Ep 7.5 Another

孤独を好む者がいる。

だが一生の孤独に耐えられる者なんてこの世にいない。


私の周りには様々な人がいた。

西京を収める9名の老師、ナインズ。

凶魔獣を討伐する部隊、狩聖協会しゅせいきょうかい

狩聖協会に憧れる者が入学する王立セレスティアルアカデミー。

そして私は狩聖協会の戦闘部隊0番隊アナザーの隊長。ナンバー0、アルティマス・メイティ。

ナインズの示す司令を完遂し、西京を守る使命を持った神機使い、信装者しんそうしゃ……人は私をマスターメイティと呼ぶ。


「メイティよ、先の討伐戦ご苦労であった」

「恐縮です、モルディス陛下」

「王も喜ばれておったぞ、また腕を上げたことをの」

「キ……ブルーミングβが? ……左様でございますか」


私の主な任務は多数の凶魔獣討滅。30に連なる戦闘部隊の者たちを連れ、その指揮と戦闘を同時に行う。

皆優秀であり特にアナザー所属の者達は指揮も任せられる。だからこそ私は最大限の力発揮出来る。

アナザーは部隊の中でも最強とされ私含め9人で構成される。

隊長は私、だが私が隊長でなくとも彼彼女らはしっかりと動ける優秀な人達だ。


「メイティよ、次なる神からのお告げを伝えよう」

「拝聴致します」

「最近凶魔獣の心臓がかなりの量持ち出された事が判明しておる」

「凶魔コアが?」

「あぁ、そしてそのコアの流出先はミラーワールドと告げられておる」

「……もうひとつの地球ですか」

「そうじゃ、行った事はあるか?」

「いえ、マスターシャーリーに何度かお話を聞いたくらいで、実際には……」

「おぉそうじゃったか、そういえばあの者はしょっちゅう行っておったの」


マスターシャーリー、それは私の恩師であり母親のような存在。

今はもう、お空の上で私たちを見守っている。

マスターの称号は、彼女から受け継いだ大切な称号なのである。


「……それで、私はもうひとつの地球へと向かえばよろしいのですか?」

「ああ、ここではあの心臓は無害だが向こうでは被害が出てもおかしくはない。凶魔コアを見つけ回収、或いは破壊して欲しい……向こうの人間が亡神になる前に」

「かしこまりました」

「それからジョーを連れてゆけ」

「閣下とですか?」


狩聖協会総司令にして、ナインズの次に位置するとされる実質ナンバー2。

ジョー・レブレロス。幼い頃にマスターと共に私のお世話をしてくれたもう1人の恩人。

風体は不思議な人だけど悪い人ではない。


「ああ、彼も役に立つであろう」

「……承知致しました」


謁見を済ませ、すぐに支度をする。

とは言っても正直やる事はない。

あちらで身分を証明出来るものを即時で発行出来るからあとは一部の戦闘礼装等を持っていくだけ。

今回向かう先は日本という国の東京、この西京とは丁度鏡写しとなる場だ。


「……東京か」


今回、ナインズのモルディス陛下からは向こうでは回収という体ではなく何かしらの隠れ蓑を用意するようにと言われている。

だが何をするべきなのか、そこが1番の難題だ。


「メイティ様!」

「あら、ルミナリア」


アナザーのナンバー3、ルミナリア・フィリス。フィリス家のご令嬢でありながらも高い才能を持つ同世代の女性。

9つの神機のうち4つ覚醒3つ半覚醒している素質の持ち主でもある。


「って、様はやめてって言ったじゃない……」

「あ、ご、ごめんなさい……つい癖で……」

「知ってる、知ってて言った」

「も、もうからかってます〜!?」

「ふふっ、ごめんなさいね」


アナザーの面々は皆と一定数話せるが、彼女はその中でもよく話す方だ。

こうやってからかうような仲でもある。


「それより伺いましたわ、東京に行くんですわよね?」

「情報早いわね、その通りよ」

「……大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ、いつも通りにやれば……」

「いつも通りの環境じゃないから言ってますのよ! 」

「まぁ……そうね、一応閣下もいるから最悪あの人に頼るわ」

「閣下が? 珍しいですわね……」


基本あの人は後ろ目の人であり中々こういう現地に行く任務には参加しない。

私もその関係で会うのは久しぶりだ。


「……メイティ、最後に幼なじみのよしみとして1つ……」

「……なにかしら」

「……無理なさらないでね」

「……うん、貴女もね。こっちの事は任せたわよ」

「はいっ! あとロディ陛下より後日ロッテを向かわせると伝言を受けています」

「ロッテ……あの子大丈夫なのかしら」


ナンバー5、ロッテ・ベルダ。

一般家系の出身でありながら高い素質と才能を持ちこの座まで上り詰めた私の1つ下の子。

だが結構サボりがちでありどこかで寝ている。


「まぁ勅命なら言うことを聞かざる負えないと思うので……」

「……信じるしかないわね……」


私はそう信じ、ルミナリアと別れた。

そしてもう1つの地球と西京が交わる場所、アースポータルの前にあの人は立っていた。

私は敬礼し、その指示を待つ。


「あらぁ〜お久しぶりぃメイティちゅあ〜ん!」

「ご無沙汰しております、閣下」

「んも〜固くなっちゃって……向こうに行ったらアタシの事はジョーさんって行ってちょうだいね! 閣下禁止!」

「さ、左様ですか……」

「あとそんなに固くなるのも禁止ね! さっきルミちゃんと話してたでしょ! そんな感じで!」


注文が多い人だ。だが多分了承しないと進めいだろうと察し、なんとか合わせた。


「……わかりました、ジョーさん」

「は〜いよく出来ました!」

「子供じゃありません」

「え〜? アタシにとって貴女は娘のような子だと思ってるけどぉ〜?」

「……まぁ、お世話にはなりましたが」

「そうそう、貴女の事もメイティちゃんじゃなくて命香ちゃんって呼ぶから、貴女もそう名乗ってねぇ〜」

「どこからその名前出てきたんですか……」


アースポータルは鏡写しの世界、ミラーワールドと呼ばれる場所とこの世界を繋ぐ唯一の転送陣。

設置位置も西京、南のフィレッチャ、北のディナルト、東の寥幻りょうげんにしか設置されていない。

西京は日本という国の東京という場所に繋がっている。


「さ、準備いい?」

「いつでもどうぞ」


私達はアースポータルに入ると、そこは1本の道だった。

回廊と呼ぶべき物だが辺りは明らかに様子がおかしく、道を外したら頭を狂わされてしまいそうだ。


「真っ直ぐ動けばスグよぉ」

「私は初なので、着いたら色々教えて下さい」

「ハイハイ、急かさない急かさない」


そうして再び光に包まれた私達の前に待っていたのは、何処が高いビルの頂上だった。


「っ、ここって……」

「ん〜……ここもしかして……あのスカイツリーかしらねぇ?」


風が強い、なんて所に送り込まれているんだ。

まぁこの程度の高さなら雷翔靴シャインブーツ でゆっくり着地すれば問題はない。


「……スカイツリーって仰いましたか? もしかしてここが浅草という……」

「よく覚えているじゃない! そう! シャーリーと最後に来た時はまだスカイツリーは完成してなかったけど……もう完成してるみたいね」

「……とりあえず」

「降りましょうかぁ……」


そうして私達2人は飛び降りた。

高さ634mという高さからの飛び降りは、こっちの人からすると正気の沙汰では無いと思われるだろう。

だが私はもっと高いところから降りた事もあるし、余裕である。

勿論私も閣下も特殊加工凶魔コアを所持しているため見えることは無い。


「ジョーさん、この辺の事はわかりますか?」

「えぇ、でもそうねぇ……折角だしシャーリーが好きだった所にでも行きましょうか」

「師匠の……好きな場所……?」


師匠は自由奔放で色々な場所を巡っていた。

その師匠のお気に入り、気にならないわけが無い。

私とジョーさんは再び地を蹴り空へと跳び、ビルを幾つも踏み台とし超えていった

そして20分ほど経ち、ジョーさんは指を指し合図を送ると地上に降りた。


「着いたわついたわ! ここよここ!」

「ここは……喫茶店?」

「そうそう! アタシもここのオーナーとは仲良くしてるんだけど、シャーリーはここのコーヒーが偉くお気に入りだったの!」


そこが私にここでの生き方を変えてくれた。

この出会いがなければきっと、何にもなる事は出来なかっただろう。

昔ながらの喫茶店、だがその雰囲気は初めて来た私でも店外から感じる事が出来たのだ。

皆の憩いの地とされる、その名は―――



喫茶【ランティス】

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