第9話 新献制作
「命香ちゃん、全ての謎が解けましたよ」
「事件なんて発生してないわよ」
あの買い物から数日、今日が頂いた休み最後の日。
私達はいつも通りルミノーソでコーヒーを頂いたり今後の改善などを話し合っていた。
私はまるでゲン○ウポーズのように座り、カウンター奥で作業する命香ちゃんと話をしていた。
「で、謎が解けたってどういう事よ」
「改善案だよ改善案! 前に言ってたアレ!」
「……確かに言ったわね」
以前命香ちゃんが言っていた「何かが足りない」という問題に対して改善案を募集していた。
私はその改善案をひとつ、持ってきたのだ。
「ここ、メニューはとっても豊富だし命香ちゃんが作る料理も絶品でSNSでも流行ってるらしいんだよね」
「まぁ……確かに来店してくださるお客さんはいつも評価してくれてるわね」
「でね! そんなメニューを見ていた時に気づいたことがあります!」
私はメニューを開き、全体を指さした。
「このお店! デザートがない気がするの!」
「……あ、確かに」
「コーヒーのお供としても食後のデザートとしてもここは必須だと思うんだけど……」
全体的に見てこのお店のデザートは……
「デザートと呼べるものがゼリーしかない! これじゃファミレスの下位互換になっちゃうよ!」
「……そうね、メニューの改善は必要ね。でも私デザートとかは作った事……」
「そこは安心して! 私にいい考えがある!」
「それ、不安になるのだけど……」
「だ、大丈夫だよ! その為に準備してたんだから!」
そう、その為に以前の買い物で食料の買い出しを行ったのだ。
命香ちゃんを連れ使われていないルミノーソのキッチンを訪れる。
使われていないキッチンは非常に冷えきっており今回作る料理には最適な空間だ。
前回ここに泊まった時に見つけて本当に助かった。
「それでは早速! 美咲’sキッチンを初めます!」
「まさか貴女スイーツ作れるなんてね……」
「えへへ……実はおばあちゃんのお手伝いしてる時に何回もね……ってなんで意外そうなの!?」
「思うわよ、なんかおっちょこちょいに見えるし」
「酷い〜!」
まぁ正直否定できない。それはともかく、コーヒーのお供としては最適なスイーツをこれから作り始める訳だがこのキッチンは非常に整っている。
「オーブンはいつものカウンターの下にあるから、バッチリだね!」
「ところで何を作るつもりなの? 前に買ったあの食材で作れるものと言ったら……」
「ふっふっふ……なんと今回は……ケーキを作ります!」
「ケ、ケーキ……? 簡単に作れるものなの……?」
「本来は大きめのオーブンとか泡立て器とか必要で条件は大変だけど……ここはそれが全部あるからね!」
まず私は卵を割り砂糖と共にかき混ぜ、命香ちゃんには小麦粉をふるいにかけてもらう。
そしてある程度卵はかき混ぜたら泡立て器で混ぜまくる。
「まぁ泡立て器使っても長いんだけどね〜……」
「……でもこういうの毎回作るとなると結構時間も負担もあるんじゃ……」
「そこは任せてよ! 命香ちゃんは通常メニュー、私がデザートメニューで分担で大丈夫! 私デザート系ならレパートリーはこれ以外にも結構あるから!」
「でも……」
「大丈夫! 信じて!」
命香ちゃんにばかり負担をかけるわけにはいかない、こういう事でも役に立ちたいんだ。
じゃないと命香ちゃんほ隣には……
「……美咲……?」
「あっ、ううん! なんでもないよ!」
いけないいけない、表情に出ていたようだ。
料理に戻り混ぜ終えたら小麦粉とかき混ぜ混ぜたらバターと牛乳も混ぜ合わせる。
「この辺りの食材はデザートとズッ友だからね!」
「確かに……コーヒーとかに合うデザートは大体これを含んでるような……」
全て混ぜ合わせたらスポンジケーキの型に入れて20~30分オーブンに投入!
その間に生クリームとケーキにある実はかなり美味しさが変わる物を作らないといけない。
「シロップを作ります!」
「シロップ……? 出来たケーキにでもかけるの?」
「舌がバカになりそうだよそれ……」
「それはそれで美味しそうだけど……」
「えっ」
気を取り直してシロップはスポンジケーキにコーティングする形で付ける。
こうすると実はお店みたいな甘くて美味しいケーキが出来るんです。
と言っても水と砂糖を煮立たせてから冷ますだけで完成ですが……
生クリームもクリームにグラニュー糖、氷水があれば20分程で出来上がる。
「あっ……これは西京で見た事ある……」
「西京でもやっぱりこういう料理ってあるの?」
「えぇ、西京の料理は正直東京と変わり映えはないわね……和食メインで他の国からの料理が知識があるって感じだから……」
「じゃあこっちに来てから初めて食べた料理とかってある?」
「ん〜…魚料理全般ね」
「魚?」
「えぇ、こっちにも海はあるけど水質汚染が酷いのよ……だから魚は限られた人間しか食べられない超高級食材よ」
「そ、そうなんだ……」
西京も環境は中々厳しいようだ。よく考えれば凶魔獣という見た事はないが怖そうな生き物が跋扈しているようだから仕方ないところはある気がする。
スポンジケーキ、生クリーム、そしてシロップの準備が出来ればあとは簡単、スポンジの頭の部分を切り取りスポンジを半分にしてからシロップを塗りたくる。
「……これ、中々楽しいわね」
「そうでしょ!? おばあちゃんとやってた時も楽しかったんだぁ〜」
「……その、 たまに出てくる美咲のおばあさんは……」
「うん……ちょっと前に亡くなってる……」
「……ご、ごめんなさい」
「ううん! 大丈夫! 気にしないで!」
「……」
まずい、また命香ちゃんに気を使わせてしまった。他の人の前ではおばあちゃんの事は深く考えないようにしていたがそう聞かれてしまうと考えずにはいられない。
でもだからと言って命香ちゃんに辛い顔を見せる訳にはいかないのだ。
だが私はそんなことを考えているうちに、隣から来る命香ちゃんの手に気づかなかった。
「……えっ……め、命香ちゃん……?」
「……無理はしないで、辛い時は……そうね……ぎゅっとしても……いいから……」
「えっ命香ちゃん……えっ……?」
私は撫でられていた。
何度か命香ちゃんを撫でていたように、優しく。
ちょっと冷たかったけど、撫でられると安心する、これは命香ちゃんにしてもらってるからなのか。
「……ら、ラストスパートだし、続けよっか!」
「え、ええ……そ、そうね……」
結局お互い恥ずかしくなってしまった。
だがなんだこの心のざわめきは、ザワザワが止まらない。
だがケーキ作りは最後の仕上げに入る。
シロップを塗ったスポンジケーキに生クリームをコーティングし、その上にカットしたイチゴを全体に置く。
そしてケーキ屋さんなどで見たことのあるように上部分をイチゴとクリームで乗せれば……
「出来た! ホールケーキ!」
「おお……美味しそう……」
お祝いごとで見れるホールケーキの完成となる。
あとは中の果物を変えたりマジパンを載せたりすれば色々とオシャレできるがあとはチーズケーキやチョコケーキもスポンジ部分をコチラで作ればメニューは色々試せる。
「た、食べてもいい……?」
「うん! 3時のおやつだね! コーヒー
も一緒に!」
コーヒーを2人で淹れ、共にホールケーキを切り分け席に着いた。
「よ、よーし……」
「……い、頂きます」
上手くいったとは思うがこれをお店で振る舞える物なのか……そんな不安もありながらケーキを1口、頂いた。
「あ〜むっ! ……んっ!?」
「こ、これは……!」
「「美味しい〜!」」
甘くてイチゴも美味。これはケーキ屋さんにあるような美味しいケーキだ。
スーパーでたまにケーキが置いてあるが、そういう物より遥かに甘くてコーヒーと一緒に頂きたくなる。
「美味しい……美味しいよ美咲……!」
「うん! ホントに良かった!」
これならお店に出しても恥ずかしくない出来栄えにはなったはず、メニューに関しては1つ解決だ。
だが今のこの現状でもう1つ、問題が発覚する。
「……まだ二切れあるわね」
「……そうだね」
「……一切れのサイズ、それなりに大きかったわよね」
「……そうだね、お客さんに出す時はもう少し小さく出す予定だけど……」
「……今から食べるにしては、ちょっとカロリーあるわね」
「……そうだね」
お互い自分のお腹を確認する。
流石に生菓子ではあるから早めに食べなければいけない、が流石にカットしたとはいえまあまあなサイズのケーキをもう一つという訳にはいかない。
さすがに私達、女の子だし。
「……」
「……」
「……呼んでみる?」
「……そうしましょう」
「んまぁ〜ホントに美味しいじゃな〜い!」
「そうでしょう! ささっ! 食べてくださいジョーさん!」
「あらありがと! 新メニューとしては素敵ね〜」
「おかわりもありますよ」
なんだろう、処理班みたいな感じでジョーさんを呼んでしまった。
まぁこの人なら二つくらい気にせず食べちゃいそうだし……
ジョーさんも美味しそうに食べてくれてるし、反応的にもよかったみたいだ。
「これならスイーツの無かったここにもまた強みが出てきてるんじゃないの〜?」
「はいっ! 命香ちゃんがコーヒーを、私がスイーツを作れば怖いもの無しです!」
「……そ、そうね」
「……んふふふふ」
「ジョーさん? どうしたんですか?」
「いやね……貴女達、とっても仲良さそうだったから……」
「そ、そうですかねぇ……えへへへ」
「……」
中々恥ずかしい気持ちになるが全くもって嫌では無い、寧ろ嬉しい。
命香ちゃんはそっぽを向いて無言だったが、あまり嬉しくないのだろうか……
「あらっ!」
「ん……?」
「命香ちゃんったら! イチゴみたいに真っ赤じゃな〜い!」
「あっ……ホントだ……」
「う、うるさい! 見ないで……!」
イチゴかリンゴか、或いはさくらんぼなのか。まるで果物のように命香ちゃんの顔は真っ赤になっていた。
必死に顔を隠しているが隠しきれない、ん〜これは……
「命香ちゃん可愛い〜!」
「ちょっと美咲!? や、やめなさ〜い!」
むぎゅ〜っとして優しく撫でてあげた。
ちょっと抵抗されたが撫でてたらいつの間にか大人しくなって受け入れてくれた。
こうして私達の短いおやすみは終わりを迎えた。
満足な私はルミノーソを後にし、帰路へ向かっている。
「ん〜明日から頑張るぞ〜!」
気合を入れ明日に備える。
現在の時間は19時、希望を胸にしている私の耳に聞き覚えのある声が届いた。
「―――早く見せてくれよ」
「で、ですから今は持ち合わせて……!」
「ん……? あれって……」
男性二人、それも警官が高校生くらいの女の子に恐らく聞き込みをしていた。
しかも警官の1人はあの稲田警部、何やらただ事には見えない。
「何度も申しているではありませんか! わたくし今は一人暮らしで身分証明出来るものは自宅ですの!」
「どうします、警部」
「ふぅん、この時間に出歩くにはちょいとご立派すぎんかね……派手すぎんだよ」
「し、私服にケチをおつけなさるのですか東京の方々は!」
もし私が何かを与えられる者になれるなら、与えられる物は誰かへの愛、それから幸せを届けたい。
それこそ私の願いだ。
「そういえば命香ちゃ〜ん、今ロッテちゃんの行方が分からないらしいわよぉ」
「……え? わからない?」
「なんかぁ、ここに着いてからここどこっていう報告書送って以来何も音沙汰がないとか……」
「それ大丈夫なんですか……?」
「一応変わりが来てくれるらしいわ〜誰かは聞いてないけど」
「それならいいんですけど……」
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