第8話 心機一転
あの日から2日、私と命香ちゃんはルミノーソでゆっくりしていました。
1週間おやすみを頂いたので、コーヒーを飲んだり命香ちゃんの事について色々聞いてたりしています。
「……ふぅ〜、命香ちゃんのコーヒー、やっぱり美味しい」
「何度目よそれ、ふふっ」
「だってホントに美味しいんだも〜ん」
「もうっ、ありがと」
照れながらも命香ちゃんは微笑んでいた。
うん、今日も可愛い!
だが私には1つ、気になる事があった。
「……ねぇ命香ちゃん」
「なに?」
「……なんで制服なの?」
「えっ?」
今日お店はおやすみ、なのに命香ちゃんはいつもの制服姿。
この子の服装はこの制服と命香ちゃんが戦闘用礼装と呼ぶ服しか見た事がない。
この子の私服、なにより気になる……気になってしまう!
「だ、だって一応お店には立ってるから……」
「でもおやすみなんだし、こういう時くらいは私服でもいいんじゃないの?」
「……」
何も言わずに俯いてしまう。しまった、ちょっと詰め寄りすぎたかな……
だが心なしか命香ちゃんの顔は聞かれるのが嫌というより、どこか恥ずかしそうな顔をしていた。
ちょっと沈黙するが命香ちゃんは後ろを振り向き小声で話した。
「…………てない」
「えっ?」
「……私服、持ってない……」
「………………… え゙」
「こ、この制服と戦闘用礼装しかないの……」
「……ホントに?」
「……マジよ」
「……ふっ」
「な、なによ」
「あっはっはっはっ!」
ついつい笑ってしまった。私にとって命香ちゃんは完璧でなんでも出来る子だと思っていた。それは何もかもがであり、日常的な事もかと思っていたがそうではなかったらしい。
そうして自分の持ってる幻想が爆発してついつい笑ってしまった。
「わ、笑うことじゃないでしょ……!」
「あはは……ごめんごめん、意外だと思っちゃって……」
「どういう事よ……もう」
「……よし! それならやることは1つだね!」
「えっ?」
「命香ちゃん! お買い物に行きましょう!」
「え??」
今日は1日、2人で楽しい買い物……私はデートって体でもいいなぁ、などと欲望も出ていたがそれより可愛い服に身を包んだ命香ちゃんを見てみたいというのか本音だ。
あれもしかしてこれも欲望?
「み、美咲……! 私はいいわよ私服なんて……」
「何言ってるの! 女の子なら最低でも数枚くらい服は持つべきだよ!」
「それいつも同じ服来てる貴女が言えるの……?」
正論パンチで心が破壊されました、どうも快原美咲です。
「じゃ、じゃあ私も買う! 私も新しい服買う! だから命香ちゃんも買ってみようよ!」
「……わかったわよ、全く」
「やったー! 新しい命香ちゃんが見られる!」
「そんなに見たいの……? 私の私服……需要も必要もないと思うんだけど……」
「あります! 可愛いくてかっこいい命香ちゃんのカッコ可愛いファッション! すっごい需要あります!」
「ま、毎回思ってたけどお世辞は止めて……私そういう人間じゃないよ……」
「お世辞じゃない! これは絶対に嘘じゃないよ!」
私は命香ちゃんの手を取り、そのまま引っ張った。
「さっ! 行こ! お姫様!」
「ちょ! 美咲!」
こうして私と命香ちゃんによるデート……もとい買い物が始まった。
今回は神機には頼らず2人で駅へ行き、電車に乗りこむ。
平日のお昼前という事もあり多くもなく少なくもない乗客数だ。
「……」
「命香ちゃん? ど、どうしたの?」
乗り込んで早々、命香ちゃんは辺りをキョロキョロしながら警戒していた。
またなにか潜んでいるのかと私も警戒するが……
「……ガタンゴトンしてる……」
「そ、そうだね……?」
「これ、今動いてるのよね」
「う、うん」
「……美咲……腕貸して……」
「え゙」
命香ちゃんはそういうと私の腕に両腕で掴まってきた。
まるで小さい子がお母さんの足にギュッとするかのように、なんだこれは可愛すぎる。
こんな可愛い子をお持ち帰りしてもいいのだろうk違う、これは下心丸出しのもう1人の私だ。
「もしかして命香ちゃん……電車苦手……?」
「だっていつも電車なんて使わない……から……うぅ……」
西京には乗り物がないのだろうか? それとも日常的に神機使ってる……?
確かに乗り物酔いでこういうのが苦手な人も一定数いる。だがそれ以前に原理がよく分からずに高速で動く乗り物は人によっては怖いと思うだろう。
目的の駅までには15駅かかる。だが何故だろう、このままでもいい気がする。
命香ちゃんが私の腕にくっついている、可愛い! しかも凄くいい匂いがする!
コーヒーの香りに紛れて洗剤……かシャンプーの香りが香ってくる……これが命香ちゃんのかおrなんて感じる間もなくいつの間にか駅に着いてた。
「……美咲?」
「はっ!? わ、私の独占タイムは!?」
「そんなものカットよカット」
「そ、そんなぁぁぁぁ!!」
そうこうしているうちに池袋に着いた、ここは色々な場所があるから買い物にピッタリだ。
駅前に出るとビル内のお店の広告や電子看板、更にはアイドルらしき人達の宣伝トラックが通り過ぎて行った。
ここの辺りはまさに東京らしい場所と言えよう、中々騒がしい。
「ふぅ〜……久しぶりに来たなぁ池袋」
「……」
「……命香ちゃん?」
もしかして今度は騒がしいのがダメだったかな……?
「……あの声、違うわよね……」
「……?」
「あぁ、ごめんなさい、なんでもないわ」
アイドルの映った広告車を見ていたようだ。
あれは確か人気ユニットセカンドの
だが特に何も無かったようだ。
気を取り直してまずは服を買いに向かった。
駅前ビル内にはオシャレな服屋さんは沢山ある、これなら命香ちゃんの洋服選びは困らない。
「まぁ行った事はないんですけどね!」
「大丈夫なのそれ……?」
「なんとかなるよ! いざ幕府!」
「鎌倉どこ行ったのよ
というよりそれ土地ですらないじゃない」
ここで私達は様々な服を探し求めた。
クールさ6割可愛さ4割のストリートカジュアルな服装。
ワンショットショルダーにミニスカを着用し、クールな黒のベレー帽の可愛さとクールさ、そしてほんのりとした色気に包まれる理想の女性衣装。
黒のトップス、赤のスカート、肩がけのパーカーに身を包んだ先程より色気が増してしまった大人コーデ、お腹が出ているのが色気に拍車をかけているけしかりません。
だがこの服で方向性は決まった、何故か命香ちゃんはタイツは脱がないのでスカートメインで行くと。
これならカッコ良さが女性寄りのカッコ可愛いファッションに寄れると思った。
「な、なんか視線が多い気か……」
「だって可愛いんだもん! 仕方ないよね!」
「ちょっと鼻息荒らげないでよ、写真も取らないで……!」
そんな事言われても可愛いから仕方ないのだ、うむ。
そして何件かお店を周り、数着と言っていた気がするがもう20着近く買い込んでしまった。
幾つか下着も購入したが着用した姿を見れないのが残念だ
「ふぅ〜! 買った買った!」
「買いすぎじゃないの……? こんなに着ないわよ私……」
「非番の日に着ようよ! そうすればあっという間に全部着れる!」
「そうかしら……」
ビル中のオシャレなレストランで昼食を済ませ、ビル内から退館すると今度は商店街へと向かった。
商店街の雰囲気は明るく人が多い、片手塞がっているが命香ちゃんとは逸れないようにしなければ。
「美咲、その袋持つわよ……? 重いでしょ……?」
「大丈夫! この程度なら軽いし!」
「そう……疲れたら持つから、言ってね」
「うん! ありがとう!」
商店街の方へは私が個人的に食材を買いに来たかったのだ。別に自宅で何かを作る訳ではなく、命香ちゃんのご自宅ルミノーソでだ。
「えーっと小麦粉と卵とバターと……」
「何か作るの?」
「うん! 近いうちにキッチンを借りたいんだけど……いいかな?」
「構わないわ、好きに使って」
「ありがと〜!」
幾つか食材を買った私達は最後、果物を買いに八百屋さんへとやって来た。
「……私、基本コーヒー豆以外の食材はスーパーだけで事足りてたから初めてかも、八百屋に来るの」
「八百屋はいいよぉ……旬な野菜とか果物がいい価格で販売されてるからね……」
「そ、そうなのね」
「へいらっしゃい! 何かお探しかな綺麗なお嬢ちゃん達!」
入店早々中年ほどの大将さんが声をかけてきた。スーパーだとこういうのがない為八百屋は面白い。
「あっ、えっと……」
「こんにちは! 今美味しい果物って何かありますか?」
「あぁ! 今ならオレンジとかキウイとか新鮮でオススメさ! 食べてみるかい!?」
「いいんですか! 命香ちゃん! 食べてみよ!」
「え、えぇ……」
気の利いた大将さんに幾つか試食させてもらいどれも美味だった。
試食させてもらった物は全て購入し最後にイチゴを幾つか購入し今回のお買い物は終了となった。
「ふぅ〜買った買った!」
「随分な量になったわね……」
「じゃあそろそろ……あれ?」
「どうしたの?」
「……あれって……」
私が指を指した方向には何やら人だかりがあった。イベントを開催しているようだ。
「ふれあい動物園出張版……?」
「へぇ〜! そういうのここでもやってるんだ!」
「……どういう所なの?」
「そのままの意味だよ! 動物さんと触れ合えるの! 行ってみよ!」
私達はそこに向かうと今日はウサギの触れ合いを行っていたようで何羽ものウサギがケージで遊んでいた。
とても愛らしく是非触れ合ってみたい。
「わぁ〜可愛い〜!」
「っ! た、確かに……」
荷物を置ける場所に置いていくと2人で案内されたケージに入る。
するとアクティブなウサギが何匹かこちらに寄ってきた。
「わわっ! 警戒してないのかな……?」
「……!」
命香ちゃんは初めて触るのか緊張している様子、今回はネザーランドドワーフというウサギの種類を触れさせてもらった。
「は〜……フワフワ……」
「……」
優しく抱き抱えるととっても大人しくもふもふしていた。
私は先に触れていたが命香ちゃんはウサギさんと見つめあっている。
まるでこのまま勝負でもするんじゃないかと思ったが……
「……お、おいで……」
命香ちゃんがそういいながら手招きすると目の前のウサギさんは命香ちゃんの元に駆け寄り、命香ちゃんの腕の中に包まれていた。
わ、私もあんな風に包まれたい! そんな欲望も出ていたが次の瞬間、私はその心がいとも容易く破壊されてしまう。
「……可愛い……いい子だね……」
ズギュュュュュン、という音が流れてた気がした。
恥ずかしそうながらも優しくウサギさんを抱き抱えている命香ちゃんが可愛すぎてウサギさんも撫でたいが寧ろこの子を撫でてあげたい、その欲求が強くなった。
なんだこの可愛い組み合わせは、こんなの持ち帰りたくなるに決まっているじゃないか……
「えへへ……可愛い……ん……?」
「はぁ……はぁ……」
「み、美咲……?」
この後、命香ちゃんは暇な時にウサギの動画を見るようになったらしい。今度はうさぎカフェにでも連れていこうかな。
そうして途中お笑い芸人の路上コントを見たり色々巡ったあと、無事にルミノーソへと帰宅した。
「はぁ〜楽しかったぁ!」
「……うん、楽しかった」
その時の顔は本当に楽しく、満足して貰えた笑顔の表情だった。
意外だったのはウサギみたいな可愛いものが好きだったこと、そして一部のようだがお笑いにも多少興味があるようだった事。
色々な命香ちゃんをまた見れた、本当に嬉しい。
「……よかった」
「……美咲? どうしたの?」
「……いや〜気分がとっても晴れたから、良かったと思って」
「美咲……」
「最近色々ありすぎて、日常に戻れないんじゃないかなって思ってたの。でも違った、命香ちゃんがいたから今私はここにいられる」
「っ! 大袈裟よ」
「ううん、ホントだよ」
当たり前だ。命香ちゃんがいなければ黒き衝動に殺されていた。命香ちゃんがいなければこの空っぽの心は満たされなかった。
だからこそだろう、今この気持ちを持てるのは。
「命香ちゃん! これから今までの事、沢山恩返しするからね!」
「……わかった、期待してるわよ」
「うん!」
2人の旅人は共に渇望していた。
1人は愛を求めた。もう1人は愛を与えたかった。
この2人が本当の意味で出会えるのは、もう少し先の話。
「あ、それと猫耳カチューシャ買ってきたよ!」
「えっ付けないわよちょっと来ないで来ないで! イヤァァァァ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます