第3話
「深夜、三階の理科室で転生石の取引ができる白いヒトガタが出現する、ねぇ。胡散臭っ!そうは思わない?霜山。」
「そう…私も思いますけど、その……今は任務に集中しないと。」
「そうだね。じゃあ、予定通りにお願いね。その間にボクは確認できた怪異を殺していくから。」
ボクは理科室に入り、噂が本当か確認する。
………いた。角にある人体模型の隣に白いのがいる。ボクの方を見てきた。なんだ、予想してたのよりしょぼいな。こんなのに生徒会の連中が苦戦するとは思えないけど………何か隠してたりして。まあ、そんなことはどうでもいい。とりあえず殺そう。ボクが殺意をぶつけた瞬間、白かった体が黒く変化し始めた。
「なるほどね。今までのは戦闘形態じゃなかったのか。」
変化し終わった。刹那、黒いヒトガタの怪物はボク目掛けて走って来る。その腕には黒い稲妻が散っている。ボクは鞄を床に置いた。その瞬間、鞄が独りでに開き、そこから銀色の狼が出てきた。
「行け、ロウ。」
主人である『私』の声を聞き、敵に向かい始める狼。一瞬だった。狼のロウが黒いヒトガタだったものの頭を咥えてくるまで。
「よくやったね、ロウ。今度仲間を新たに増やしてあげるよ。僕の可能な範囲でね。」
ボクがそう言ったからなのか、首元をわしゃわしゃしたからかわからないがとても喜んでいた。
「こいつらの匂いは覚えたね。よし、行け!」
僕はロウに命令した。僕の期待に応えて欲しいな。
できないのなら、新品に変えるしかないし。頑張って欲しいな。
トゥールルル トゥールルル
「もしもし。準備できた?」
『はい。……あの、死なないように気をつけてください。』
「ボクが死ぬわけないだろ。ボクが行くまで出力をあげすぎるなよ。何があるかわからないからな。」
『はい……わかりました。』
しばらくして、霜が降り始めた。学校の敷地全体でその変化が見られる。しかし、それは少し、というかかなり常識的に考えておかしいことがある。それは、屋内なのに霜が降っていることだ。
「朱輪さん、遅いな……私が場所変えたの………伝え忘れたかな?体育館にいること……伝えない、と。」
電話をするために携帯のアプリを開く。しかし、繋がらない。さっきは繋がったのになぜ?まさか、朱輪さんに何かあったのかも。早く合流しないと。
私は急いで体育館を出て、さっきの理科室を目指して走った。階段を急いで上がる。
そのことをすごい後悔している。階段を昇った先には影でできた巨大な蜘蛛がいた。うわっ。嫌だ。見たくない。怖い。怖い。怖い。ヤダヤダヤダ。
蜘蛛は顔を私の方に向ける。……何かくる。口から糸を吐き出してきた。
キモっ。私を拘束するために出したのだろうが、私に届く前に溶け落ちた。こういうのにも私の能力は有効なのか。知らなかった。なら、距離をとってひたすら霜漬けにしてしまえば私の勝ちだ。
とりあえず、後ろに……って後ろは壁だ。しまった。どうしていつも私はこうなんだ。
ーーーーーーークソッ。蜘蛛がもう一度糸を吐いてくる。けど、大丈夫。
さっきと同じ速度なら……って速っ!私は傘をさしていてうまく動けず、
糸で壁に拘束されてしまった。
うまく動けない。ネバネバしていて身体に巻き付いてくる。気持ち悪い。
………ああ、またやらかしてしまった。また自分のことが嫌いになりそうだ。
また……自分は役立たずなのか。
……そうだ。どうせ死ぬならみんな道連れにしよう。
蜘蛛が近づいてくる。食べるために傘は邪魔なのでだろう。蜘蛛は傘を足で弾いた。
ああこんなことになるならこんな依頼受けるんじゃなかった。私は全て諦めて能力の出力を最大にしようとした途端糸の拘束が緩くなった。
強度が高かっただけなのか?いや、それとも傘が弾かれて霜に触れる面積が増えたから?
ーーーーーーーーーーーーーーまあいい。とりあえず出力を上げてもっと脆くして抜けよう。
私の能力『霜懺悔』は、霜に触れるものに無差別に毒を付与する。私にリスクはあるけど生き残れるなら………やってやる。糸がさっきと比べて格段に脆くなった。けどこれじゃ抜け出せない。早く。もっと早く。もっと。じゃないと殺される。私は必死に壁を蹴り拘束を破った。ドロドロと溶けた糸が体にこびりついている。最悪。最悪。最悪。殺す。必ず……私の手で殺してやる。私は傘が弾かれた方に走る。蜘蛛は糸を吐いてきたが、私の毒のせいですぐ溶け落ちる。故に私まで届かない。傘を回収できた。こいつを殺すのに毒だけしか使わないなんて私の気が晴れない。満足しない。私は傘型の鞘から刀を抜く。周りの霜を刀に収束させ、細い頭身が太くなり、色も澄んだ白に変化した。蜘蛛はそんなことは気にせずどんどん近づいてくる。糸を吐いてきたがもう関係ない。私は強靭な糸を斬り伏せ、さらに霜の毒で糸を跡形もなく消滅させる。しかし、蜘蛛は止まらない。所詮、黒幕の操り人形なのだから考えることもできないのだろう。無策に突っ込んでくる。
「死ね!」
私は蜘蛛の脳天に刀を刺し、その後中心に向かって斬り、毒で跡形もなく溶かした。
境華は蜘蛛だったものを下にして座り込んだ。安心したからか、蜘蛛が溶けることによって体勢を崩したからかわからないがさっきのように殺意がこもった表情はしていなかった。
「やればできるじゃん、境華。」
階段を降りながら労いの言葉を与えてながら有栖が来た。
「遅い……ですよ、朱輪さん。もっと…はやくきて………くださいよ。」
「ごめんごめん。足止めをくらっちゃってね。君の毒の効力が上がったおかげで楽に倒せたよ。ありがとう。」
有栖は普段人を褒めるようなことや素直に感謝することははあまりしない。そのことを知っていた境華は頬に涙を流す。有栖は境華の自己肯定感を高めるために言っただけかもしれない。しかし、人生で数えるほどしか褒められていない境華にとって、その指で数えられるほどしかないそれはとても喜ばしいことだった。宝物っと言ってもいい。
「ボクが君を治すから気持ちの準備ができたら、また霜を降らしてね。」
「………はい、朱輪さん。」
朱輪さん、足止めなんて嘘どうして?けど………褒めてくれたし、目を背けよう。私には褒めてくれる人なんて、誰もいないのだから……。
少しだけ、少しだけ……この幻に浸っていたい。
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