第11話 審鳴神永
「と、とりあえず入って!」
「お邪魔しますわ……」
公園での1件後、私達は落ち着いて話をする為にとりあえず私の自宅である元喫茶店【ランティス】に入ってもらった。
ルミちゃんをカウンター席に案内し、席に着く。
「ここが……貴女のご自宅なのですか?」
「そうだよ! おばあちゃんが経営してたの! もう閉店しちゃったんだけどね!」
「……なるほど、察しましたわ」
使われていない状態、おばあちゃんが経営、そして閉店したこの状況を見て察したようだ。なんだかありがたい。
「……とりあえず、コーヒー飲む?」
「そ、そんな! お構いなく!」
「いいよいいよ。何もないのは寂しいし、淹れながらでも話せるから!」
「……そうですか、ではお言葉に甘えて……」
因みにルミちゃんの自宅はなんの偶然か、この喫茶店の隣にある4階立てマンションだったらしくご近所さんだった。
その為会うのは結構簡単そうだ。
「……えっと、とりあえず何の話からいこっか……」
「では私から……単刀直入に聞きます。美咲さん、貴女は西京の方なのですか?」
「……違うよ、生まれも育ちもこっち」
「ではなぜ貴女は神機を使えるのですか!? それは西京の人間だけが扱える―――」
「神から賜った武具、だっけ?」
「っ!? どうしてそれを……」
生憎、こちらはもうご説明は頂いているのだ。
もしかして、あの2人の事も知ってるのかな?
「西京に住んでるって人に聞いたんだ。私はなんでかわからないけど使えるの」
「……その人は何者ですの?」
「……ルミちゃんの話を聞いたら答える、もしその人の敵だったら私はあの人を売る事になるからね」
「……なるほど、確かにその通りかもしれませんわね」
そういうとルミちゃんは席を立ち、突然私に向かって敬礼した。
「申し遅れました、わたくし
「えっしゅ
いきなり過ぎて困惑する。
西京にはそんなものまであるのか?
「
「
「へ、へぇ〜……」
もしかして命香ちゃんと同じくらいの力って事なのかな……?
あれ、というよりもしかして……
「……ジョーさんって人知ってる?」
「ジョー? ジョー……ジョー……まさかジョー・レブリソン!?」
「あっ、やっぱり知ってるんだ」
「知ってるも何も!
「えっ
え゙!?」
初耳だ。ジョーさんそんなに偉い人だったの!?
そんな人がなんでこんな所にしかもオカマみたいな姿をして!?
「も、もしかして貴女に神機の事を教えたのは……」
「……うん、その人」
「……はぁぁぁ……まさかあの方が関わっていたとは」
深いため息をつかれた、何か問題でもあったのだろうか。
「……! あの! もしかしてメイティという方ともお知り合いだったりしませんか!?」
「め、メイティ?」
そんな人は聞いた事はない。
聞いた事はないが似たような名前は聞いたことがある。もしかして……
「命香ちゃんって子なら知ってるけど……」
「っ! それはメイティの偽名……! まさか本当に……!」
「命香ちゃんを知ってるの!?」
「はい! わたくし達アナザーの隊長……ナンバー0! マスターの称号を持つ西京最強の神機使いですわ!」
ジョーさんは命香ちゃんが神機トップクラスの使い手と言っていたが、本当だったようだ。
「じゃあ貴女は命香ちゃんを追ってここに……?」
「……彼女の事も心配でした。ですが本当の目的は違います」
「本当の目的……?」
「……探している人がいますの」
「それは命香ちゃんでもジョーさんでもなくて……?」
「ええ。メイティと閣下がどうしてこの地に来たのか、ご存知ですか?」
「う、うん」
2人の目的、それは凶魔コアの回収或いは破壊だ。
凶魔コアによる被害を抑える為にここに来ている、そう聞いた。
「それなら話は早いですわ。わたくし達アナザーはその2人のサポートの為、ナンバー5のロッテという子を送りましたの」
「ロッテさん……ですか」
「ですが彼女はこちらに到着早々、消息不明となったのです」
「行方不明……? でもどうして……」
「わかりませんわ、でも流石にこれは見過ごせない事態とわたくし達に司令を下すナインズの方々はこの地に1人、派遣することを決定したのです」
「それがルミちゃん……?」
「はい。この状況は座視する事は出来ないと思い、私から希望したのです」
つまりは命香ちゃん達のサポート兼捜索部隊ということだろう。
だが東京は広い、もしかしたら県外或いは海外に何かしらの理由で行った、または連れていかれた可能性だってある。
探すアテはあるのだろうか。
「1人でどうやって探すの?」
「わたくし達西京の人間にはオーラ……といいますか、雰囲気を形にして感知する力を有しています」
「雰囲気を形……?」
「ええ、西京の人間同士ならこれを察知可能です。こちらに移住している西京の方など聞いた事がありませんから、探すのは容易なはずです」
「……もしその人がこの辺じゃなくて遠い場所でも?」
「……その時は、世界を巡ってでも」
その人は本当に大切にされているのだろう。
その目は本気だった。口調からお嬢様のような口調が気になっていたがそれに見合わずまたこの人も何かを守るために行動出来るのだろう。
命香ちゃんのように。
「……私、協力するよ!」
「み、美咲さん?」
「私、実は命香ちゃんの営んでいる喫茶店で働いてるんだけど! 手が空いた時に一緒に手伝う!」
「で、ですが貴女には関係の無い話ですわよ」
「ここまで話を聞いて関係ないとは言わせないよ!」
「……お人好しなのですね」
「そうかも! はいコーヒー!」
「ありがとうございます……あら、とても美味しい……」
コーヒーも手応えがあるくらいには美味しく出来たようだ。
命香ちゃんにばかり任せる事は出来ない。
私ももっと近づかなければ。
「ねぇねえ! 是非西京の命香ちゃんについて教えて!」
「ふふっ、いいですわよ。わたくし達の隊長のお話、してさしあげますわ〜!」
私達はお互いにそんな話をしあった。
西京、戦闘部隊での命香ちゃんだったり、こっちでの命香ちゃん。
そんな話でこの夜は盛り上がった。
「……っていうのが昨日の夜……」
「なんで連絡くれなかったのよ……全く」
「ご、ごめんね! その人が本当に命香ちゃんの知り合いなのかもわからなかったから……」
「そっちもそうだけど、凶魔コアの事よ! 結局コアはどうなったの!?」
「それがどこにも無くなっちゃって……でも持ってた人の辺りになにかの破片があったの見たから壊れたのかな……?」
「……無事で本当に良かった、けど」
「えっ?」
「なんでもないわよ! というよりどうして私の話題ばかり話してたの!?」
次の日、私は命香ちゃんに昨日の夜あった事を伝えた。
凶魔コアの所持者との遭遇。
命香ちゃんとジョーさんの知り合いとの出会い。
その人の手伝いもすると決めたこと。
とりあえず全部話した。
「……それで、ルミナリアがこの後来るのよね?」
「うん、昨日の夜はそう言ってたけど……」
昨日の夜、彼女は帰り際にこんなこと言っていた。
「そうですわ! 明日そのルミノーソに行ってもよろしくて!?」
「へっ!? え、えーっと多分大丈夫だと思うんだけど……」
「ありがとうございます! 楽しみにしてますわね!」
今日、彼女はこの喫茶店に来てくれるらしい。命香ちゃんとどんなやりとりをするのか楽しみだ。
「ところで、ルミちゃんって呼び方はあの子が許可したの?」
「え? う、うん……」
「……そう」
なんだか悲しそうというか、嬉しそうでもあり複雑な顔をしていた。
その時の顔の意味はこの時の私にはわからない。
でももし、この時私が―――
「お客さんね」
外から聞こえた近づく足音で命香ちゃんは気合いを入れ直していた。
私も同じく入れ直し、接客する。
カランカランという音と共に、お客さんは来店した。
「いらっしゃいませ! 何名……様ですか……」
「……またか」
「へっへっへ、嫌われもんだな俺は」
こんな昼からこの人はやってきた。
私としては昨日ぶりの稲田警部だ。
「……なんの用」
「来たからにはコーヒーくらい飲んでいきますよね?」
「はっはっは! 快原の嬢ちゃんにも嫌われちまうとは! だがすまんな、コーヒーは頂けん……持ち帰りのコーヒー豆は買ってくぜ」
「……チッ」
命香ちゃんは奥から袋を取り出し、持ち帰り用のコーヒー豆の準備を進めた。
このお店では持ち帰りとしてコーヒー豆をテイクアウトするか宅配するかを行い自宅でも楽しめるようにしている。
「ところで快原の嬢ちゃん、聞きたいことがある」
「え? 私に?」
「ああそうさ、昨日の夜……なんで知らん嬢ちゃんを助けたんだ?」
「そ、それは……」
なんで、と言われても困る内容だ。
そんなのルミちゃんが困っていたから助けた以外に理由は必要なのだろうか?
「あの時俺達は勤務中だったんだ。場合によっちゃ業務妨害になるんだぜ」
「……でもあの時、あの子は身分証明できるものを持ってないってずっと言ってたじゃないですか。しかも手持ちの荷物は多かった。帰宅途中だっただけにしか見えないと思いますが」
「だが逆に言えば家出少女の家出途中にも見えると思うが?」
「それは極端です! 難癖つけてクレームする人間となんにも変わらないじゃないですか!」
まずい、このままでは話がヒートアップしてしまう。
そんな予感の中、私は感じ取ってしまった。
「っ!?」
「っ! この
背中に嫌な汗が垂れるこの感覚、これは気なのだろうか。
稲田警部は気づいていない、後ろから来るとんでもない【なにか】に
「……言い争いですか」
「んあ? アンタは昨日の……んなにぃ……!?」
稲田警部は対面する事でその気迫に気づいた。
その正体はルミちゃんだった。
昨日会った時とは全く違う。
なんなんだこの気迫は!?
「私に関してでしたらどうぞ後でお聞き頂いても結構……ですが私の友人達の生きる地に害悪となるのであれば……容赦しませんわよ?」
「ひぃぃぃ!? じょ、嬢ちゃん! お代はここに! 豆サンキューな! あばよっ!」
多分さっきの私との話が目的だったみたいだ、ホントに暇なのかな?
稲田警部は逃げるようにルミノーソを走り、帰って行った。
だがそのオーラは消えていない、未だ健在だ。
「っ!」
「やめなさい、ルミナリア」
「……! ま、まぁわたくしったら……なんてことを……」
「
「……失礼しました、メイティ様」
な、なんて光景だ。
まるで王族の会話みたいじゃないか。
舞台劇のようだ。
「……なんてね、感謝するわよルミナリア」
「メ、メイティ! もお〜!」
「貴女がいなかったらあの警察、この子と長くなりそうな口論になりそうだったから……」
「あ、ご、ごめんなさい……」
「大丈夫よ、私も前に口論してたし……それよりルミナリア、よく来てくれたわね」
「はい! ご無沙汰してます! 隊長!」
そうだった、命香ちゃんはルミちゃんにとって上司……だったか。
だが一応幼なじみらしいが……結構複雑なようだ。
「そして美咲さん! 本日はご招待頂き光栄ですわ!」
「ううん! 気にしないで! 命香ちゃんも許してくれたから!」
「私を通して伝えてくれなかったけどね」
「ごめんなさい〜! なでなでするから許して〜!」
「しなくていいから……! バカ……!」
「な、なでなでですって! 貴女達は既にそんな関係に……!?」
「違うわよ! あ〜も〜! とりあえずルミナリアは座って! 美咲はケーキ持ってきて!」
「は〜い! 持ってきま〜す!」
「ふふふ、微笑ましいですわね」
ここから新たに、私達の歯車がゆっくり動き始めた。
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