第4話 出勤前ルーティーン

別の病院での外来を終えた次の日、私はやはりまた秋葉原に来ていた。


うえすぎ内科は割と患者が多いため、出勤前は少し身構えてしまう。


が、こうやって仕事をさせて貰えているだけやはりありがたいと思い直す。


まぁその前に出勤前ルーティーン、マジカルプリティドームにご帰宅といきますか。


「いらっしゃいませご主人様〜♡お嬢様〜♡」


甘い声が店内に響いた。


今日はキャストの誰かのバースデーイベントらしく、装飾が豪華だ。


キャストを祝いに客側そこそこ詰めかけていてやや混雑している。


「あ、ゆきちゃんせんせ〜!また来てくれた〜!ほんと好きだよね〜♡」


駆け寄ってくるまほよさん。ちゃんと出勤できているようで少し安心した。


表情も特に暗くなく、一見してストレスフルなようには思えない。


「やっぱりいつものやつ?コーヒーとトースト?」


いつものように水とおしぼりを持ってきてくれると、笑顔を振りまいてくれる。


医者と患者という関係は場としてあまりよろしくなく、しかも病院の外であるため流石に小声で耳打ちした。


「あれからどうですか?」


「あー。うーん、ちょっとましになった…かも?」


少し困り顔。手はお腹をなでている。


症状は不変ということか。薬を飲んで2日なら効いていてもおかしくない。


「そうですか。無理せずまた来てください、今日にでも。できることはありますから」


「ありがと先生」


力になれず申し訳ないという気持ちだ。


「あ、で、コーヒーとトースト?」


まほよさんのぱっと明るくなった顔。いつものマジカルプリティドームでの顔があった。


「お願いします」


無理につくったであろう笑顔で踵を返し、キッチンに戻っていくふりふりの後ろ姿を見送る。


何も出ない自分の無力感がテーブルに残った。

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