第5話

 「メンゴ。かなり遅れちゃった。」

そう言いながら星川さんが集合時間より十五分ほど遅れてきた。

「どうして……遅くなったの?」

私は一応報告書のために質問する。

「行く途中でねぇバスが事故ってたんだよね。タクシーから降りて確認してみるとね、驚くべきことに中には何もなかったんだよ。人も死体も事故の原因と分かりそうなものまでなかったの。で、その後にねタクシーの人に聞いたら『ここらへんで事故なんて珍しい。何かあったんじゃない?神隠しにあったとか。』って笑いながら返してくれたんだよ。面白い人だったなぁ。」

「つまり……特に関係のない……ところで時間を…潰していたってこと?」

「ま、待ってよ。これあげるから見逃してくれない?」

星川さんは手に飴を持っている。そんなものに釣られるわけ……ないでしょ。

「しかた……ないですね。上司には報告しないでおきます。」

「ありがとう。持つべきものは良い友だね。」

「そう…いえば、朱輪さんには………会わなかったの?」

「う、うん。確かに会わなかったし、見なかったな。あの人、転移でもしたのかね。」

「できないんじゃない。できるなら……ここまで来るまでの道に……愚痴なんか言わないんじゃない。」

「どうかしましたか?」

突然後ろから声をかけられた。

「う、うわぁ。ってなんだ黒崎副会長か。脅かさないでくださいよ。」



 私たちは神無ちゃんと生徒会室に向かっている。なぜか雰囲気が悪い。彼女の纏うオーラというかそういうものがよくない方に進めているのかもしれない。ここは空気の読める私がなんとかしなきゃ!

「神無ちゃんは夢冥ちゃんのことをかなり信頼しているようだけど、過去に何かあったの?」

「それ、答える必要あります?」

「『私は神様じゃないし、人の心もわかんない。けど、少しでも知るための努力はできる。だから、教えてくれ。』とか、かっこよく言ってみたけどね。本当は君たちの関係に興味を持っただけ。大丈夫。笑ったり、軽蔑したりしないよ。」

「仕方ないですね。教えてあげます。僕は家庭の事情が複雑で、そのせいでずっとイジメられてきたんです。そんな中、僕のことを助けてくれたのが会長だったんです。会長は、僕にとっての輝ける星なんですよ。」

「そうなんだ。じゃあ大切にしないとね。」

「あなたたちにはいないのですか?僕にとっての会長のような存在は。」

「私には一人だけいるよ。病気の時に助けてくれたの。今でもあの人は私の憧れだよ。」

「境華さんは?」

「……え?私…ですか?…その……あの…朱輪さんとか、ですかね。…褒めて…くれたので。」

「え?」

「人の価値観は色々だから。あんまり気にしないでいこう。ね!神無ちゃん。」

「あ、はい。」

神無ちゃんはきちんと作法に則ってドアを開ける。やはり育ちがいいのだろう。

「会長、星川さんと霜山さんを連れてきました。」

「お疲れ様。では、霜山さん、星川さん報告をお願いします。」

「は、はい。えっと…まず、昨日は朱輪さんと私で協力して学校にいる黒幕の眷属は多分全滅させたと思います。あとは、生徒に流出した転生石を回収するだけです。」

境華ちゃん、きちんと報告できてる。よかった。

ーーーーーーーーーーーーん?あれ?さっき夢冥ちゃん、星川さんって言ってたよね。

もしかして私も報告しないといけない?

「霜山さん、報告ありがとうございました。星川さんは別行動をしていたようですが、何をしていたんですか?」

あ、ヤバ。夢冥ちゃんそのこと聞いてきた。ど、どうしよう。特に何もしていない。…………仕方ない。大人しく言うか。

「私の能力と境華ちゃんの能力は相性が悪いので私は帰って寝てました。」

「特に、何もしてなかったんですね?」

「はい。組織に昨日のことを報告したくらいだよ。」

「……そうですか。具体的にどのように報告したんですか?」

「えっと、有栖さんと境華ちゃんが転生石の流出源を排除するために残業しているって伝えたんだよね〜。」

「そうですか。」

「あ!そういえば、ここに来る途中でバスが事故ってたのを見たよ。夢冥ちゃん何か知ってる?」

「………………知りません。そんな事故があったのはこれが初めてなので驚きはありますが。」

「何をおしゃっているんですか?会長。二ヶ月前にあったじゃないですか。学園に続く道で。」

「えっと……ああ、あれのことですか。あれは確か生徒と車がぶつかったのでしたよね?」

「はい、その通りです。」

「すみません。こんなこともすぐ出てこないなんて、私、疲れて…いるのかもしれませんね。今日は休ませていただきます。」

「わかりました。石の回収は僕と他の二人でやっておくので会長は休んでください。」

私は少し違和感を持った。神無ちゃんと夢冥ちゃんの関係は仲が良いというより、

もっと他の……




 ドアからコンコンと音がした。

「どうぞ。」

「久しぶりです、熊太さん。三年ぶりですか?」

「つい最近会ったよね?」

「それは本当に『私』ですか?」

「ああ、そういうことか。じゃあ予定通りにいかないね。成功報酬の額下げても良いかい?」

「そんなのどうでもいいので話を聞いてください。実はあなたにお願いしたいことがありましてーーーーーー」

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