第12話

『ルチルは人間にしては勘がいいから。僕が意識を向けると、すぐに気づいてくれるんだ。それが面白いから、ときどき話すんだよ』


「だったら、その姿も見せてあげればいいのに!」


私が声に出すと、ルチルさんはびっくりしたように目を見開いた。


「ヴェリル、なんて?」


「う、うん……。ルチルさんと話すのは、面白いって」


あってるよね?


『僕が君に姿を見せたのは、面白いことが起こりそうだからだよ。君はただの女の子ではなく、選ばれた子だから』


選ばれた? 誰に?


『天使に』


「でも私、天使の姿は見えないわ!」


「なんなの? ふたりだけで話してないで、私もまぜてよ!」


ルチルさんが子どもみたいに、感情をむきだしにしている。


「あ、ごめんなさい。どう言っていいのか、私にもわからなくて」


ヴェリルは突然、猫の姿になり、私を驚かせた。マジックショーで、スカーフがステッキに変わるような、一瞬のできごと。煙も出ないし、効果音もない。まばたきをした、ほんの一瞬だ。


ーーあの雑貨店へ行こうよ。


猫が直接、頭の中に語りかけてきた。それはルチルさんも聞きとったようで。


「そうね。リゼル、運命の出会いがあったんでしょ? お店に着くまでに全部話してよ」


一瞬にして現れた猫には特に驚きもせず、ルチルさんは私が驚くようなことを言った。


「……ルチルさんて……何者?」


「私は普通の主婦でお母さんよ。不思議なことには精通しているけど」


普通の主婦でお母さんというのは、私のママみたいな人のことを言うんじゃないの?


「普通の人は、あらゆる不思議なんて見えないから」


「あら、リゼルだって見えるようになったんじゃない。魔法の一秒にだって気づいたでしょ?」


「あ! あの一秒ってなんなの? ヴェリルは、一秒を盗んだ人を探してるの? この都市の守護霊? 精霊? だったら納得できーー。あ! ルチルさんは天使は見えるんでしょ? それならヴェリルは天使ではないってこと? それとも、天使にもいろんな種類があるってことなのか……」


「その話はまた今度でいいわよ。リゼルの話を聞かせて」


私は雑貨店で働いているユアンに命を助けてもらったこと、リリアナのこと、夢で聞いたマクシミリアンさんとユアンの会話……歩きながら、それらを簡単に話したのだった。


夢はただの夢かと思っていたけれど、ルチルさんは真剣な表情でこう言った。


「リゼルは選ばれたんだと思うわ」


「天使に? 中央公園の守護霊に?」


私たちの前を行く猫のヴェリルが、振り返ってニャアと鳴いた。


『それって僕のこと? 僕のことはーーガルデニアの精霊ーーとでも呼んでよ』


ルチルさんが私を見て笑った。


「天使や守護霊はお気に召さないみたいね」


やっぱり、猫と会話はできるようだった。

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