小天体雲とは
【小天体雲の発見と衝突開始】
三百年以上前、世界政府の地球再生プログラムによって計画的な宇宙移住
が本格化した頃、天の川銀河の彼方より飛来したおびただしい数の
小天体群が太陽系と衝突を開始した。
その小天体群は、塵から小石レベルの大きさのものが最も多いが、中には
岩レベル、そして数十メートル以上の隕石が混ざっていることもある。
それらの自ら光を発することがない小天体は、人類に発見されることも
無く何世紀もかけて太陽系に近づいて来ていたのである。
最初に小天体群が発見されたきっかけは、遠くの恒星の観測情報が、
何かに隠されるように不鮮明になり、やがて観測不能になったことであり、
その正体不明の「雲」のような何かが接近していると騒がれる。
やがて、それがおびただしい数の小天体と判明すると『小天体雲』と
呼ばれるようになった。
その小天体雲の範囲は、太陽系全体よりもはるかに大きく、人類が太陽系
との衝突を食い止める術をもっていないのは明白で、それどころか、
地球や移住の開始されていた月への落下を止めることもできなかった。
そして衝突が開始から数百年経っても、小天体雲の発生のメカニズムは
分かっていない。
【小天体雲の特徴】
小天体雲は一様の密度ではなく、大きな岩レベルの隕石が多く密集した
部分もあれば、小石レベルの小天体が密に固まった部分、そして、
小天体がほとんどない部分が有るなど、かなりの濃淡が有る。
また非常に少ないが、直径数百メートルになる小惑星規模のものが
飛来することも知られているが、そのサイズのものが地球圏に近づいた
記録はない。
太陽系まで飛来してくる方向は、ほぼ一定であり、天の川銀河の中心方向、
つまり射手座の方向から飛来してきていることはわかっているが、
太陽系の外縁天体や小惑星帯の天体群と衝突をして方向を変えたり、
各種天体の重力影響によりコースが変化したりすることが有る。
また、小天体の密度の濃い部分が、高速で太陽系の外縁天体などと衝突を
繰り返した結果、衝突された太陽系内の小天体も、わずかに軌道を変えて、
太陽系内に入るコースになることもあり、太陽系内は混とんとした状況に
なっている。
【隕石嵐による被害】
地球の場合は、小さい隕石は大気圏で燃え尽きるため、大きな隕石
だけが問題となったが、宇宙空間の人工物や、月面基地などでは、
高速で飛来する小石が当たっただけでも、外殻に穴が開き、深刻な空気
漏れや損傷を起こし、多大な被害をもたらした。
その無数の隕石が降り注ぐ現象を、人々は『隕石嵐』と呼ぶようになる。
小天体雲の危険性が明らかになった頃には、すでに手遅れで、隕石に対し
て無防備な宇宙ステーションや、月面基地では多くの人が亡くなった。
隕石嵐による被害が深刻になると、月面の都市は地下深くに居住区を
設けるようになり、宇宙ステーションや、コロニーの外殻構造は、
分厚い金属で覆われるようになっていった。
そして、そのような対策を打っても、大きな被害をもたらす大きな隕石の
飛来が有ることを知ると、多数の隕石が飛来しても、それらを迎撃して
破壊することが必要と考えられるようになった。
【宇宙航行への大きな障害】
太陽系内各所に小天体が漂い続けていることで、宇宙を高速航行する
宇宙機にも大きな障害が生じている。
宇宙機が高速航行時に小天体と大きな相対速度で衝突した場合、
ごく小さな小天体であっても宇宙機の外殻などには簡単に穴が開き、
非常に危険なため、宇宙機は減速せざるを得なかった。
これは、宇宙移住を推進する世界政府にとっても大きな課題となり、
高速航行時警戒システムという、宇宙機の進行方向にある極小の
小天体を、自動迎撃で撃墜するシステムが開発され、このシステムに
関してはAIによる自動迎撃が許可された。
【SGの設立、隕石防衛の開始】
世界政府はスペースガード(SG)を設立し、隕石防衛の専門部隊として
宇宙ステーションや月面基地の防衛に力を入れるようになった。
各種の防衛装備品や宇宙防衛機が開発され、宇宙移住先に配備されていく
が、数多の隕石が押し寄せてくる中で、苦戦を続けながらも、
その防衛力を強化し続けてきている。
本来なら、AIにより飛来する小天体を自動的に撃墜するのが有効で
あるが、AIの開発・運用が法律で禁止されているため、大きな小天体を
撃墜するのには何らかの人間の判断が必要となっている。
その主力が宇宙防衛機と呼ばれる戦闘機風の宇宙機での隕石迎撃で、
ビーム砲または対隕石ミサイルによって、居住施設や宇宙ステーション
への隕石の墜落を防止している。
また地方政府下の保安部隊とは異なり、SG部隊は世界政府直轄の
組織であり、その活動費用は全額が世界政府の費用で賄われている。
これは、小規模な地方政府では十分な隕石防衛の組織を維持するのが
不可能であり、日々、技術開発が進む防衛装備を地方政府の費用で
更新するのは難しいからである。
宇宙移住計画を進める世界政府としては、移住可能地域の拡大は重要な
目標であり、火星などの地方政府が隕石防衛の負担によって移住地を
広げられないのを避けるためSGを直轄組織としているのである。
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