第16話
ユアンは黙ったまま、私を見ていた。
しばらくすると、彼の緑色の瞳は穏やかさを取り戻し、深いためいきとともに営業スマイルを浮かべたのだ。
「ちょっと、座ろうか」
私たちは公園に入り、近くのベンチに座って、お互いに相手の言葉を待った。
「店長は……人のことをぺらぺらと話すような人ではないか」
ひとりごとのように小さくつぶやき、ユアンは私を見る。リリアナではなく、私を。私はそれが嬉しかった。
「リゼルは……何か不思議な力でもあるの? リリアナとシンクロって? 女の子同士だから、通じ合うものがあるとか……そういうものなのかな?」
「ううん。私はただの女の子よ。なんの力もないわ。ヴェリルが……ヴェリルっていうのは、ガルデニアの精霊なの。猫の姿をしていたり、男の子の姿をしていたり、そのときによって違うんだけど」
私はルチルさんのことも話した。不思議な力があるのは、私ではないから。私は……たぶん、影響を受けているだけなんだと思うから。
笑われるかと思ったけれど、ユアンはあっさりと受け入れてくれた。
「店長も、何か不思議な力がある人だよ。……たぶん。僕にガブリエルという名前をくれたのは、彼なんだ。『君は天使に愛されているようだからね』って。どういう意味なんだろうね?」
「私もヴェリルに言われたわ。天使に選ばれたって。どういう意味なのかしら」
天使って、誰のことなの? その天使は、私とユアンに何をさせたいの?
リリアナはお人形になる前は、人間だったようだ。そのことは、ユアンには……まだ言わないほうがいいかもしれない。きっと、混乱するだろうから。
どうして人形になったのか。ユアンのそばにいたいから? 死んだら、人は何にでもなれるのだろうか。
ーーリリアナはどうして死んだの? リリアナは、本当に死んだの?
「ユアンは……リリアナのことは覚えてないの?」
「ああ。店長は僕と一緒に現れた、とか言っていたけど」
「それじゃ、本当に商品にしていいのね?」
「店長が決めたことだし」
ユアンは嘘をついている。リリアナの記憶がなくても、とても大事に思っているくせに。
「本当に、私のものにしてもいいのね?」
念を押すと、ユアンの視線が泳いだ。
「買ってもらっても、いいのね?」
「……本当のことを言うと、リリアナが君に買われたあとに……盗みに入るかも……と、心配はしている……」
「ユアン! どろぼうなんていけないわ。それなら、どうして売ることを許可したの?」
「リリアナは僕のものじゃないし。店長が決めたことだし」
ユアンは二十代真ん中くらいだと思っていたけど、今は同い年の男の子のように見えた。親近感がわいてくる。リリアナにシンクロしたせい? ううん、私は、はじめて会ったときから彼のことが好きだった。ひとめぼれをしていたのだ。
「ユアン……」
こんなことを言うのはどうだろうか。女の子から、子どもから、こんなことを言うのは。それでも、今、どうしても言いたかった。気持ちをわかってもらいたい!
私は立ち上がり、ユアンの目の前に立った。
ドキドキする。でもーー言っちゃえ!
「ユアン、私と結婚してください」
「えーーええっ!?」
ユアンは、今まで見てきた彼の表情の中で、一番幼い顔を見せた。目をまんまるにしているせいかな?
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