第3話 腹痛とコンカフェ
そろそろ16時、昼の診療が終わる頃だ。
「黒住先生、採血室に回すんで最後の方お願いします。」
看護師の武藤さんが手際よく患者を誘導した。マイクで待合室に放送をかける。
「わかりました、岩見こころさん。診察室へどうぞー」
ゴロゴロと診察室の扉があく。
「ゆきちゃんせんせー!ども!」
いわゆる地雷系の服装の若い女性が診察室に入ってきた。
60代以上の患者が多い一般内科外来において、若い女性というだけでも目立つのに、服装でぎょっとしてまう。
だがその顔は見知ったものだった。
「あ、まほよさん…」
そこには、先程接客をしてくれたまほよさんが立っていた。
岩見こころ、それが彼女の名前だったか。
源氏名しか知らないため彼女の本名はもちろん初めて知った。
「まほ、、、、あ、いや岩見こころさんですね。今日はどうされましたか?」
「ふふっ。せんせーに本名で呼ばれるのなんか恥ずかしいね〜!べつにまほよでもいいよ??」
ふふっと笑う顔がかわいい。
ていうか私服、鬼かわいい。
「まあここは一応病院ですからね。本名で呼ばせてもらいます。で、今日はどうされたんですか?」
「それがね。お腹が痛くて。」
お腹をさすりながら「まほよさん」ことこころさんが言う。
「お腹が痛い、なるほど」
どうやらここ最近2週間ほど「コンセプトカフェ マジカルプリティドーム」に出勤したときにだけ、ひどい腹痛が出るらしい。
痛みはじわじわと出てきて、痛みが出たり消えたりを繰り返すらしい。
退勤後も痛みはあるとのこと。
一通りの身体診察をすると、虫垂炎や腎臓結石といった疾患は否定的であることがわかった。
若い女性の腹痛で必ず除外しなければならないのは妊娠で、これは反応陰性。
便は下痢や便秘がよくあるとのことで、血便はないとのことだった。
「最近職場のでのストレスはありませんか?」
「うーんそんなことないとおもうよ?お客さんも先輩も後輩も店長も優しいし」
職場に行ったときだけというのはやはり過敏性腸症候群は鑑別になるだろう。
職場のストレスが腸の蠕動に影響を与え、腹痛を生じさせることもある。
本人はストレスはないと言っているが、気づかぬうちに影響を受けている可能性も考えねばならない。
「今日は痛み止めと整腸剤を出しておきますが、1週間経っても変化がない、もしくは悪化したらまた必ず来てください。必ず」
「うん、わかった。ありがとう、ゆきちゃん先生」
いつも変わらない笑顔のように見えたが、瞳の奥は少し辛そうで、こちらも心が痛む。
診察室の扉がゆっくり閉められたあと、思わず天井を見上げて、ふーっと息をついてしまった。
明後日マジカルプリティドームに顔を出して、少し様子を聞いてみよう。心配だ。
すると診察室の奥の通路からひょこっと武藤さんの顔が除く。
「黒住先生、先程の方とどういう関係なんですか?やけに仲良さそうでしたけど」
武藤さんが怪訝な目が痛い。
やばい。
行きつけのコンカフェで贔屓にしている子だなんて、とても言えないアラサー女医がそこにはいた。
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