第9話 院長、上杉謙一

ヨヨギカメラの服を着た初老の男性店員が倒れている。


それを囲う店員たち、周囲のお客さんの悲鳴で状況は混沌を極めていた。


やばい、すぐにBLSを開始しないと…


パイプ椅子から自然と体が動く。


杉並で働いていたとき、救急外来は何度も足を踏み入れていた。体は覚えている。


足が地面を蹴ろうとしたそのときだった。


逆側から2m弱はあろう大男が人だかりに駆け寄ってくる。


「おーいしっかりしろ大丈夫か!」


倒れた男性に大きな声をかけて大きく揺さぶる。


「救急車呼んで、あとAED持ってきて」


周囲に指示をすると、手早く脈と呼吸を確認して胸骨圧迫を開始した。


その姿どこかで…。


「上杉先生!」


大男と患者のもとに駆け寄る。


秋葉原うえすぎ内科の院長、上杉謙一の姿があった。


私の上司であり、杉並の市中病院をやめた自分を拾ってくれた恩人でもある。



上杉はその巨躯を一身に胸骨圧迫に預けている。


「おぉ、奇遇だな!黒住先生手伝ってくれ!」


「あ、はい!」


代わる代わる胸骨圧迫を行う。


院長の上杉と共に急変患者の対応をするのは初めてだ。


少し不思議な感覚があったが、タイミングや息はあっていた。


やっと運ばれてきたAEDを装着し、ショックを行うと患者が弱く息を吹き返した。脈も弱いがある。




ヨヨギカメラの裏手には神田消防署がある。


救急車がすぐに到着するまでは数分とかからなかった。

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