第2話

 「思ったよりも時間をくってしまったな。」

ボクは目的地である咲花学園に向かった。かなり山奥にあり、冬の寒さと合わさって少しきつい。少しずつ重くなっていく足を動かし、ようやく着いた。次来る時は車を使おうと思った。

 校門には警備員が数名おり、事情を話したら中に入れてもらえた。



 この件については先に生徒会と共に霜山たちが調べてくれているという話だった。あいつらがそんなに早く調べ終わるとは思えないが、情報共有したもらわないと話にならないからなーーーーーーーまずは合流しないと。

 校舎の設計図をもらえなかったので地道に探すしかないのだが、いい感じの(気弱で親切そうな)人はいないだろうか?おっとあそこにちょうどいい生徒を見つけた。

「そこの君。そう、君のことだよ。聞きたいことがあるんだけど……」

ボクがそう言った途端、少女は逃げ出した。ボクの聞き方が悪かったのだろうか。最近麻痺してきていたが、人一人入る大きな旅行鞄を持っている人は普通怪しいもんね。

………ん?でも、ここの生徒なら不審者が簡単にこの学校に入れないことは分かるはず。見慣れない格好、つまり制服ではないから逃げたのかな?

もしかしたら事件の関係者かもしれないな。少し追いかけるか。

「あ!有栖さんじゃん。来るのが遅いよ〜〜。」

後ろから聞き覚えがある声がした。振り返るとそこには霜山と星川が立っていた。

……ッチ。タイミングの悪い奴らめ。

「有栖さんも聞き込み調査してた感じ?」

金髪のロング。それと特徴的な八重歯。間違い無い。こっちが星川か。

「違うよ。君たちと合流するために場所を聞こうとしたら逃げられたの。」

笑顔で返答する。こいつらにはボクが長生きするために働いてもらわないといけないんだ。ここで変に悪いイメージを持たれたらまずい。だから、この行動をした。

ああ、気持ち悪い。自己保身に真っ先に走った自分が。心の底からおぞましいと思った。

「ヘェ〜そうなんだ〜。けど、逃げた子の気持ちもわかるかな。そんなに大きな、しかも得体のしれない何かが入ってる鞄怖いよね。」

「そうか?そんなに怖いのか?こいつら。」

星川との会話は疲れる。こいつのノリに合わせるのはめんどくさい。

「中に入っているものを知っている私たちですら怖く感じるよ。」

「そうか。普通はそうなんだね。ところで君たちは先にきて何をしていたの?」

「転生石についての噂と流通させてる人物について調べてたヨー。ね、境華ちゃん。」

「そう……だね。それ、くらい……しかなかった。」

こっちの気弱そうなのが、霜山だっけ?私の記憶はあくまでボクにとっては教科書に書かれた歴史のようで実感がまるで湧かない。

「生徒会と調査してたのにそれだけか。少し悲しいけど、仕方ない。ボクも調査に加わる。」

「そんな……ことして…いいんだ……。朱輪さんは…ここで仕事を………すべき人じゃない……でしょう?」

「そんなことないさ。君たちの実力じゃ、この件は対処できないって上が判断した。それでけだよ。」

「わかったからさ〜〜早く生徒会室に行こうよ。有栖さんにも会わせたい人がいるの。」



 「お初にお目に掛かります。ボクは朱輪有栖と申します。生徒会の皆さん、よろしく仲良くしてください。」

「変わった人ですけど、信頼できるんですか?夜桜生徒会長。」

黒髪のボブに和服の少女が偉そうに座っている灰色の髪の女に語りかけた。

「大丈夫ですよ。癖はあリますけど、依頼していた追加の協力者の人ですよ。……ちゃんとね。」

「単刀直入に言うとね、早めに対処しないと大変なことになるとうちの上司は予測してきた。熊太さんの予測したことはほぼほぼ確実に起こる。つまり、我々は早急に事件を解決しなくてはならない。そのために集めた資料を見せていただきたい。」

「わかりました。会長、資料を見せてもいいですよね?」

「……構いません。」

配布された資料には転生石についての噂と怪しい人物がまとめられていた。

「これだけか。噂っていうから怪異とかだと思って身構えていたが、まさか本当にそうだとはね。ここまで予想通りだと逆に拍子抜けするね。で、噂についてはどう考えているんですか?生徒会のおふたり。」

黒髪の方が不機嫌そうに答える。

ああ、いけない。いつもの癖で。なんか、いつもこうなっちゃうんだよな……やっぱり、遺伝なのかな?

「僕は噂は全てデコイだと考えています。黒幕は調査する人たちを罠にハメて時間稼ぎがしたいのかもしれないです。」

「そういう感じか。」


「ねえねえ。境華ちゃん、怪異が転生石を与えてるんだよね?どうしてそれが罠になるの?」

 有栖の後ろで沙絵がコソコソと境華に聞いている。小さい声で話しているつもりだろうが、丸聞こえである。

「多分……オンオフの条件を決めているんだと……思います。例えば………ある手順をきちんと守ったら転生石はもらえるけど……手順を少しでも間違えると殺しに来るとか。」

「……ん?まあいいや。ありがとう。大体わかった。」

そう境華たちが話している間にも有栖たちは話を続ける。

「こんだけ準備がうまくできてるってことは相当長く潜伏してた可能性がありますね。」

「そうだね。私たちも調べていたが、途中で書記の人がやられてしまってね。今は生徒会は三人で捜査している。」

「なるほど。戦闘要員じゃなければ、こんなものか。………じゃあ、ボクと霜山で明日までに噂の怪異を全て処理しますね。」

「……は?!」

後ろで驚いている境華を無視して、有栖は話を進める。

「ボクと彼女なら今夜中に怪異くらい処理できると思います。」

「僕はそうは思わないのですが。会長、いいんですか?」

「いいですよね。じゃあお願いします。」


「………あれ?有栖さん。私は?ねえ、私は?」

「お前は今回使いもんにならんから帰っていいですよ。」

「………えぇ。」



「………あの、悪魔って結局……なんなんですか?詳しく、知らないので……教えて……欲しい、です。」

「そっか、知らないか。」

「………すみません。」

「謝らないでよ。……まあそうだよね。いつもの仕事とは毛色が違うもんね。仕方ないよ。悪魔っていうのは、魔界から門を通じて、現世に出てくる生命体だよ。人間みたいな見た目のやつと明らかに異形なやつがいるんだよ。」

「違いはなんなんですか?」

「簡単に言うとね、普通に生物として繁殖するか、人間のマイナスの感情を元に構成されてるか、が大きな違いさ。」

「………他に特徴みたいなのは、無いんですか?」

「人間とか、そういったものと契約するってことかな。あと、名前を与えると強くなるとかだね。まあ、どうでもいいことだ。」

「朱輪さん……あの、その、なんであんなの討伐に……私…なんかを、貸し出そうと……したんですか?」

「『私なんか』っていうのやめなよ。君の生まれがどうであれ君は優秀な方だ。自己評価が低いのは直した方がいい。」

「……そうですよね。」

「今夜の怪異の駆除では君の能力をかなり頼りにしてる。だからとりあえず休みな。八時くらいになったら起こすから。それまでちゃんと休んでね。」

『ボクの』ためにな。ちゃんと休んでね。

「……わかりました。お言葉に甘えます。」

ボクの行為程度で、そんな綺麗な笑みを作るなよ………こっちが悪いみたいじゃん。

ーーーーーーーーーーーーーーこの子を利用するのはやめよう。きっとボクが保たない。



 しばらくして、一人の男がやってきた。

「少しいいかな。有栖くん。」

「誰?君。ここの生徒かい?私服のやつが多いのになんで学ランなんて着てるの?」

「古き良き文化を尊重しているのさ。最近の奴らはすぐに多様性やらなんやら言って昔のことはなかったかの用に扱う。そんなのムカつかない?」

「で、お前は誰だよ?しかも人ですらないし。」

「一一。君と同類だよ。」

「にのまえ……はじめ?聞いたことないな。どこで生み出されたの?」

「イギリスの方かな。そこは燃えてしまったけどね。」

「イギリス……にのまえ……ああ!あの家か。もう七年以上前のモノじゃないか。まだ稼働してるのがいるなんて驚きだよ。………ところで、何をしにきたんだい?話だけをしにきたんじゃないだろ。」

「監視と場合によってはイレギュラーの対処を命じられた。けど、人間ごっこにももう飽きちゃったし、一抜けしてちゃおっかなって考えてたところなんだよね。」

「……君さ、濁ってるよ。」

「はぁ。そりゃ見抜かれるよね。うん。仕方がない。

………僕の最終的な目標は腐ってるあの願望機を壊すことなんだけど、そのために戦力となる人間を探してるんだよね。この学園にはいなかったからね、早めに退散しようと思って。転生石も期待はずれだったし。」

「生徒じゃなく潜んでる悪魔でもなんでも仲間にすればいいじゃないか。どうしてそれをしない?」

「答えは簡単だよ。あいつの目的は復讐とか虐殺とかじゃない。ただ主人に会いたいと思ってやってる。なんという純愛っぷり焦がれちゃうな。で、転生石の方は聞かないのか?」

「え?ああ。どうせ願望機を殺せる性能じゃなかったってことだろ。」

「ああ、転生の時のステータス配分は自分で決められるけど、振り分けられる値は決められているからね。」

「まるで使ったことあるような言い方だな。実際使ったのか?」

「ああ、使ってみたが死ねなかった。あれの呪いを甘く見すぎていたな。」

「君は死にたいのかい?あれに復讐したいのかい?どっちなんだ?」

「あの願望機を殺せればいい。」

「しかしあれを殺す……か。貴重な情報をくれたんだ。お礼にいいことを教えよう。願いは生物からしか生まれないよ。つまり…………」



 八時になった。ボクは霜山を起こす。

「ふぁぁぁ。あれ?誰かと……会話してました?」

「いや。してないよ。」

「そう、ですか。」

「早く仕事を終えて飲み会にでも行こうよ。ボクの奢りでね。」

……あれ?ボクはどうしてこんなことを言っている?

どうして?こんなエラーを起こしてる?

さっきのニノマエって男は何もボクにはしてかなかった。

御母様はこんなこと絶対言わないのに………自分は、誰の真似をしてる?

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