第3話

……え……?


音が消えた。音だけではなく、すべてのものが静止した。

ほんの一秒くらいのことだけど、私は息苦しさを感じて、ドキドキした。


自分以外のすべてが止まった、その不思議な感覚に、胸がざわざわする。


……何、今の……? 気のせい……?


小さな鈴の音が響いた。これも気のせい?


きょろきょろとまわりを見回すと、噴水のそばのベンチに座っている女の人と目が合った。親しげに笑顔を向けられて、こくんと頷かれたような?


知らない人だよね。

どう反応していいかわからないでいると、その人の隣にいた白い猫が、ベンチからおりて私のほうへ歩いてきた。


「ニャア」


目の前で見ると、白猫だと思っていたその猫は、水色の綺麗な毛並みをしていた!


まるで「ついてきて」と言っているかのように、猫は私を見上げて鳴いた。そして、もといたベンチに飛び上がる。


「お姉さんの猫? 水色なんて、めずらしいですね」


もしかしたら、ママより年上かもしれない。でも、こういうときは、お姉さんと呼んだほうがいいよね?


「本当に見える? 目がいいのね」


猫ちゃんは、微妙な色をしていた。薄い水色にも見えるし、はっきりとした水色にも見える。と思っていると、やっぱり白にも見えるのだ。


「じゃあ、私の髪の色は、何色? 目の色はわかる?」


お姉さんは背中まである長いストレートヘア。色は、アッシュブラウンだ。目の色は……ヘーゼルかな。


そう伝えると、「やっぱり目がいい」と言われた。


「普通は茶色の一言ですまされちゃうのよ。それは面白くないと思わない?」


面白いことを言う人だ。

それなら、この人は私の髪の毛と目の色を、どんなふうに表現するのかな。


「じゃあ私は?」


「そうねえ……。真冬の真夜中のような黒髪、冬の晴れた日の青空のような瞳。どう?」


「ステキ!」


猫ちゃんは身体を伸ばし、大きなあくびをした。「な~にを言ってるんだか」とでも思っているに違いない。


「さっき、天使の鈴の音を聞いたでしょ?」


お姉さんは隣に猫を座らせ、その隣に私に座るようにと合図をした。

私たちはベンチに並んで座り、私は猫の背中をなでながら考えた。


「天使の鈴?」


「あなた……盗まれた一秒にも気づいたんでしょ?」


「盗まれた一秒?」


言われたことを繰り返す私に、お姉さんは自己紹介をしてくれた。


「私はルチル。不思議なことが見えたり感じたりできる、一般の主婦でありお母さんよ」


「スピリチュアルってやつですか?」


「そうそう」


じゃあ、私のオーラの色は? 前世はなんだったの?

聞きたいことは色々あるけど、こういうのって、たぷんお金が発生するよね。むやみに聞いてはいけないことだ。


「盗まれた一秒って?」

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