第13話 真意鳴罰
「ボクを、粛清? 何を言うかと思えば……」
「理解出来ないの? 商会のボスなのに弱い頭」
「……貴女……本当に美咲さん……?」
失礼な、私は私だ。
それ以外の何者でもない。
「そうだよ、さっき一緒にお茶してた私だよ? ケーキ美味しかったでしょ」
「ふ、雰囲気がまるで……」
「ふん、ブルーミングβの鏡写しとはいえ一般人! 神機の力だって使いこなせるわけじゃないだろう!」
その言葉と共に彼は神機を変化させた。
2つの剣を手にこちらへ走ってきた。
「さぁ! 僕の得意武器を味わえ!」
「美咲さん! 下がって!」
「必要ないよ」
私はルミちゃんの前に立ち、剣を顕現させる。
お互いの剣がぶつかり
「ははは! その剣じゃ
「……そうだね、それじゃプランを変えてみよう」
私は彼の剣を弾き返し、
この剣がダメなら他の物を使えばいいだけの話、だがもう少し向こうの動きを抑制するには―――
「ルミちゃん、
「えっ? あっ、はい! 使えますわよ!」
「ちょっと追い込み漁してほしいんだ、彼の逃げるルートを狭めてほしい」
「……わかりました、貴女の事情は後で聞かせてもらいますわよ」
さて、それは叶うか分からないがサポートを頂いた。
私は彼を倒す為、力を解放する。
力を解放する為に、私は生まれてきた。
「……これは……嵐気!? ま、まさか……」
「み、美咲さん! 貴女3つ目の力を……!?」
「……MGA……いや、こっちがいいかな。神羅廻門」
命香ちゃんを見習い、こっちを口にする。
別に力が変わる訳では無い。そもそもこの言葉はなんでもいいのだ。
自分を鼓舞させられれば。
嵐気は辺りの植物達を靡かせ、付近の2人もその風を耐えていた。
「何だこの嵐気は……お前……本当にここの人間か……!?」
「これ……本当にブルーミングβと同等の力……でもなんで……!?」
「……さ、続きしよ」
両端に鋭き刃を携えるこの神機。
この神機も嵐気を纏うことが出来るため、彼の神機と対等に渡り合えるはずだ。
「全く規格外だな! こうなったらとっとと……」
「逃げられると思ってる? 前にも見せたでしょ?」
「まさか!?」
前回彼を包囲したあの膜、あれは
なにも
「言ったでしょ、粛清するって」
「あー全く! だったら2人諸共あの人の手土産にして―――」
「させませんわよ!」
言葉を遮ったルミちゃんは
後ろに下がらせるような撃ち方に沿いバークはそのまま後ろに後退する。
「君はやはりその神機と好相性のようだね! ルミナリア嬢!」
「やかましいですわ! その減らず口黙らせてあげます!」
後退するバークに対して私は横に展開した。
それを見たルミちゃんはさらに弓矢の発射速度を上げ進路を絶たせていく。
広くもないここでは逃げる事は難しいだろう。だが神機を使っている時に見えないのをいい事にマンションの壁を駆け上がっていく。
「逃がさない!」
「美咲さん! 無理はなさらないで!」
私は地を思いっきり蹴り、屋上である12階まで飛び上がる。
体が軽い、なんだか視界が赤い気がするが気にしても仕方ない。
そう考えているうちにバークも上に上がってきた。
「なんだよ、このシチュエーションが良かったか?」
「……」
「……ひとつ聞かせてくれよ、お前は本当に前に会った快原美咲なのか?」
「……何が言いたい?」
「いや、質問が悪いな……お前はあの神機を使う前のお前……オドオドしてたな、それなのか?」
また変なことを、私は私だ。
そうでなければ誰だというのだ?
「私は私だよ、わからない?」
「こりゃダメか……お前さんは危険だ、殺そう」
「貴方に出来るかな?」
「まぁほっとけばいいかもしれんが……これはそんなこと言ってられないから、なぁ!」
私も
ガキン、という音は一瞬だけ。その後は何かが割れるような音が長く聞こえるかのような感覚だった。
「ぐぅ……」
「くっ……」
力は互角、だが2本の剣は私を徐々に推していく。
「ほっ」
「なに!?」
一瞬力の出力を上げ2つの剣をほんの少し浮かせると、
「でもそれじゃさっきと同じ!」
「気づいてないんだね」
「なに?」
そう気づいていない、さっき私を援護していた【彼女】のことを。
ヒュンヒュン、という2つの音が私達の上から聞こえてくる。
それは月夜に照らされ青く輝き、2つの弓矢がこちらに飛んでくる。
「ルミナリア嬢の
彼の注意はその瞬間弓矢に惹かれる。
一瞬だが彼の力が弱まる瞬間を見逃すことはない。
「はぁぁぁ!」
「ぐぅぅぅ!?」
その一瞬、
神機は手に持たなければ入れ替えが出来ない。間髪を入れずに2撃、彼の膝から下を切り落とした。
「ぐ、ああああああ!!」
「終わりよ、バーク・ディレントス」
同じタイミング、下からルミちゃんが地を蹴り屋上にやってきた。
「お待たせしました美咲……さん……!?」
「ルミちゃん……ちょうど良かった、今トドメを……」
「お、お待ちください! 美咲さん! それ以上は……!」
「ぐぅ……まさかここまでヤバい奴とは……!」
足の激痛に悶え苦しみ、軽くのたうち回っている。
いい気味だ、人の命を弄ぶからこうなる。
「最後に教えてよ、確か凶魔コアを使った実験を依頼されたって言ったよね?」
「っち、覚えてたか……!」
「答えて、貴方のバックには誰がいる?」
「……」
沈黙、この身動きが取れないこの状況で沈黙は立場を理解してないのだろうか。
「じゃ、貴方はここまでだね」
「ぐっ……なんでこんな事に……」
そんなもの因果応報だ。
私は
じゃあね、ゲス野郎。
「おやめなさい、美咲さん」
「……何するの」
トドメを刺しにかかろうとした時、隣から
「その男はわたくし
「……コイツは何人も人を実験と称して殺してきたんだよ? 死以外に取るべき処罰がある?」
「例えそうだとしてもそれを行うのは貴女ではありません」
「……知ってる人が、目の前で死んだのにここで許せと……!?」
「憎しみによる復讐は連鎖するのです。ですから……」
くだらない。私はルミちゃんの静止を振り払う。
そして再び力を込め、心臓を狙った。
「美咲さんっ!」
「アンタは! ここで! っ!?」
その瞬間、私の体が異常を知らせてくる。
心臓が痛い、さっきまで大丈夫だったはずなのにドクドクする心拍一つ一つが激痛となり私を襲う。
「なに……これ……わ、私……アアアアアア!!」
「み、美咲さん!?」
視界が赤い、手に何か持ってた気がするが何も無い。死ぬ、このままだと本当に死ぬ。
「痛い……痛い痛い痛い……!!」
「美咲さん! お気を確かに!」
「はーはっはっは……! なるほど……なんとなく……読めたぞ……」
「っ! 貴方の身柄は先に拘束しますわ!」
この時私の視界は真っ赤。
頭も痛く体全体が痛い。
何より心臓が非常に痛い。
心拍数が異常に早くバクバクする度体に激痛が走る。
私はなんでここにいる? さっきまで地上にいたはず。
意識が遠のいてきた。このまま―――死んで―――しま――――――
「……あれ」
なんだか前にも同じ現象を感じた気がする。
真っ白な空間……とは言い難く、真っ白な空間に何かの破片だったり小さい瓦礫のような物が浮いていた。
上からゆっくりと降ってきており、上を見るとまるで逆さまの状態で街を見下ろしているようだった。
「あ、あれ……? なんか方向感覚狂いそう……」
なんだろう、ちょっと心に余裕がある。
というよりもここはどこだ? 前に見たような空間ともまた違う。
ここは貴女の心の中だよ。
「っ!?」
今頭というより心に何かを語られた気がする。
後ろを振り向いた私の目の前には1人、誰かが立っていた。
「……あれ……」
「ここは貴女の心が生み出す虚無の空間。終点はなく心が揺れる度に景色は変わる……そして貴女は今死の瀬戸際にいた。だから崩れかけてる」
「……もしかして貴女……私?」
その姿は真っ黒でありシルエットしかない。
だがその声と姿は私そっくりであった。
「うん、私は貴女」
「……なんでこんな事に……なってるの?」
「うん、それは貴女が私の意識を持ってっちゃったからだよ」
「というより、貴女は一体……」
「言ったでしょ、私は貴女」
「私は私だよ! なんで私を語って……」
何もわからない。
何故こうなっている。
稲田警部は? あの状況でどうして私はバーク・ディレントスを殺そうとしていた?
一体何があったというんだ。
なら、教えてあげるよ。
「また……!」
「言ったでしょ、私は貴女……思考に割り込むことだって出来るんだよ」
「……教えて、なんなのこれ、この現象の事も一体……」
「……いいよ、じゃあ簡単に教えてあげる」
あなたはね
このせかいのブルーミングβとしてえらばれたの
つまり あなたがしんだら このせかいもしぬ
このうえのせかいは それをあらわしてるんだ
めいかちゃんがくれたあのきょうまコア
あれがからだにはいりこんでこんなことになった
もうひとりのわたしがうまれた
わたしのしめいはただひとつ もうひとりのあなたをまもること
わたしはじこぼうえいプログラム
あなたはしんきをつかえるようになったわけじゃない わたしがあなたのからだをとおしてつかえるんだ
「つまり、そういうことだよ」
「……生まれた……? 自己防衛……?」
理解が追いつかない。
命香ちゃんが渡してくれたあの凶魔コアが私に入り込んだ?
どうして、どうしてそんなことに。
私は自惚れていた、神機を使えるようになったと錯覚して。
でもそうじゃない、私にそんな力は元からもってなかったんだ。
「そうだよ、まぁもし神機を使いたいというのであれば……」
「私を殺してみればいいんじゃないかな」
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