第14話

☆☆☆




そう、私は普通の女の子ではない。動かない、動けない、お人形だもの。

私はリリアナになっていた。


リリアナはいつもユアンを見ていた。子どものころから、ずっとユアンのことが好きだった。


彼も同じ気持ちでいてくれている。そう思えることは何度もあった。気持ちを伝え合ったことはないけれど、私たちは同じ気持ちを持っていた。


人としての生を終えた私は、生まれ変わるまでに長い時間をもらっていた。

その期間も終了しようとしていたときだ。私は旅立つ準備をしていた。これからは大好きな人たちを見守ることを仕事にできるのだ。それは喜ばしいことだと思った。


けれど、ユアンは私を追ってきた。

運命を受け入れられない彼は、みんなの制止を振り切って、過去を変えようとした。


過去を変えるなんて、してはいけないこと。諦めて。諦めて、ユアンーー!



「いやだ! 僕は諦めない!」



悲痛なユアンの声が耳にまとわりつく。私は彼から逃げた。


どこか遠くへ。彼が私を忘れてくれることを祈って。


そして、ここへきた。

ガーデニアの香りが漂う、緑の多い都市。ガルデニア。


私を追ってきたユアンは時空を超えたせいで記憶喪失になり、雨が降る中で行き倒れた。そこを、優しい人に助けられたのだった。



「君……どうしたの? 傘は? ケガでもしてるの? 動ける? 名前は?」



ユアンは軽く頭を振り、「ユアン」とだけつぶやいた。


「ユアン……姓は何? 覚えてる?」


「ーー覚えてない。ユアン……ユアンとしか、わからない」


「一時的なものかな。私の店がすぐそこにあるんだ。お茶でも入れよう。おいで」


雑貨店の店長だという彼はマクシミリアン・ギーズと名乗り、ユアンに寝床と仕事を与えてくれた。


「店の二階に空いている部屋があるんだ。そこを使っていいよ。うちの店は私一人でやっているから、手伝ってくれるとありがたいな」


私はユアンを見守ることにした。彼の記憶が戻ってから、旅立てばいい。


「この人形は君のかい?」


マクシミリアンは私を観察するように見た。


「え? ……いえ、知りません。ここの商品じゃないんですか?」


「うちの子じゃないねえ。最初から君と一緒にいたんじゃないのかな。ほら、どう見ても君になついている」


私は動けないけれど、少しの間だけでも、ユアンのそばにいたかった。その気持ちが、マクシミリアンには伝わったようだ。


「じゃあ、この子にも店の看板になってもらおうかな。名前はどうしようか」


「ーーリリアナ」


ユアンがつぶやいた。当たり前のように、私の名前を。


記憶がなくても、少しは私のことを覚えていてくれたのだろうか。ユアンと呼んだ私のことを。リリアナと呼んだ私のことをーー。

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