第32話

ヴェリルは私を見おろして、短く息をはいた。


「リゼル、君はすでに傍観者ではない。当事者なんだよ。まわりをよく見てごらん。あのときも、あのときも、君はかかわっていたはずだ」


ユアンに助けてもらったのは、ユアンがガルデニアにきて、すぐのときだった……? あの日は雨が降っていたかしら……。誕生日よ。


そうだ、夜だ。夜になって、雨が降った。


記憶のない彼は、車に接触しそうになった私をーー。


ユアンはすべてを思い出したように、私の名前を呼んだ。


「リゼルを助けたときに、魔法を使った。時間を止めようとしたんだ。でも記憶がない僕は、当然魔法の使い方もわからなかった」


今ならわかると、ユアンは続けた。


「無意識に、時間を止めた。ほんの一秒。それを毎日、続けていたんだ。リリアナを救うために」


ユアンの姿がぼやけた。今の彼に、過去の少年の姿が重なって見えたのだ。


「僕は、偶然出会った女の子に、魔法のかけらを預けた」


二粒のローズクォーツ。あの夢の男の子は、過去のユアンだった!


「リゼルに預けた魔法のかけらは、少しずつ大きくなっている。君の中に……一秒が蓄積されているんだ」


私の中に、魔法が蓄積されているということ? だから、魔法に気づいたのか。

ヴェリルやリリアナ……不思議なことが起こったのは、きっかけは、小さなローズクォーツのような、魔法。

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