第10話
「少し時間を稼ぐ。みんなを避難させて。お願いね。」
「……お、お前は死んだはずだ。なぜ生きている?私が確かにこの手で殺したはず。な、なぜだ?」
「さあ、なぜだろうね?そもそも私と君は初対面のはずだが。」
「ま、まさか別人?いや、そんなはずはない。別人ならこんなに容姿も声も魂まで同じはずがない!お前は何者なんだ!」
「何者、だって?決まってるじゃないか!私は朱輪有栖だよ。オリジナルのね。」
「ま、まさか今までのは人形?いや。そ、そんなはずがない。人形ならば、あのように人間のような挙動をすることや自立して動けるはずがない!」
「どうしてそう言い切れる?現に今、目の前にいる人形師はそう言及しているのに。」
「お前は何を言っている?お前は本当に本物なのか?人形じゃないのか?そもそもどうして人形風情が魂を持っているんだ!」
「面白いな、君の反応は。ネタバラシをしてあげるよ。これから何もわからずに死んでいくのはかわいそうだからね。どこから話そうか。蒼のところからでいいか。少し長くなるよ。そもそも私たちは超能力について研究をしていた。具体的には、いや僕たちは超能力がどこに宿るかを研究していた。蒼は肉体を、瑞希は内臓……ああ、ここで言ってるのは普通の内臓のことじゃなくて、超能力そのものを発現させる器官のことね。そういうのを彼らは研究してた。そして僕、朱輪有栖は魂と超能力についての関係について研究をした。勝算はあった。怪異や幽霊が使う能力はどう考えても肉体じゃなくて魂によるものだ。そう思って、まずは呪霊から捕獲を始めたんだ。」
「何を……言ってるんだ。」
「弱い呪霊同士を共食いさせても何も起こらなかった。弱い魂にはそもそも超能力は宿らないということがこれでわかった。次に私は強い呪霊同士を共食いされた。しかしこれも満足のいく結果ではなかった。どれだけ喰わせても能力の数は増えないし出力も少ししか上がらなかったんだよ。そして私はたどり着いたの!そもそも魂に宿るのなら全て混ぜてしまえばよかったの!そうしたら能力を複数持ってるわけではないんだけどね、能力が変化したの!入れた魂の割合通りに。これってすごいことなんだよ。」
「お前、頭おかしいのか?」
「君に言われたくないな。あ、続きね。魂そのものに能力が宿る場合もある。それがわかったのはよかったんだけど、そもそも魂の作り方がわからなかった。だけど、それも解決したの。低級の幽霊や呪霊のおかげでね。あいつらを擦り潰して、その後捏ねてうまく形を整えて能力を文字式で刻んだらできたの!完璧な魂が!そこからは早かったわ。人形に魂を宿らせたり、異能生命体を作ったり。楽しかったなー。」
「なんだ……お前。」
嫌悪感が込み上げてくる。人生で一度も感じたこともないくらいの。私は魂を食べたことはある。しかし、それは自身の糧となると実感するからだ。だから感謝もきちんとしてる。けど、こいつは自身の享楽のためだけに魂を弄んでいる。悪魔の私が言うのもなんだが、気持ちが悪い。
「おっと、長く語りすぎてしまったね。じゃあ、殺し合おうか。」
「そ、そうです……ね。」
……………本当にこいつは人間か?人間なのか?
いや、今はそんなことを気にする必要はない。どこまでいってもこいつは人形師。人形を入れてるはずの鞄を初手で潰せばいい。
「朱 蒼 白 黒 」
何を言って……………いや、結界式の詠唱か!まずい。
「明く 暗く 愛憎の檻 永遠の宝玉 」
こっちも結界式を使うしかない。こいつの結界式にどんな追加効果が付与されるかわからない。
今までのことをこんなやつに邪魔されてたまるか。私も詠唱を始める。
「高嶺 雪 星 向日葵 表裏 」
「幽玄の境界 盃の星 」
「梅 杏 薊 薔薇 」
『結界式』
「展開!」 「演算」
世界が変わる。私の世界に変わる。あの日の光景に。
「なんでだよ。悪魔のくせに教会みたいなもの持ちやがって。キモいな。」
「朱輪有栖、お前は結界を展開をするのに失敗したみたいだな。」
「……それはどうかな?」
「まあいいよ。死ね!」
私が結界式にした命令は結界内にいる者に魔術による攻撃の必中化、そして結界内に舞っている氷で作られた桜の花びらに私の空間魔術の効果を付与。
こいつは結界を展開できなかった。結界式が重なりあった場合、同じ命令内容は打ち消し合う。しかし、そんなことは起きない。必中の攻撃に身体を徐々に破壊されて死ね。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
「は?!」
「結界式を使う先輩として助言してあげるけど、結界内にいるかどうかはきちんと確認したほうがいいよ。」
「何?!」
「そんなのことも考えなくていいよ。だってもう君は負けてるもの。」
「ふざけるな!」
バンッ!朱輪有栖が持っていた鞄を消したぞ。これで、あいつに攻撃手段はない。ここは逃げて体制を………………
なんだ?この手の平のヒビ。まあいい。結界式を解除してここから逃げーーーーーーー
「花籠女」
「?!」
突如として、足元から網目状の檻?が出現した。
誰だ?この声は朱輪有栖のものではない。
かごめかごめと歌が聞こえる。くるくる着物をきた人形が籠の周りを回ってる。
「この程度の足止めで……」
ピキッ。手を見る。ヒビが肘にまで伸びていた。
「ばいばい」
朱輪有栖が手を振っている。誰に?私にか?それは、どういう?
後ろの正面だぁれ、だぁれだ?
網目状の檻は崩壊した。
同時に身体に穴が空いた。手の穴には目と蜘蛛の足のようなものが見える。
「こんな……こと、今までなかったのに。まさか……転移先の空間を食い破ってきたの?」
ヤダ。来るな。来ないで。
それは私の身体をどんどん食い破ってくる。右腕はもう動かない。痛い。痛い。痛い。痛い。
死にたくない。まだ死ぬわけにはいかない。私は、彼の方に、桜様に名前をもらうんだ。
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