が入る。

 柔造もそれに満足したように笑みを浮かべた。

 そして、あ、と思い出したように柔造が。

「忘れてましたけど、隊長は挨拶しました?」

 急に敬語だったり若干変な日本語だなと思いながら、蓮は返事をする。

 ウェアウルフと対面したときに助けてくれたあの人とはまだあれ以来会っていない。

 起きたのがさっきなのだから当然ではあるが。

「いや、まだだな」

「ん? おぉ、そうか。ほな挨拶しとこうか」

 蓮の返事に少し疑問符を浮かべる柔造に、また違和感を覚えるが。

「おぅ、それでどこにいけばいいんだ? 怪我もそんなに痛まないし、行けると思うぞ」

「いや、別にここでええで。わざわざ移動せんでも」

「そっか、じゃあ待ってるわ」

「ん??」

「んあ????」

 そう言った蓮に柔造はさらに疑問符を増やし、蓮も疑問符を大量に浮かべた。

 二人の間に疑問符が飽和したところで、柔造が何かに気づいたように表情を変えた。

「あんな、蓮クン。ウチの隊長ってキミがさっきから頭撫でてるそこの人なんや」

 柔造は言いながら蓮の膝の上で気持ちよさそうに蓮に撫でられている少女を指差した。

 柔造の指を二、三度追うように視線を移動させて確認したが、間違いなく少女を指差していた。

「え……、は………!?!!?!?」

 理解できずに蓮は素っ頓狂な声をあげる。

 この少女とウェアウルフを倒した女性が同一人物だという。

 しかし明らかに体の大きさが違う。

 到底同じ人とは思えない。

 そうか、これはまた柔造が揶揄っているのだろうと蓮は思った。

「いやいや、流石にその冗談は信じないぜ」

「まぁそういう反応になるんも分からんくはない」

 あくまで真実だと言うテイで話を進めようとする柔造に、蓮は待ったをかける。

「そんなわけないだろ。だってこの子は子供で、ウェアウルフを倒せるような大人じゃないんだぜ」

 そもそも大人でもウェアウルフはそうそう倒せないと言うこともあるが、そこは一旦置いておく。

 しかし、蓮は口では否定しながらも何故か完全には嘘だと言えないと思い始めていた。

 目の前にいる少女は見るからに体の大きさに不相応なサイズの服を着ている。ボタンなどで裾が垂れないよう留めてはいるようだが、子供服ではない。そしてよく見ればこの白い服も制服っぽいデザインをしている上、ウェアウルフを倒した女性が着ていたものに似ている。

 さらに、あの時は必死で気づかなかったが、あの時女性はどこから現れたのか。普通にやってきて助けてくれただけと言うこともあるかもしれないが、後ろにいた少女が前に出てくれたという可能性をだんだんと考え始めている。

 しかし目の前の少女の顔を見ると、そのあどけなさがウェアウルフを倒せるとは思えなくなってくるのもまた事実だった。

 混乱する頭に蓮はパンクしそうになる。

 柔造も、あー、という反応でどうするか考えあぐねていたところで。

 話題の少女が動いた。

「…………こっち、見て……?」

 蓮の服を引っ張って、自分の方を見るように蓮に声をかける。

 混乱おさまらないままに蓮は下を向いた。

 海のように澄んでいて綺麗なくりくりとした大きな瞳と目が合う。

 そしてその目がどんどん大きくなり、近すぎて見えなくなる。

「ん、むぅ……!?」

 混乱した頭にさらに混乱を生み出す事態が発生して、蓮はもう何も考えられずされるがままにされていた。

 どうやら少女にキスされていて、しかも口の中に何かが侵入してくる感触もあった。

 しばらく息を止めていると、突然解放されて大きく息を吸った。

「っぷは……」

 急にどうしたのだろうと、少女に負けないくらい蓮も目を大きくして少女を見る。

 すると少女は意識を失ったかのように頭から後ろに倒れそうになる。

 咄嗟に手で支えようと腕を上げ、しかしそれは半端なところで止まった。

 腕を下ろすことも忘れるほど衝撃的なことが目の前で起きている。

「なんだ、これ……」

 思わず言葉が口から溢れた。

 少女の体が徐々に大きくなっていく。

 手足が伸び、胸やお尻なども、女性らしく起伏あるものになっていく。そして顔も幼さがなくなり、凛々しさが増した。

 まるで人の成長を早送りで見ているようだった。

 そして成人女性らしい体の大きさになったところで変化は止まる。

 ダボダボだった服はちょうど大人の体にぴったりで。

 少女だった女性はこちらを見た。

「どうだ、これで信じたか?」

「まじか……」

 勝ち気でキリッとした目、凛々しい声はウェアウルフとの戦いを思い出させた。

 間違いなく、この人はあの時に助けてくれた女性だ。

 あまりに非現実的な出来事だが、目の前で起きたことは紛れもない事実だった。

 ぽかんと口を開けていた蓮の顔を覗き込むように女性が体を動かして。

「っ、痛って!」

「おぉ、悪い。怪我してるんだったな」

 体の大きさに合わせて重さも変わったらしく、少女の時には気にならなかった体重が足にかかって傷口に響いた。

 しかしおかげで頭は冷静さを取り戻し、少女と女性が同一人物だということを受け入れさせた。

「まぁ大事なくて良かったよ。急に飛び出してきた時は何事かと思ったが」

 女性は蓮の足の上から退いて立ち上がる。

「あ、あの時はあざす! まじで死を覚悟しました……」

「次からはあんな無茶はしないことだな。だが、子供を助けようという想いは気に入った」

「そう、っすね……」

 奇跡的に足の怪我だけで済んだ。

 死んでもおかしくはない状況で、蓮も死んでも構わないと思っていた。

 それを拾ってもらった。そしてこの命の限りしたいこともできた。

 次また同じような状況になった時、飛び出さない自信はないが、戦える力を持ちたいと思う。

 それもこれも、この人のおかげだ。

「命をかけて戦うっす」

「命を大事にしろって言ってるんだが……。まぁお前の気合いは伝わったよ」

 女性は呆れるように肩を竦めた。

 と、柔造が合間を見て会話に入る。

「それで隊長、自己紹介を」

「そうだったな。私は水上麗。マタイ討伐課五番隊隊長だ。よろしくな」

 白く綺麗な長髪を揺らして、麗は名乗った。

 快活な様子はこちらにも元気を分け与えてくれるほどで、しかし同時にその見た目の色素の薄さや凛々しい顔立ちは儚さを纏っていて、幻想的なほどだった。

 一瞬見惚れた後、慌てて蓮も自己紹介で返す。

「石原蓮っす、よろしくお願いしゃす!」

 ベッドの上で胡座をかき、膝に手を当てて頭を下げた。

 麗も満足気にふふんと鼻を鳴らす。

 そういえば隊長が気に入ったからと柔造が言っていた。蓮の入隊を歓迎してくれているのだろう。

 蓮は顔を上げて改めて麗の顔を見る。

 やはり陶磁器のように整ったその顔は通常ではない魅力でどこか視線が吸い寄せられる感覚があった。

 黙ってじっと見すぎていたのか、麗は確認するように自分の顔を手でぺたぺたと触る。

「私の顔に何かついてるか?」

「あ、いや、そういう訳じゃ」

 そこでようやく自分が麗を見つめていたことに気がついて蓮は恥ずかしくなる。

 人の顔をまじまじと見るなんて失礼だろと心の中で叫んだ。

「そうか、良かっ……あ……」

 安心したように笑んだ麗は、しかし突然立ちくらみのようにふらつくと、手をついてベッドに倒れ込んだ。

「大丈夫っすか!?」

「う、ん……」

「えっと、どうしたら」

「落ち着き、蓮クン。問題ない」

 すうっと意識を失う麗に焦る蓮を、柔造は至極冷静に宥める。

 そう言われて蓮も動きは止めるが、内心はまだ不安感があった。

 麗の身に何があったのか。訳もわからず心配していたが、しかしすぐに柔造の言っていた意味がわかった。

「体が縮んでく……」

 先ほどとは逆に、麗の体が徐々に小さくなっていく。

 体の部位が引っ込んで短くなり、最終的にはもとの少女の姿へと。

 変化が終わると少女はベッドの上で丸まって小さく寝息を立て始めた。

「すげぇ……」

 逆再生の映像を見せられた気分で、蓮はまた驚く。

 流石に二回ではまだ慣れない。

 膝の上で猫のように眠る少女を、蓮はまじまじと見つめた。

「まぁそら初見は驚くわな」

 柔造はぽりぽりと頭をかいて蓮同様少女を見た。

「そうっすね……。てか、これって一体どういう……」

 目の前で起きた以上、現実としては受け入れたが、何が起きたのかはよく分かっていない。

 あと体が大きくなったりした衝撃で忘れかけていたが、なぜキスされたのかも。

 説明を期待して蓮は柔造を見た。

「この人はな、人とモンスターのハーフなんや」

「ハーフ……」

「そ、つまり人の血半分、モンスターの血半分」

 なるほど、と蓮は言いながら麗を見るが、あまり理解はできていない。

 蓮の想像するハーフは例えば日本人と外国人のハーフで、見た目にその両方の特徴を持っているとかだ。

 しかし麗は体の大きさが変化する。

 これがモンスターの特徴なのだろうか。

「モンスターって、なんのモンスターなんだ?」

「吸血鬼やな」

「吸血鬼って体の大きさ変わるんだっけ?」

「それでいうと、変わらんな。コウモリに変身するっちゅう伝説もあるが、現実にいるモンスターとしての吸血鬼はただ力が強くて血を吸うだけやからな」

「だとしたら、なんで麗さんは体の大きさが変わるんだ??」

 疑問符をいくつも浮かべて変な顔をしている蓮に、柔造はさらに答える。

「それがやな、人間とモンスターのハーフにはなんらかの特異な身体的特徴が現れんねん」

「なんらかの、えー、とくいってなんだ? 料理が得意とかってそういうアレじゃないよな?」

「特異っちゅうのは、特別変わったってことやな。蓮クンてやっぱりアホの子か?」

「お前が難しい言葉使うのが悪いんだろ! いやまぁ、高校中退だしアホは否定できないけど……」

 信じられないものでも見たように、口に手を当ててわざとらしく戯ける柔造。

 蓮は反論しつつも、否定しきれずいじけたように口を尖らせた。

 柔造は冗談やすまんと謝りつつ続ける。

「んで、特異な身体的特徴なんやが、なんで現れるのかはようわかっとらんし、人によって出る特徴もまちまちで原因も影響も全く分かってないのが現状やな。麗さんに限って言えば人の体液を摂取することで体が大きくなって力もゴリラ以上のバケモンになるっちゅう感じや」

「それでさっき突然ち、ちゅーされたってわけか……」

「そう。……なんや蓮クン、チューされて照れとんか。ウブやなぁ」

 思い出して顔を赤くしていた蓮を、柔造はヒューヒューと茶化す。

 なぜこの人はこんなにも人を小馬鹿にするのが上手いのか。

 枕を投げつけておいた。

「つーか、こんな小さな子供にキスされたって、大したことねぇよ! 俺にも妹とか弟がいたんだから、子供の愛情表現みたいなもんだろ」

「の割にはやっぱり顔が……」

「〜〜!!」

 今すぐにでも殴りかかりに行きたいが、足を怪我しているし、膝の上で眠る麗を起こすのも忍びない。

 命拾いしたなと吐き捨てる。

 とはいえ、口ではああいうものの、意識しているのは事実だった。

 流石にただの子供に欲情するような癖は持ち合わせていないが、麗の場合は大人の姿が頭の中にちらつく。

 それで照れているということはあった。

「でもなぁ、蓮クン。確かに今の見た目は小学校低学年くらいの幼女やけど実際には二十九歳のロリバ……ングフゥッ!」

 スリッパが柔造の鳩尾にクリーンヒットした。

 寝ているはずの麗がむにゃむにゃと少しだけ身じろぎしていた。

 半分寝たまま、足に引っかかっていたスリッパを柔造に向けて飛ばしたらしい。

 素晴らしいコントロールだ。

 蓮もスッキリした。

「二十九歳のお姉さんやで……。君、今年十七やろ。一回り違うで」

 お腹を抱え、言葉を訂正して続ける柔造。

 そこまでして言い切るようなことだっただろうかと、蓮は冷たい目を柔造に送った。

 蓮がこれ以上はツレないと分かった柔造は真面目な話に戻した。

「それで、体液が濃いほど返信してられる時間も長いんよ。血液が一番長いくて、唾液が一番短い。さっきは唾液にしては長く変身してた感じがあったけど……」

 そこまで言って柔造は少し考え込む。

「まぁ人によって同じ唾液でもその成分の量には差があるわけやしな!」

 と思ったらすぐにパッと顔を明るくして胡散臭い笑顔を見せた。

 なるほど、血液で変身と聞くと確かに吸血鬼っぽさがある。

 身体的特徴も一応親の能力に何かしらは関係があるのだと柔造は付け加えた。

「んで、吸血鬼の力を解放した影響なのか、子供に戻ると寝てまうんや」

 二人の視線は自然とすやすやと寝息を立てる麗に向かった。

 なるほど、これで蓮の疑問は解消された。

 ウェアウルフの時の麗さんや、今目の前で起きたことが線で繋がっていく。

 それを思うと、麗さんには本当に感謝しないといけない。

 こうして自分が新しい人生を歩んでいけるのは麗さんがいたからだ。

 自分の膝の上で穏やかに眠る麗の頭を優しく撫でた。

「よし、それじゃ今日のところはこんなもんやな。退院するまで時々様子見にくるわ。マタイに入るにあたっての話とか、ちゃんとせんとあかんからなぁ」

 まずは元気になるところからやな、と言い残して柔造は去っていった。

 なんだかんだ柔造もいい人だ。やりがいのある、いい場所に巡り会えたなと蓮は実感する。

 胸元にぶら下げたペンダントが、蓮の熱でじんわりと温かかった。

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