第12話

 門から悪魔がどんどん出てくる。低級ばかりだけどしばらくしたら上級の悪魔も出てくるはず。これでいい。これでいいんだ。

「自身の目的とはいえ、学びを共にした人たちと校舎を犠牲にするのは心が痛むね。」

低級悪魔の量もかなりのものになってきた。コレであいつらも怖くないな。



「もう始まったか!」

まずい。一体一体は弱いが広範囲を攻撃する手段が私にはない。

「てりゃぁぁ!」

神代が手を向けた方にいる悪魔が一気に一箇所に集まり、潰れた。

「さすが、神代君。朽浦のところにいるだけのことはある。」

「そういうのは後にしてください。今は門を閉じることだけを考えて!」

「確かにね。上級の悪魔が出てきたらまずい。」

しかし、どうする?ここで門を閉じるにはどうすればいい?

「………神代君の奥の手なら門を破壊できるかい?」

「………できる、と思います。」

「え?!それ、本当?」

「できるとは思いますが、少し時間も必要です。あと、他にも個人的な問題があって………」

「時間はどうにか稼ごう。……それで、他に私ができることはないか?」

「失敗したら鬼哭には会わせたくない人が出てくる。もしそいつが出て来たら、俺を殺してでも止めてくれ。」

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悪魔がどんどん出てくる。避難所……いや、体育館といったっけ。そこにどんどん悪魔が近づいてくる。

「お嬢、早く解決してくださいよ。」

『花籠女』それが妾の能力。籠目模様の結界により対象を閉じ込め、かごめかごめの遊びを模した儀式で対象に強化、もしくは弱体化させることができる。儀式の終了と共に結界は崩壊する。

儀式さえ始めなければ、しばらくの間は必ず結界に閉じ込められる。一見、無害そうな能力だけど、そのまま結界を遠くに飛ばす、もしくは潰せば攻撃ができる。

「花籠女」

目についた全ての敵を結界で閉じ込め、そして潰す。

一度に数百体は流石に疲れるね。…………呪縛霊界を使うか?いや、やめよう。流石にこれは最後の手段だ。

みんな殺しちゃうからね。

けど…………困ったなぁ。はぁ。どうしよう。どんどんくるよ。

「霜懺悔」

霜が降り始めた。どんどん降ってくる。綺麗な光景だった。

綺麗な光景とは真逆にどんどん悪魔が倒れていく。

「………手伝わせてください。生徒に被害を……出したくないんです。」

この子は、優しいね。お嬢とは大違いだ。

「よろしく頼むよ。境華ちゃん。」



屋上についた。そこには夜桜夢冥がいた。

「遅かったじゃない、朱輪有栖。」

「そうだね。少し寄り道してたからね。」

「寄り道してたから、こんな被害を出しちゃったの?最低だね。」

「他人より自分の事を優先するのが人間だよ。そう。だから私は悪くないし、おかしくもないよ。」

夢冥は有栖を睨みつけている。

「それで、上級悪魔はどこだい?いないならいないで作業がしやすいからいいけど。」

「ああ、そうだった。出ておいで、血の魔神。」

空が赤くなった。雰囲気が変わった。何かこの世に出てきちゃいけないものが出てくる。

………まずい。

「神代任せた!!」

「はい!」

門から出てきた赤い巨体が潰れた。

「やった!やりましたよ、有栖さん。」

「待て!様子がおかしい。」

潰れた巨体がどんどん再生していく。

「何?!」

「有栖さん、これまずくないですか?これほど再生力が高いと今の火力じゃ無理ですよ!」

「確かに無理だね。あれはやばい。」

巨大な顔をこちらに向ける。顔の穴から巨大な球体を作る。

「来る!」

巨大な球体が割れ、勢いよく血液が流れ、校舎や木々を薙ぎ倒していく。

「はぁぁぁ!あんなのアリなんですか?!再生怪人は弱いって相場が決まってるでしょ!」

「だから言ったでしょう!あれはやばいって!」

「で、どうするんですか?こいつを足止めしてたら他の対処なんてできませんよ!」

「よそ見するな!」

血の魔神は有栖たちのいたところ血を勢いよく水圧カッターのように放つ。有栖は神代の背中を勢いよく押し、神代を庇う。そのため、有栖の両腕は切断され吹き飛ばされた。

「………クッ」

「大丈夫ですか?!有栖さん。」

神代は声を荒げて言う。

「ああ、大丈夫………」

有栖は自身の肉体をパッと直す。直したはずなのに顔色は悪い。

「神代、私から離れろ!」

神代は有栖の言葉を聞き、すぐ離れる。その瞬間、有栖の腕から血が爆発したかのように弾ける。

「クソッ……まさか、こんな……」

まずい、血が体内に入ったら治療しようが関係なく、自身の体内の血の支配権が取られる。

「攻撃は絶対に喰らうな!絶対だぞ!」

有栖の頭が一瞬グビッと動き、次の瞬間頭が破裂した。

「………あ、有栖さん。そんな演技いいですよ。」

そう神代が言うと、どんどん有栖の体が再生していく。

「あ〜あ、バレた。」

そう言うと、有栖は自身の首に注射器を差し込む。

「ふざけないでください。身体そのものが完全に消滅しない限り、あなたは死なないでしょう?」

「そうだね。………けど、対処法は思いついたよ。結界式 演算!」

結界が構成されていく………が、完成はしなかった。

バンっと音が鳴り、結界の大部分に穴が空いたからだ。

「私のことを忘れてるんじゃないか?」

「クソッ。………やられた。」

結界が崩壊した。ボロボロと崩れていく。

「邪魔をするなぁぁぁ!」

神代は夢冥の足を潰し、三キロ先まで一気に吹き飛ばした。

「もう一回いけますか?結界式。」

「しばらく時間が必要かな………普段使ってるのと違うから、かなり負荷がかかってる。……ごめん。」

「それで……作戦っていうのは?」

「それはね…………」



境華ちゃんのおかげでだいぶ悪魔の処理は楽になった。

しかし、どんどん悪魔どもが来る。数もあまり減らない。

「まずい……ですよね?これ。来る数は……変わらないのにこっちの体力は…………どんどん減っていく。このままだと………守りきれませんよ!」

確かにまずい。これで数がさらに増えたら………は?まずい。血の魔神がこちらを向いてる。お嬢たちは何をしてるんだ?!顔が、膨らんで………何かが来る!

「避けて!!境華ちゃん!」

体育館は飛んできた結晶に簡単に吹き飛ばされた。

妾は避けることができたが、境華ちゃんや体育館の中にいる生徒たちはモロにくらった。

「クッソ!やられた!」

生徒は死んでる?境華ちゃんはどうなってる?

音がした。人間のじゃない。金属……ではないな。

パリン。パリン。

まさか……結晶?

どんどん音が大きくなっていく。

急に巨大な影が妾を覆いつくす。妾は顔を上げ、敵を見る。

敵は綺麗な結晶で身体を作っている。鎧のように結晶を変形させている。

「花籠女!」

とりあえずデバフ?なるものをかけて足止めを………よし、成功。鈍化させることができた。

けど、攻撃力が高くない妾じゃここからどうにもならない。ジリ貧だ。

意識が途絶えた。


何をされた?ああ、結晶で作られた斧で吹き飛ばされたのか。

右腕がなくなっている。

どうする?やはり呪縛霊界を使うか……

もう他の生命のことなんて考えてられないもんね。

よし、やろう。

「呪縛霊界『うろ…」

「おいおい。まだ諦めるのは早いんじゃないかい、月華。」

男に肩を叩かれた。誰だ?

「ああ、ヴァンか。どこに行ってたのかのう?」

「ああ、道に迷ってたんだ。すまない。実は昨日の時点で鞄から出てはいたんだけど、迷子になっててね。わんころのおかげでようやくここまで来れたんだ。」

「こいつ……。まあいいや。じゃあさっさと代わりにあいつを殺してくれるとありがたいのじゃが。」

「ああ。そのために、ここに来たんだから。」

白髪のボブで少女のような見た目の軍曹は形を常に変えている結晶の怪物を見ている。

怪物はこちらに気付き腕で薙ぎ倒しに来る。

しかし攻撃がとどく前に腕は捻じ切れた。圧倒的だった。妾とは、そもそも能力の出力が違う。そこはやはり、生前の行い。積み上げてきたものの差だろう。

「大したことないね、結晶の怪物。さっさと魔界に帰ってください。そうしてくれたら、命までは取りません。ですからーーーーー」

「………ふざけるな。舐めるんじゃないぞ、クソ尼!」

「………へぇ。この悪魔、喋れるのか。」

「僕は人間界に来たかっただけなのに、どうして君たちは邪魔をするんだ?」

「うるさいですね。そんなことどうでもいいよ。来るんだね?じゃあ……殺すしかないじゃないか。」

空気が重くなった。しかも薄暗い。まさか………

「呪縛霊界『否歪盃歪ひゆうがさかずきのひずみ』」

結晶の身体が片っ端からどんどん捻れていき、そして切れた。胴体以外の全ての部位を捻り、手のひらサイズにまでした。

「やっぱり弱いですね。これなら、私はあの赤い巨人を警戒するだけで良さそうだ。」



「それで、どうするんです?かなりまずい状況でしょう?あっちも!」

「一旦、境華たちと合流する。さっき話した通りだ!お前が撃ち漏らさないように血液を撒き散らさないようにする。」

「それはさっきも聞きましたよ!けど結局どうするんですか?まさか身体の一部だから回復させまくればいいとか言いませんよね?」

「……よくわかったね。正解だよ。」

「アンタ何考えてるんですか?」

「流石に回復させまくるのだと限界があるから、境華の能力で氷漬けにしようと考えてたんだが……。」

有栖の言葉が止まった。それもそのはず。作戦の要として期待していた境華の死体が体育館の残骸の下敷きになっていたからだ。

「月華!ヴァン!何をしている?!さっさと境華を瓦礫の山から出せ!」

「お嬢。すみません。妾のせいで、彼女は………」

「そんなの後でいい。とりあえず身体さえあれば蘇生はできる。ここで血の魔神の処理ができなくなる前に蘇生をしないと!」

「落ち着いてください、有栖さん。彼女なら今、僕がすくいました。脈がないですよ。どうするんですか?」

「大丈夫。魂は……よかった。特に損壊はない。じゃあ蘇生するね。」

瓦礫に潰され、すりつぶされた果実のようになっていた半身が元通りになっていく。

「大丈夫か?境華!境華!目覚めろ!」

瞼が少し動いた。

「よし、蘇生は成功。血の魔神がこっちに攻撃してきても防げるように警戒しとけ!月華。」

「わかりました、お嬢。それでお嬢はどうするんです?」

「ヴァンを殴って来る。」

少し遠くにいたヴァンのところまで有栖は走った。

「ヴァン、何してる?仕事をしろ。」

ヴァンは膝の上に知らないやつの頭を乗せ、寝かしている。そして頭を撫でて髪を整えている。

「あ、お嬢様。こいつ、どうにかなりませんかね?さっき私が倒したんですけど、それからなんか懐かれたようで………」

「なんだ?それ。今はそんなこと言ってる場合じゃないんだぞ!」

「そこをなんとか、お願いしますよ。そうだ。こいつ、結晶を出せるので今後も戦力として使えるかもしれないですよ。」

「……仕方ない。おい、悪魔。お前は何がしたいんだ?」

「ぼくは人間の文化を知りたい。そのために来たんだ。」

有栖はそれを聞くと笑みを浮かべ言った。

「……面白い。いいよ。契約しよう。こんな珍しいヤツをこのまま処分だなんて勿体無い。せいぜい私の役に立てよ。」

有栖は手を噛んでから悪魔の頭の上にのせたとたん、紫色の光を発し始めた。

「……ああ、そうだ。名前決めてないと。結晶が出せるらしいし………お前の名前はホージャだ。いいよね?ヴァン。命令権はお前にやるからあとはすきにしろ。」

「ありがとうございます、お嬢様。」

「相変わらずのお前のなるべく不殺にする主義と子供趣味にはうんざりするよ。」

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