第12話 二者択一
「さて、何から話しましょうか」
「あら、このチーズケーキ非常に美味ですわ!」
「そうでしょ〜! さっき作ったんだ! 上手くできてると思うよ!」
「話を聞きなさい」
平日のお昼、私達3人はルミノーソのテーブル席によるお茶会を開いていた。
一応私と命香ちゃんは業務中ではあるのだがこの時間は中々お客さんが訪れない。
平日だともう少し経ってからお客さんはやってくる。
「……メイティのコーヒーも美味しい……貴女こういうのも得意だったのね……」
「ルミナリア、私の今の名前は命香よ。その名前は禁止ね」
「あらそうでしたわね、でも片方だけそれはズルくありません?」
「……何が言いたいの?」
「わたくしの事も、ルミって呼んでくださいまし♡」
「確かに! 命香ちゃん呼んであげようよ!」
意外だ。結構親しい仲のように見えるが命香ちゃんはその名で呼んだことないのだろうか?
「い、いきなりね……わかったわよ……る、ルミ……」
「〜〜〜! もぉ〜なんて可愛らしいんですのぉ〜!!」
「ちょっ!?」
「うぇぇ!?」
呼ばれたルミちゃんは命香ちゃんを頭から抱きついてしまった。
なんという愛情表現、私では中々ここまでいけない。
たまに撫でてあげたり昨日ケーキを食べてた時に抱きついたがあれは中々勇気がいる。
「む、むむむむむむむむ!!」
「た、助けて美咲……」
「ルミちゃんズルい! その子は私の子です!」
「いいえ! この子はわたくしの子でしてよ!」
「命香ちゃん!」「命香!」
「「どっちを選ぶの!」」
「誰の子でもな〜い!」
遂にキレた! 命香、キレた!
ルミちゃんの愛情表現から脱出し改めて話の場を整える。
「それはいいから! 美咲! 貴女色々聞きたいことあるんでしょ!」
「はい……」
「し、失礼しました……」
改めて本題に戻った。
確かに正直聞きたいことは幾つもある。
「ねぇ、さっきの
「
「もう説明してたのね……あれは形にすることで誰かを認識……出来るのだけれど、私達みたいにちょっと力がある者が対策せずに放つと威圧みたいになるのよ」
「大変失礼しましたわ……」
「でも稲田警部は気づいてなかったよね? あれって……」
「ここの人達にはあの気は感じ取れないから基本は感じないわ。ただ一定の距離までいくと流石にここの人達にも感じ取れるみたいね」
なるほど、だから対面した時あんなに驚いていたのか驚いていたのか。
あれはなんというべきか、ルミちゃんが戦場に降り立つ鬼神かと思うようなプレッシャーでもあったから並の人は逃げるか立ち尽くすかのどちらかになるだろう。
「……もしかして命香ちゃんもあれ、使えたり?」
「えぇ、まぁ……」
「凄いですわよ! なんてったって命香の
「大袈裟よ、私よりもコントロールが上手な人間なんて何人もいるわよ、ロッテもその一人だし」
「ロッテさんって……元々命香ちゃんとジョーさんのサポート予定だった……」
「そうですわ、彼女は平常がふわふわしてますから、
なんとなくで予想してみたが、結構のほほんとした人なのだろうか?
ちょっと会ってみたい。
「ところでわたくしからも一つ、聞きたい事が」
「なにかしら?」
「美咲さんが神機を使える理由がわからないというのは伺いましたが、その経緯はどういうものですの?」
「ん~話すと長いんだけど……」
私は命香ちゃんと共にこれまでの経緯を話した。
初めてここに来た帰り、黒き衝動に襲われた事。
警察から逃れる為、ここで働くことにしたこと。
そしてディレントス商会のトップと対峙し、神機を使えるようになった事。
ここでの出来事を話した。
「なるほど……ディレントス商会、確かΩ《オメガ》部隊のブレンダ隊長が裏で探ってましたわね?」
「そうよ。美咲から話を聞いて私も少し調べてみたけど、裏社会ではかなり有名らしいわ」
「それは、あのトップの人がじゃなくて商会としてって事……?」
「そうよ。一般流通で流すことが出来ない武器や凶魔コアを販売しているとか……」
「凶魔コアって一般流通じゃないの?」
「軍事的には一般流通で沢山見ますが、一般家庭で持つ事は向こうの法律で禁止ですのよ」
そういえばジョーさんが最初に神機の力を強める事が出来るって言ってたっけ……
確かに神機を武器とする向こうでは軍事利用が主になるだろう。
「それで神機を解放した美咲さんがあのトップ……バーク・ディレントスでしたっけ? その男を撃退したと」
「実は私もあんまり覚えてないんだけど……そうみたい」
「どの力を使って撃退したんですの?」
「えーっと、神裁剣って言うんだっけ? それで向こうを撃退したみたい」
「……神裁剣?」
それを聞いたルミちゃんは手を顎に当て考える。私何かおかしなことを言っただろうか。
「美咲、そろそろ……」
「えっ? ……あー! 配達時間じゃん!」
「配達?」
「そう! コーヒーの!」
先程稲田警部にも販売していたがルミノーソ改善計画としてもう1つ提案していたのがこのテイクアウト&デリバリーサービスである。
テイクアウトはまだ先程の稲田警部だけだがSNSにて発信した所、何件かお問い合わせが入り既に評判は良いとみていい。
「6件来てて2駅くらい離れてるからちょっと帰り遅いかも! ルミちゃんゆっくりしてって! 命香ちゃん! 行ってきます!」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
「い、行ってらっしゃいまし……」
私は準備をして宅配用バッグを背負うとルミノーソを後にした。
「な、中々フットワークが軽いですわね。ゆったりしてた中であんなすぐに切り替えられるなんて……」
「そうね。ところでルミ、気になったんでしょ」
「……ええ、いくら覚醒したとはいえ神裁剣だけで裏社会の危険人物を撃退出来るとは思えませんわ」
「閣下が言うにはあの子、神裁剣を使う前にもう一つの神機も使ったそうよ」
「2つ……なぜ美咲さんはそれを伏せて?」
「使った時の事を覚えていないらしいわ……最初に使ったのは、オーブとのことよ」
「オーブ……オーブですって!?」
「そう思うわよね、今閣下が西京で図書館の賢者と書物を確認してくれてるわ」
「
「……あの子、
「……どうするのです?」
「勿論、悪い虫が寄るなら払うまでよ。あの子は西京に深く関わってはいけない……私が守らなくちゃ」
「……随分心を許してますわね、美咲さんに惹かれました?」
「ち、違う……わよ」
「ず、図星ですの……?」
「こんにちは〜! 宮武さん!」
「ああ美咲ちゃん! ルミノーソ再開したんだね!」
都内にある住宅街のアパート、その1階に住んでいるのはこの人、宮武さん。
私が働き始めてからの常連さんであり、中年のサラリーマンさんだ。
「はい! ご迷惑おかけしました!」
「いやいや! また店舗にもお邪魔するよ。それが、今回の?」
「はい! ご注文の品です!既に粉にしてますからすぐ美味しく頂けますよ!」
「おおどうも! 楽しみだな〜」
「それではこれで! お店に来て下さるの楽しみにしてまーす!」
「配達頑張れよ〜」
現在交通手段が電車と歩きのため距離に制限をつけている。
遠い順から行ってるから中々時間がかかりそうだ。
「が、頑張るぞぉ……!」
現在15時、目標2時間!
そう目標を立てあと5件を進めた。
途中道に迷ったり困ってるご老人をお助けしたり、結局時間はかかってしまった。
最後、ルミノーソの最寄り駅近くにご住まいの本郷さんにお届けし完了した。
時刻は19時、2倍ほど時間オーバーで本日の宅配終了である。
「つ、疲れた……あ、あとは慣れだよね、うん」
数が多くなった時のことを考えると身震いしてしまうが考えていても仕方ない。
本格的に体力をつけるべきかを検討するべきだろう。
「ルミノーソに戻らないと……えっ」
ルミノーソに戻ろうと思った瞬間、またあの感覚が私の脳を刺激した。
電流が流れるような感覚、嫌な感覚だ。
「っ! あっちだ!」
その感覚はルミノーソとは真反対の方向、マンションが立ち並ぶ住宅街から感じ取った。
マンションが立ち並ぶこの辺りは子供に配慮して大きめの公園やらグラウンドやらが多くあり、尚且つ学校も何故か2つある。
この広さでは中々見つけることは難しい……はずだが何故か私にはわかる。
このドス黒い「何か」が蠢く、この感覚が。
「ここだ!」
ここはマンション地帯の中でも駅から最も遠い場所。その中にあるマンションの中央付近、花壇の辺りにその気配は佇んでいた。
「……」
「そこの人! 早く持ってるコアを……え……?」
陽は落ち既に周りは暗く見えにくい。
だが目の前にいる男性、シルエットには見覚えがあった。
「……なんだよぉ……快原の……嬢ちゃんじゃね〜か」
「稲田……警部……!?」
その姿は間違いない。警視庁特別捜査本部の監査、稲田警部だ。
なぜこんな所に、しかも凶魔コアを持っている。
「な、何故あなたがここに!」
「わり〜な……嵌められちまった……」
「嵌められた……?」
「ここは危険だ……早く……逃げ……」
その言葉全てが言われることはなかった。
後ろから聞こえる銃声、プチュンというサイレンサー付き銃のような小さな音によって。
「えっ」
「ゔっ!」
その瞬間、稲田警部の心臓部分には空間が出来ていた。
丸を描き、そこからはポタポタと血が滴り落ちる。
「に、逃げ……ろ……」
「あ、あ゙あ゙……」
あの人はいい印象はなかったがそれでも罪人では無い、死んでもいい人間ではない。
なんだこれは、黒き衝動を初めて見た時と同じような絶望。
そして倒れ込む稲田警部の後ろには「あの男」が神機、
「っ! 貴方は……!」
「やぁ、異端児」
あの男、バーク・ディレントスはニヤニヤしながら構え、こちらを向いていた。
不愉快、何より不愉快な男だ。
私が私でなくなりたくなるくらい不快だ。
「また、貴方ですか! また実験と称して人の命を!」
「なんだいなんだいまたって、それはこっちのセリフだよ……なぁ異端児」
「なんですかさっきから異端児異端児って! なんの話です!」
「お〜? あのお嬢様と変態から聞いてないのか〜? この世界は鏡写しの世界だっていうの、そしてお互いの世界に鏡写しのように人がいるって話……」
「……」
なんだ、その話だったか。
確かに2人からは聞いていないが、その話は知っている。
「じゃ〜さらに教えてやろう、お前はな……」
「そこまてですわ!」
その声と共に私の後ろから銃弾が飛んでくる。
しかもそれは1発ではなく3発、しかも右左上から飛んでくる。
私の後ろには
2発は躱されるが1発は
「!」
「ル、ルミちゃん……!」
「バーク・ディレントス、貴方を違法物所持及び違法取引の容疑で拘束致します!」
「はっは〜! まさか
「……被害者が出ておりますわね、美咲さん下がってくださいまし」
「わ、私も!」
「……貴女は神機を使うべきではありませんわ。大丈夫、わたくしがあの男を―――」
今の言い方、なにか違和感がある。
私を戦いから遠ざけようとしている?
何故だ。力はある、手を貸せる。
なのに何故遠ざけようとしている。
「わ、私だって神機を使える! ルミちゃんだけになんて……」
「言う事を聞いてください! この問題はわたくし達の世界の問題です!」
「……はっはっはっ! 読めたぞ! やはりお前達西京の人間はその女に何も言ってないんだな!」
「何……? どういうこと!」
「お耳を傾けないで! その男が言うことは……!」
「なら教えてやるよ……お前はなぁ……」
なんだ、何を知っている!?
この人達は何を知っている!?
「お前は西京の王……」
「おやめなさい!」
「お前の鏡写しの存在……それこれ! 西京の王! ブルーミングβなんだよぉ!」
は?
なんだそれは。
そんなことの為にこんなに溜めていた?
「……なんだ、そんなことね」
「な、なんだと?」
「美咲さん……!?」
「知ってるよ、そんな事」
自分のことは自分がよく知っている、という言葉は正直好きじゃない。
なぜなら自分自身をよく知る人間なんて殆どいないからだ。
そんな言葉は自分を孤独にしてしまい自ら首を絞める愚かな行動。
だが私は自分がよくわかる。
何故なら自分がもう1人いるからだ。
「知っている!? あの2人から聞いたってことか!?」
「ううん、寧ろそれを隠してたことが正直残念」
「美咲さん、貴女急に……」
「ん? 何かおかしい?」
これはいつもの私だ。
何もおかしいことはない。
「全く! これじゃ収穫なしだよ! これを聞かせてお前を手土産に連れていこうと思ったのに!」
「……どういうこと?」
「ブルーミングβの力は異次元とされています、貴女を連れていけばお金になると企んでいるのですよ」
「そのと〜り! 正直コアを使った実験もそろそろ情報集まってきたし、最後にアンタを……とね」
「……くだらない」
「何……?」
そろそろ話すのも飽きてきた。
もう終わりにしよう。
「バーク・ディレントス、神機の力の名のもとに、お前を粛清する」
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