第38話

「……ヴェリルは、ユアンの魔法の先生なんでしょ? あまり年が違わない感じだけど」


「うん、僕も驚いた。先生は、十年前と変わってない気がする」


「ヴェリルは私より小さい男の子の姿にも、猫にもなれるのよ。ユアンもそんな魔法が使えるの?」


「まあ、できないことはないと思うけど。やったことがないから、なんとも言えないなあ」


そこで私はユアンを見上げた。たぶん彼も、同じことを思ったはずだ。


リリアナを人形にしたのはユアンだということ。

厳密には、リリアナの魂を人形に入れた、ということだけど。


「あの人形って、どこからきたの? 人形自体もユアンが出したもの?」


「いや。五年くらい前かな。人形店であの人形を見かけて、買ったんだ。銀の髪、緑の瞳、なんとなく表情まで、リリアナに似ていたんだよ。だから、あの人形をリリアナと呼んでいた」


ユアンは「聞いてくれる?」と、そのときのことを話しだした。


ユアンは魔法の修行で別世界へ行っていたときに、リリアナにそっくりな人形を見つけた。どうしてもほしくなり、姪へのプレゼントだと嘘を言い、人形を手に入れた。大人の自分が人形をほしがるだなんて、恥ずかしかったからだ。


それでも、人形と一緒にいるのが当たり前になった。リリアナと名づけた人形に、毎日声をかけることが日課となった。

リリアナがいたら、こんなふうに会話をしていただろう。リリアナがいたら、こんなふうに笑っていただろう。


けれど人形は返事をしない。笑い返してくれない。いつも微笑んでいてはくれるけれど……。


さまざまな魔法が使えるようになったころ、ある考えが浮かんだ。

もう一度、リリアナに会いたい。過去へ行けば、彼女に会える!


その考えは少しずつ形を変えた。


過去に行くなら、リリアナを救うこともできるのでは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る