第6話

「リリアナという名前です。気に入ったのなら、彼にうかがってみないとね」


マクシミリアンさんがちらりと後ろを見ると、トレーにお茶を運んできたユアンさんが、あきらかに動揺して私を見ていた。


「あっ!」


「え?」


「え?」


男性二人が、不思議そうな声を出す。私は慌てて、作り笑いを浮かべた。


「このお人形、お兄さんの?」


ユアンさんはマクシミリアンさんよりは若くてーー二十代真ん中くらい?ーーとてもイケメンなのだけど、こういう、女の子が好きそうなお人形を好きなのか……と思うと、ちょっと残念というか……。

なんだか複雑な心境だ。


私の考えていることがわかったのか、彼は焦ったように首をぶんぶんと振った。


「違います。僕はこの子の世話をしているだけで……。その、毎日世話をしていたので、この子が買われるなんて思ってもいなくて……」


「ユアン、君はリリアナが買われるということにショックを受けているんだよ」


「わ、私、まだ買うなんてーー! 買ってもらえるかもわからないし!」


慌てて言うと、店長さんはくすくすと笑い出した。


「本当に気に入ったのなら、ご両親に相談してみてください。ユアンも、覚悟はしておくように。さあ、お嬢さん、お茶をどうぞ」


店長さんはテーブルの上の商品をどけてくれて、椅子まで用意してくれた。銀のトレーから出された、いちご模様のティーカップからは、甘い香りがたちのぼっている。


「野いちごティーですよ。本日のお菓子はチョコレート。ちょっぴりビターですが、お口に合うと思います」


ユアンさんの声はコーヒーのようだと思った。低くて艶やかで、大人。その美声に心が震える。私はドキドキしていた。


「ありがとうございます。私、リゼルと言います。リゼル・アッシュベリーです」


この人に、名前を呼んでほしいと思った。


「リゼル。僕はユアン・ガブリエルです」


ガブリエル、天使の名前だ。

彼の瞳はグリーン。リリアナはエメラルドのような目をしているけれど、彼の目は森のようだった。閉ざされたお城を守っているような、森のイメージ。


深い森の中で、彼の金髪に光が降り注ぎ、彼自身が輝く。そんな想像をして、胸が熱くなった。


かすかに、ちりんと鈴の音が聞こえた気がした。

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