第16話 Again

「……あれ」


最近、眠っているとこの光景ばかり見えてしまう。

もう1人の私と出会ったあの空間。上を向くと都市があり、今は崩れておらず平穏なようだ。


「また来てる」

「やっほ、元気?」

「元気よ元気、出る幕がないからね」


後ろを振り向いた所に真っ白な私が黒い箱に座っていた。

足を凄くゆっくりばたつかせており表情がなくても分かる、あれは暇そうだ。

私はもう1人の私を見つめ、彼女に問いを投げかける。


「ねぇ、貴女ってどうやったら私の体を乗っ取ってくるの?」

「教えない」

「どうやったら神機使えるようになるかな」

「またそれ……貴女は半覚醒状態の神機なら使える、それじゃ満足できないわけ?」

「だーめ、命香ちゃんの力になるなら……その覚醒した力っていうのも手に入れなきゃ……」

「……」

「教えてよ、どうやって使うのか」


私は疑問に思っていた、ただ守られるだけで本当にいいのかと。

正直結論は出ている、そんなのじゃダメだ。

守られるなら、私は守ってくれる人を守りたい。それが私の理想だ。

そんなの理想じゃなくて私の勝手に思われるかもしれないけどそれがいいのだ。


「はぁ、ダメ、全くダメ」

「えっ?」

「今の貴女に覚醒した神機なんか……いえ、半覚醒した神機すら貴女にはふさわしくない!」

「ちょ、ちょっと待っ―――」





「はっ」


天井には、都市なんかなかった。

伸ばした手は天井に伸ばされ、その先には何も無い。

朝だ、朝が訪れたのである。


「……そっか、引っ越したんだよね」


昨日から私の自宅は変わった。

ルミノーソ、私の勤務地であり命香ちゃんの自宅でもある。

私は度重なる事件を考え、ルミノーソに住む事で事件に巻き込まれないようにする目的として引っ越すことになったのだ。

朝6時半、私としては少し早めの起床となる。


「う〜ん、そんなに早寝だったかな……?」


7月ということもありこの時間はもう既に日が出ている。

私は自室の扉を開け、2階のリビングに降りてきた。

ルミノーソは3階建てであり1階がお店、2階がリビングと台所、お風呂がある。テーブルではなくちゃぶ台であり、1階とはえらい違いである。

そして3階には私と命香ちゃんの自室がありその他使われていないお部屋が3つ程ある。

意外と広く複数人で住むには中々優良物件に見えてしまう。


「命香ちゃんは……起きてないかな……?」


ルミノーソは11時から開店する。

だから正直8時や9時起きでもなんとか間に合いそうではある為まだ眠っていてもおかしくない。

それに昨日の深夜、命香ちゃんのお部屋の扉が何回か開いたと思うのでちょっと寝付けてなかったのかもしれない。


「……よし! それじゃあ……」


折角なので私は台所に目を向け冷蔵庫を開いた。

昨日ランティスからルミノーソに帰る途中買い出しはしていたので食材は充分!


「朝ごはん、作ろう!」


ルミノーソは洋風だが2階と3階は非常に和室だ。

折角だから和食の朝ごはんを作り始める。

炊飯器でお米を炊き、お魚をグリルを使い焼いて、コンロでお味噌汁と卵焼きを同時に作っていた。


「ふんふんふ〜ん♪」


和食のお料理はおばあちゃんと二人暮ししてた時には朝食と夕食の定番として食べていた。

だから結構作るのには慣れている。


「……あれ……美咲……」

「あっ命香ちゃん! おはよう!」

「お、おはよ……何してるの……?」


大体30分くらい経った頃、恐らく匂いで起きた命香ちゃんがまだ眠いまなこを擦りながら降りてきた。

だが私は後ろを振り向くとその姿に驚いてしまう。


「あ、あれ……? 命香ちゃん……その服……」

「? 寝巻きだけれど……」

「そ、それパジャマじゃないでしょ〜! なんで前に買った服パジャマにしてるの〜!」


なんと以前お買い物で買った私服用の物をパジャマとして使っていた。

黒基調のちょっとゴスロリに見えなくもない服装、短いスカートに暑くなったこの時期でもタイツを履いている。

確かに命香ちゃんは寒がりのようだがここまでしてるとは。

というよりこの子私生活は意外とずぼらなのだろうか。


「い、いいじゃない……普段着ないのだから……」

「ダメだよ! 今度はパジャマも買おうね!」

「……はい」


なんだろう、お母さんと娘のような感じだ。

命香ちゃんはシュンとなってしまいちっちゃくなっていた。

まぁそれはそれとして以前買った服を着た命香ちゃん、やはりカッコ可愛い!


「それで、何を……」

「ああこれ? 朝ごはん作ってるの!」

「それはわかるけど……」

「も、もしかしてこういうご飯は苦手……?」


そういえば命香ちゃんの住む西京は若干西洋に似ていると言っていた。

和よりも洋の方が好みだっただろうか。


「そ、そうじゃないの! その……私朝ごはんとかは作らないし……もう少し遅めに食べてたから……食べていいの……?」

「! 勿論! 食べよ!」

「……ありがとう、今度は私も手伝うわ」

「えへへ……ありがと、でもその前に……」

「?」

「着替えとか、しちゃおっか……」

「……そうね」


命香ちゃんの髪をよく見るとあまり整っていなかった。

いつもの制服に着替えると、髪の毛は私が優しく梳かしてあげた。

最初は遠慮していたが私の魂からのお願いにより許された。

だがその甲斐あってなのか比較的早めに身だしなみは整った。

2人でリビングに行くとちゃぶ台にお皿を置いていき、お互いに座った。


「よし! 食べよ!」

「うん、いただきます……」


2人で手を合わせ朝食を頂く。

出来は上々であり満足いく物になっていた。

命香ちゃんの舌に合うか不安だったがお味噌汁を頂いていた時は本当に幸せそうな顔をしていた、これは成功でいいだろう。

だが1番私が目を離せなかったのは食事中の命香ちゃんの姿だ。

正座をして綺麗なお箸の持ち方をする命香ちゃんがカッコよく、ちょっと見とれてしまった。


「……美咲?」

「えっ? あぁううん! なんでもない!」


命香ちゃんは可愛らしい所が沢山あるが本質的にはカッコ良さの方に寄っている。

私にとってそれは何よりも目を離せなくなってしまう要素なのだ。

朝食を終えた私達はお皿を洗いルミノーソに降りる。

1週間休んでいた為、実は久しぶりなのだ。


「それじゃ、今日もよろしくね」

「うん! よろしくね命香ちゃん!」


レジやコーヒー豆の準備、食材のチェックなどを済ませ本日の営業は始まった。

まぁ平日なのですごい忙しい訳では無い。

むしろ平日のお昼頃からお昼過ぎはちょっとワケありそうな人の方が多いかもしれない。

もちろん一般のお客さんも多数であり、目の前の学生さんもそうだ。


「ねぇねぇ、店員さん可愛くない……?」

「うん……! 制服も可愛いよね……!」


カウンターでお皿洗いをしていた私の耳にこんな会話が届く。

そのお客さんは先程スイーツセット(ブレンドコーヒーと日によって変わるケーキ)を頼んでいた高校生くらいの2人だった。

片方は黒髪ロングのメガネさん、もう片方の人はショートで若干灰色のような髪色の人だった。


「ここいいよねぇ〜……私、気に入ったかも!」

「こういうお店初めてだけど、どのお店もあれくらい若い店員さんなのかな?」


そんなことは無い、ここは異例なだけだと思う。

などと会話にツッコミを入れていたが、隣で洗い物を済ませた命香ちゃんが突然カウンターから出てしまい2人の学生さんの所に向かってしまう。

何か2人が命香ちゃんの気に障るようなこと言ったのか、と思ってしまうが顔は非常ににこやかだ。


「こんにちは、ご来店は初めてですよね?」

「えっ? あ、はい!」

「あの……私たちなにか……」

「ああいえ、コーヒーを切らしてそうでしたので、よろしければサービスでご用意しようかと」

「えっ! いいんですか!?」

「あ、ありがとうこざいます!」

「いいんですよ、ご用意しますね」


このお店の特徴、気に入ってもらうためにゆっくりしているお客さんにはサービスでもう一杯用意するという隠れた行事を行っている。

これはケーキの案を作った後に命香ちゃんが提案した案で比較的良好なようだ。


「気に入ってくれたみたいだね、あの人達」

「そうね……高校生くらいの人で来るの、貴女くらいかと思ってたわ」

「な、なんでよ〜! 私一応年齢的には大学生だよ〜!」

「ふふっ、そうね、そうだったわ」


そうだ、私は1人だったがあの時このお店に惹かれた。

この雰囲気、ランティスに似た懐かしい気持ちがここを選んだのだ。

コーヒーの準備が出来、私が学生さん2人に提供しに行った。


「お待たせしました、ブレンドコーヒーです」

「ありがとうございます!」

「……」

「? あの、何か……?」


コーヒーを提供するがメガネの学生さんは私を見つめ、黙っていた。

あれ、わたし何かやっちゃった……?


「あ、あのっ!」

「は、はい」

「その、お姉さんたちとってもカッコイイです!」

「え?」

「?」


その一言は私と命香ちゃんの頭にはてなマークを浮かばせてしまった。

突然の事でビックリしたが数秒経ってなんだか気恥ずかしくなってしまった。


「も〜霧香きりか、店員さん困っちゃってるよ〜?」

「はっ! す、すみません……」

「い、いえいえ! 初めて言われたのでビックリです……」

「その制服も可愛らしいんですけど! お二人共既に可愛くて! あとクールな感じにも見えて!」

「ク、クール?」

「お姉さんもですけどさっきの店員さんも本当に綺麗で……こ、言葉に出来ませんが……」

「はいはいそこまでね、霧香きりか


霧香と呼ばれた子は隣の子に抑えられ、ゆったりとコーヒーを飲み始めた。


「ごめんなさい急に、この子カッコイイ女性のオタクなので……」

「そういうのにもオタクってあるんだ……」

「アタシ、杉並小夜実すぎなみこよみって言います、この子は鈴神霧香すずかみきりか

「よ、よろしくお願いします……」

「快原美咲です、ここのスタッフをしてます。あっちはオーナーの命香ちゃんです」


カウンターから命香ちゃんは手を振っており、優しい笑顔を向けていた。


「オ、オーナーさん!? あんなに若いのに……」

「あの、お二人共にアタシ達と同じくらいですよね?」

「はい、私は19、命香ちゃんは18ですよ」

「凄い……! 私達と殆ど歳一緒なのにオーナーさんなんて……!」


あれ?なんか私と同じ感想言ってる気がする。

でもやっぱりそう思うだろう、若いオーナーというのは珍しいと。


「オーナーさんだからでしょうか! あのクールな感じは!」

「それ関係あるのかな……?」

「あはは……どうなんでしょうね……」

「そんなに凄いことでもないですよ」


後ろから命香ちゃんの声が聞こえ、カウンターから出てきた。


「結局は肩書きですから、それをこなす事で褒められるようになるんですよ」

「で、でも、ここってオープンしてからちょっと経ちますよね?」

「そうですね……3月から開業してますから4ヶ月ほどでしょうか」

「へぇ〜結構最近なんですね」

「本格的に始まったと思うのは美咲が入ってからだと思います。いつも助けられてます」

「えぇ! そんな私何も出来て……」


そうだ、むしろ迷惑ばかりかけてる気がする。

この子に出来たことなんて、スイーツを作った事とここのウエイトレスくらいだ。


「貴女、SNSでも結構人気みたいよ?」

「えっ!?」

「あっそれアタシ知ってます! 元気な店員さんっていうの見ました!」

「わ、私もです!」

「そ、そうだっんだ……」


元気な店員さんか、そう評価してもらえるのはなんだか嬉しい気がする。

少しだけ2人と会話をし女子トークが広げられ、新たな常連さんの候補を手に入れ2人は退店して行った。


「いい子達だったね、2人共」

「そうね……」

「……ねぇ、命香ちゃん」

「なに?」

「……私、本当に命香ちゃんの役に……たててる……?」

「……もう」


私達だけの空間、少しため息をついた命香ちゃんは私の前に立ち、両手でほっぺをぷにぷにしてきた。


「んむむ!? め、命香ひゃん……!?」

「何度も言ってるでしょ、貴女は私にとって、大事な人よ」

「んむむむむむ! ひゃあああ〜……」


なんか前に比べて長めにモチモチされた気がする。

お餅のようにモチモチされその顔は幸せな気もして悪くなかった。

そうしてほっぺが若干赤くなってしまった気がするが私は時計に目をやる。


「はっ! 配達の時間だ!」

「今日は少なめなのよね?」

「うん! 3件だけだよ!」

「……気をつけてね」

「……うん、行ってきます」


以前の事が心配なようで命香ちゃんも心配な顔をしていたが、私は優しく笑顔で返し配達に向かった。

現在午後3時、おやつのお時間だ。

今回はそこまで距離が離れているわけでもなく電車を使って1時間ほどで配達は終了した。


「ふぅ〜……早めに戻らなくちゃ〜……」


以前の事もあって早めに帰る事に専念した。

そうでないとまた巻き込まれて誰かに迷惑をかける気がする。

そう、現に1人亡くなったのだ。


「っ……!」


あの時の光景を思い出してしまう、稲田警部が黒き衝動となり殺された所を。



「そういえば卵が明日安いんだっけ……買いに行かない……ん?」


そうは思うのだが自分から向かっていくのとばったり遭遇してしまう、それはとんでもなく大きな違いであるとわかってほしい。


「えっ……」


7/3、まだ夏には早いような気がしていた。


「……うぅ……」

「なにあれ……」


ルミノーソからの最寄り駅前、木々が生い茂る駅前広場に何かが倒れていた。

それはまるでセミが命尽きて落ちてしまうように、バッタリと、なにかが倒れていた。



まぁ、倒れていたのは少女なのですが。

薄緑の髪、薄い半袖、そしてショートパンツに身を包んだ夏らしい服装の少女が行き倒れていた。


「……お腹……空いた……」

「だ、大丈夫ですか……?」


流石に見過ごせない、駅前に落ちるセミではなく人に声をかけ、生存を確認した。

これは行き倒れというものだろうか、


「しっかりしてください! お名前、わかりますか……?」


その質問に対し、彼女はゆっくりと目を開いてこう答えた。


「……ロッテ……ロッテ……ベルダ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心と、嘘と、純喫茶と 岸儀藍山 @kisigiaizan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ