第10話 新来訪者
「―――ですから、何度言えばわかるのですか!」
夜19時。ルミノーソにて新たなメニューを作った帰り、私はしつこく警察に話しかけられていた少女を見つけてしまった。
金髪、青い瞳、まるで絵本から飛び出したようなお嬢様のような薄黄色の服装。
本当にこんな服に身を包んだ人がいたんだと感心してしまう。
「そうは言っても困るんだよなぁ、最近徘徊してる中高生多いからいろんな被害に遭いやすくてな」
「学校は? これ場合によっては連絡しないといけないから」
「で、ですからぁ……」
あらら、結構困ってそうだ。
確かによくニュースで深夜に学生さんが外に出て事件に巻き込まれてるって話は聞くが、あれは多分帰り途中だろう。
あんなにしつこくしなくてもいいのに……うん。
「ごめんね〜! お待たせ!」
「えっ……?」
「アンタ……快原の嬢ちゃん?」
「あ〜稲田警部! この子私の友達で! 迷ったらココで待っててって言ってあったんです〜」
「そ、そうかのかい?」
「えっあっ、はい!」
一気に情報量が流れれば流されてくれるだろうと思ったが、成功したようだ。
「それじゃ行こ! 稲田警部! また!」
「あ、あぁ……」
「……あの子が警部の言ってた……」
「あぁ、だがありゃ2人とも面識ないだろ……何故助けた?」
一気に話を畳みその場を去り、改札を抜けホームまで走った。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば大丈夫……かな!」
「あ、あの……助かりましたわ」
「ううん! あっ! ご、 ごめんなさい! 改札抜けちゃった……」
「ああいえいえ! わたくしここから4駅先の場所を目指しておりまして……」
なんと偶然、私と同じではないか。
「ホント!? よかったぁ私と目的地は同じだ!」
「そうでしたのね! 改めてお礼出来ますわね!」
「あっ自己紹介がまだだったね! 私美咲!
快原美咲!」
「申し遅れました。私はルミナリア、ルミナリア・フィリスと申します」
えっまさかこの子、外国の子!?
「も、もしかしてこの辺りは初めて?」
「はい! 本日目的地である4駅先の自宅に引っ越しまして! 今日ようやく着きましたの!」
「その途中で……あの警察さん達と……?」
「えぇ……学生がこんな時間出歩くものではないとかなんとか……私そんな幼くなくってよ?」
確かに、私と同い歳……或いは命香ちゃんと同い歳だろうか……
「何故か向こうも全く引き下がらないものですから困ってましたの! 本当に感謝しますわ!」
「ううん、困ってたら助けるのが人だから! 気にしないで!」
「困ってたら助ける……そうですわね」
「ところで……えっと、フィリスさん……って呼べばいいのかな……」
「ルミナリアとお呼びください! フィリスは名字ですから!」
珍しい。海外の人は頭が名字の方が多い気がしたが下がファミリーネームとは、どこの出身だろうか?
「それじゃえっと、ルミナリアさん」
「さんなんて堅苦しい! わたくし友人からはルミとも呼ばれてます! ぜひそうお呼びください!」
「じゃ、じゃあ……ルミちゃん……?」
「はいっ! わたくしも美咲さんとお呼びしますね!」
ルミちゃん、そういえば今働いているのもルミノーソだし、何かの因果なのだろうか?
私たちはゆったり電車内で話をした。
なんでも海外留学とのことで、大学生との事。私と同い歳らしい。
「東京は素晴らしいですわ! 語学による表現の多様性! 尽きないアイディア! それに……」
「……それに?」
「わたくしの大好きなプラモデルが簡単に手に入る! こんなに素晴らしいことはありませんわ!」
「プ、プラモデル?」
もしかしてこの子、結構なオタクだろうか。
確かに日本、東京ともなれば物流は非常に多いだろう。ホントにどこ出身なのだろうか?
「ルミちゃんのご実家はどこなの?」
「へっ!? あ〜えっと……それは……」
「……?」
「あら目的地ですわ! 美咲さんもここなのですよね!?」
「えっ、う、うん」
「降りましょ! 過ぎてしまいますわ!」
なんかいい感じに誤魔化されてしまった、教えられないところとはどんな所なのだろう……?
なんだかんだで20時を回っていた。
女性二人だけで歩くにはちょっと危険な時間だろうか。先程の話は逸らされたので別の話を持ちかけた。
「今回は留学で来たんだっけ? 大学?」
「ええ、主に語学を学びたくて……」
「今でも結構流暢だと思うけど……いや、寧ろ日本人と同じな気が……」
「そうでもないですのよ、正直言葉の意味がわからない単語とかも多いですから、その点をメインで学びたいんですの」
「へぇ〜……」
「あと……探している人がいますの」
「人探し?」
「ええ、留学と同等の重要性でしてよ」
その瞬間、月が雲から現れ私達を照らす。
その光はルミちゃんを美しく照らし、どこか懐かしさを感じてしまった。
「……黄金の……虞美人……?」
「えっ……? 美咲さんそれは……」
何故こんなことを言ったのかはわからない。
だがこのシチュエーションには見覚えがあったのだ。
遠い昔、植え付けられたかのような私の記憶かすらわからない風景。
無意識にそんな事を考えていたが、その無意識を邪魔する黒い何かを私は感じ取った。
「っ!?」
「美咲さん?」
その何かは帰り道にある住宅街の分かれ道、丁度家とは反対の道から感じ取った。
この感じは何度が感じている、「アレ」の感覚……いや、これはまだそれにはなっていないだろう。
「……ルミちゃん、帰り道はそっち……?」
「え、えぇ……そうですが……」
「ごめんなさい、私急用思い出してこっちに行かないと行けないの。もう夜も遅いから早く帰った方がいいよ! それじゃ!」
「あっちょっと……!」
私は静止するルミちゃんを後ろに、感じ取った場所まで走っていった。
「なんだったんですの……
っ!? これは……凶魔獣の力!? 美咲さんの向かった道じゃないですか! いけない!!」
ルミちゃんを置いて全力疾走で走る。
ここは路地がないためほぼ一本道、そしてこの辺で「アレ」を拾ってしまう可能性があるとすれば……
「っ! いた!」
私が初めて黒き衝動と対面した公園、ココは子供が拾ってもおかしくない場所だろう。
そして公園のベンチに、そのオーラは佇んでいた。
「…… あ゙〜?」
「これ、拾いたてじゃないの……?」
制服を着た恐らく男子高校生。まるでゾンビのような唸り声をあげその手には「アレ」が握られていた。
「凶魔コア……! でも今なら……!」
前回、前々回は既に黒き衝動だったり善意を受ける気がない悪人が相手だったりと失敗続きだったが今回はおそらく違う。
さっきの感覚、彼が拾った事によって感じ取ったものと思える。ならばまだ今なら助ける事は出来るはずだ。
「聞こえてる!? 聞こえてたらそのコアを離して!」
「…… あ゙〜?」
ダメだ、恐らく理性がない。ならやる事は……
「! やぁぁぁぁぁぁ!」
私は走り出し、学生に向かって突撃する。
この状態で神機は危険だ、殺してしまってもおかしくない気がする。
なら対話による回収、或いは神機を使わない力で回収するしかない。
「!? うがあ゙あ゙あ゙あ゙!?」
突然距離を詰められ驚いたようで抵抗してくる。意識あるのかと思ってしまうような右ストレートが顔めがけて飛んでくる。
「あっ! くぅ……!」
反応が遅れた私は両腕を前に出しガードするが非常に痛い。倒れたりはしなかったが距離を離されてしまった。
「む、難しいね……!」
「があ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
仮にもコアを拾った人間、なら力が強くなっても仕方ないだろう。
ならどうすればいい、どうすれば神機の力を使わずに彼を助ける事が出来る。
やはり、あの剣を使うしかないのか……?
【甘い、甘すぎるわね】
!? 今の声は……
【そんな8の神機を使わずとも助けられるわ】
そ、それは……
【さぁ 再び目覚めさせなさい 第9の神機】
その声は、私の頭に鳴り響いた。
なんだ今のは。
声? 祈り? 命令? お告げ?
それに属さないような言葉。
命令でもないから嫌な気分でもない。
ただ暖かく、包まれるような気持ち。
これは、前も感じた――――
「―――MGA 起動」
やはり使うしかないようだ。
だがこの力は、暴力という力だけではない。
「!? あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
「……大丈夫、怖くないよ」
第9の神機、
その力は癒し、だがそれは体の傷を癒すだけではない。
光はこの公園一帯を包み込み、新たなる空間を作り出した。
それは辺りが光に包まれる、優しい空間。熱、暖かな光。この熱が人に優しさを与える。目の前にいる
「なんで……なんでどいつもこいつも! 俺を騙す!」
「……そっか、騙されたんだね」
「最低なヤツらだクソな奴らだ嘘はキライダナニモカモキライダ!!!」
「……大丈夫。君は強い、その力に呑まれる事は無いよ」
「キライダキライダキライダキライダキライダキライダキライダ」
「そうだね、人を陥れる嘘は私も嫌い……だけど大丈夫だよ」
「……ナンナンダ、オマエ」
「……私はただの、何にもなれてない自分だよ」
「……何かに変わりたかったんだよ……何にもないから! 俺は!」
この子、私と同じか。
ルミノーソに来る前は、何にもなれなかったから。
「大丈夫、何も持ってないってことは、なんにでもなれるんだよ。君は何者にでもなれる」
「っ!」
「何も持ってないならなんにでも挑戦出来る! そんな時間もいっぱいある! でもこれは君が持つべき力じゃない……」
「……どうやって見つければいいんだよ、曖昧な何かなんて……」
「……自分の事は、自分の中にあるものが知ってるよ」
「……そんなもの」
「あるんじゃないの? 小さな頃に目指していた目標が」
「!!」
「ならそれを目指す為の道を歩きなさい」
「目指すための……道……?」
「そう、その道は険しいけど、心がその道を照らしてくれる。自分で自分を決められるたった一つの贈り物だよ……」
「……そっか……」
少年は手の中にある黒く染った結晶を力が抜けたように手放し、幸せそうな顔をしていた。
凶魔コアは粉々に砕け、少年はその場に倒れていた。私も神機を消し様子を見に行こうとするが少しクラっとしてしまう。
「うっ……なんだったんだろあれ……」
光の結界、とでも言うべきだろうか。
あの力は私が使っていたあの神機の……あれ……? 私、何の神機を使ってたんだっけ……?
なんか、光ってたけど……あれ……?
「そこまでです!」
「っ!?」
そんな思考している時間なんてなかった。
後ろを振り向いた瞬間、眩く光る何かが私の頬を掠めていく。
「なななっ!?」
「その手のコアを手放しなさい! それはここの方々の手に余る物です!」
「ま、待って! 話を聞いて……!」
「言い訳は……あれ……?」
この声、聞き覚えがある。
なんだったらさっき聞いた声じゃないか。
「貴女……美咲さん……?」
「その声……ルミちゃん……なの!?」
今は20時、辺りは暗く殆ど見えていない。
だが声でお互いを認識でき、丁度月夜が私達を再び照らしてくれた。
そこには蒼き光りを帯びた弓、間違いない。第5の神機、
そしてそれを持っているのは先程まで一緒にいたルミナリアだったのだ。
「ど、どうして貴女がここに……」
「それはこっちのセリフ……どうして……どうして神機を……!?」
「神機を知っている!? じゃあ貴女も西京の……」
「あっ、いや私は……」
交差する思惑と思惑。
その思惑がぶつかる時、それは赤く染まるか、それとも白に染まるか。
また新たな動乱の始まりである。
「ふぅ〜……またいい実験が出来そうだあ……」
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