第6話 誓い

「はぁ〜……みぃぃつけたぁぁぁ! 偽善者ァァァ!」

「こ、この人が……!」

「凶魔コアの所有者!」


私達は凶魔コアの所有者を探しにルミノーソの隣駅近くへと探索しに来た。

だがまさか、所有者の方から来るとは私達は想定外、不意をつかれた。


「た、助かったわ美咲……でもどうして……!?」

「わかんない! でもなんか直感的にヤバいって思って……!」


今さっき見たフラッシュバックの事を説明してもこんがらがってしまうだけ。

だがそれよりもあの不気味な腕、まさかもう既に……


「もう黒き衝動に……!?」

「いえ、まだそれには早いはず……ただ恐らくあまり猶予が残ってない!」

「じゃあ早く何とかしないと!」

「そうは言ってもここはただの歩道……! 実害が出る可能性が高い……!」

「じゃあ……」

「取れる手段は一つだけね」


ここはただの歩道。隣はそれなりの広さがある車道。人の姿が見えないとはいえここで争えば建物人為共に被害は多数だろう。

ならば取れる手段はこれだけしかない。


「逃げるわよ! 美咲!」

「なんかそんな気がした〜!」


命香と合わせて後ろを向き、走り出した。

見つけた、と言ってた為向こうもこちらを探していた様子、恐らく逃げても追いかけてくるだろう。

だったらこちらに有利な環境に誘い込むのは創作物でよくある話だ。

速さを合わせてくれてはいるが私も体力がある方では無い。体力が早くも底を尽きかける。


「くっ……このままじゃ……」

「もう少し耐えて! 近くに広めの路地は!?」

「そ、その先を左に!」


この辺の地理は他と比べても詳しい。

先の路地は比較的広さがありもし命香ちゃんが戦うことちなっても問題は無い。

私と命香ちゃんは左へ曲がると、子供が遊ぶのに充分な路地裏までやって来た。

一気に走ってしまった為息が上がってしまうが無事に逃げることには成功した。


「こ、ここまで……来たら……!」

「美咲、その裏に隠れてて」

「えっ……!? でも……まだあの人……黒き衝動じゃない……でしょ……!?」

「確かにまだ黒き衝動じゃない……でも、あそこまで侵食してたら救うのはほぼ無理よ」

「……っ!」

「多分あと10秒もしないうちに来るわ、その間はここに隠れてて、いいわね」

「……うん」


再び命香ちゃんはブーツの神機を装着し、戦闘態勢に入った。

本当に無理なのだろうか。今はまだ黒き衝動になりかけの人間、話し合いだって出来るはず。

もう、戦うしか未来はないの?


「っはァァァ〜……同族の香りぃ……」

「何が同族よ、アンタみたいな姿に1度たりともなった事は無いわ」

「命香ちゃん……!」


元来た道からあの男の人がやって来た。

私は近くの物陰に隠れ命香ちゃんを見守る。

命香ちゃんの無事が何よりも大事。だがそう思いながらもあの男の人もどうにか助けられないのか、その思考も回り続ける。


「へぁ!」


そんな思考を他所に2人の戦いが始まった。

あの奇怪な腕が後ろから6本に増え、そのうち1本が命香ちゃんに高速で襲いかかる。


「……!」


だがその腕は簡単にかわされ、目にも止まらぬ速さによって1本斬られてしまった。


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」

「下手な演技は止した方がいいわよ、何よその見え見えな攻撃は」

「……ハッ!これじゃ満足出来ねぇかぁぁぁ!」


1本がダメなら複数で、再び腕が伸び今度は3本の腕が様々な方向から襲いかかる。

フェイクを仕掛けるように腕は伸び続け、攻撃を仕掛けてくる位置が予測できない。

だが命香ちゃんは目を閉じ、姿勢を低く構えた。


「斬豪裂破」


その一言を放った瞬間、命香ちゃんの左足が動く腕の方向に蹴りを放つ。

その速さは尋常ではなく、1秒にも満たない早業でありその蹴りは斬撃のように空間を切り裂く。

まるでアクション映画かのような足の上げ方であり、ブーツの光が命香ちゃんの周りを囲う。

ブゥン、のような高速で何かが通り過ぎる音により複数の腕は空間と共に切り裂かれ、砕け散った。


「がぁァァァ!?」

「あら、もしかして今のもさっきのも本気? 使いこなせてないわね」

「このガキィィィ!」


どす黒い色に染まった腕は更に増え、本数は数えられない程に増える。

そして腕は見えない壁にバウンドするかのように翻弄するが、命香ちゃんには通用しない。


「はぁぁぁぁぁ!」


再び足を高く上げ、向かってくる腕は足より放たれる斬撃で尽く破壊された。


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」

「す、凄い……!」


あんなに速い攻撃、常人には見切れない。

これが神機……いや、命香ちゃんの持つ戦闘技術。

だが私には疑問が残る。なぜ私はそんな戦闘を理解できるのか?

こんな速さ私に理解出来るわけがない。

私の体に一体、何が起きている?


「さて、終わりにしましょうか」

「グゥ!?」


そう呟いた命香ちゃんは地を蹴り、天高く舞った。

上空で数回転し、月夜に逆さまとなった命香ちゃんが映し出された瞬間。


「終わりよ」


ヒュン、という軽い音が鳴ったと思った直後、ドゥン、という痛々しい音が鳴り響いた。


「ぐうううう!?」


男性の顔が勢いよく蹴られ、地面に叩きつけられた。

一般人なら即死だろう。だがこの男性は凶魔コアによって強化され、まだ息があった。

男性は地面に倒れ込み、命香ちゃんはそのまま押さえつける。


「さぁ終わりよ! 凶魔コアを出しなさい!」

「カッは……ばぁ゙……ばぁ゙……」

「さぁ早く!」

「ぐっ……ばぁ゙……」


あのままではマズイ、男性をそのまま殺しかねない


「め、命香ちゃんストップ! そこまでやったらその人死んじゃうよ!」

「美咲!? 隠れててって言ったでしょ!」

「っ! ご、ごめん……でも!」


あの押さえつけ方は弱った人間にしていい事では無い、私は急いで命香ちゃんと男性の元へ寄る。


「言いつけ破ったのはごめんなさい、でもこれは見てられないよ」

「コイツはコアを持っててヤクザなのよ! 近づいちゃダメ!」


確かにそれはごもっともかもしれないが、ヤクザとかそういうもの以前にこの人は人間だ。

この行為は人を殺しかねない。


「……人の命も救いたいんでしょ……?」

「美咲……貴女……」


押さえつけている命香ちゃんの腕をゆっくり引かせると、今度は私が男性にお願いをした。


「カハッ……ゲホッゲホッ!」

「凶魔コアを渡してください。そうすれば貴方の命を救えると思います」

「命を……救える……?」


相手はヤクザ、多分世間的に見ても悪い人だろう。

でもだからと言って死んでいい命なわけが無い、私はこの人を救いたい。

あの黒き衝動を、あの恐ろしい姿を見たくない。


「こいつを渡せば……俺は……助かるのか……?」

「絶対とは言えません……でも、私を信じてください」


だからこそ私は相手が誰でもこの手で救えるなら救う。

おばあちゃんだったら、そうしてた。


「………………………………くっくっくっ」

「?」


その時、私にはまた謎の現象が起こった。


「えっ」


その映像は、目の前で起こる惨劇と同じ結末を辿った。

ハッと目の前を見ると、男性の手に何かが握りこまれている。

棒状で、真ん中にボタンが仕込まれているスイッチ、それでも私の背中には嫌な汗が一気に吹き出し、顔は青ざめる。


「!? 美咲危ない!」

「くたばれ馬鹿が」


私は命香ちゃんに押し倒され、命香ちゃんに抱きつかれた。

瞬間、そのスイッチは押され直後に男性の体が光る。

そして男性は光に包み込まれ、辺り一帯に爆発が鳴り響いた。

バァァン、という音が耳を襲い、鼓膜に多大なダメージを与えてくる。


「っぐ……あ゙あ゙!!」


だがそんな状況でも、命香ちゃんの痛々しい断末魔だけは耳に届いてしまう。

その声と共に私と命香ちゃんは吹き飛ばされ、近くの壁に叩きつけられた。

辺りは爆発によって廃棄物などに燃え移り、あまり大きくは無いこの路地裏も火の海に包み込まれる。


「痛っ……! っ! め、命香ちゃん……!」


少し頭をぶつけたがなんとか動く事が出来、隣に横たわる命香ちゃんを確認した。

私を庇った結果爆発をモロに受け服の背中部分が破け生身の状態に、そして酷い火傷を負っていた。


「そ、そんな……私の……所為……で……」

「……ゔぅ゙……」


息はあるが意識がない。このままでは命が危ない、先程爆発と一緒に壁に叩きつけられて内臓損傷すらしててもおかしくない。現に今腕は出血してしまっていた。

私が出過ぎた事をしなければ、私がこの人も救えると甘い考えを出さなければ、命香ちゃんにこんな大ケガさせずに済んだはずだった。


「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」

「……」


今医療用アイテムは持ち合わせていない。

このままでは死んでしまう、だが焦りと自責の念によって動けずにいる。

そして勿論、その後ろにいる人にも気づけない。


「……っはぁぁぁぁ、つまらん」

「えっ……!?」


後ろを振り向くと、爆発によって燃える廃棄物を背に1人の男性が立っていた。

赤いコート、赤いシルクハット、そして杖。

まるで西洋の男爵だ。

男性はゆっくりとこちらに近づき、口を開いた。


「なんだよなんだよ、神機は覚醒せんし最強の神装者しんそうしゃもくたばってるし、収穫なんてありゃしない!」

「……貴方は誰ですか……!」

「ボク? ボクはただの商人だよ」

「商人……?」


なんとも胡散臭い、そもそもどこから現れた?

この路地裏の入口はひとつだけ、そしてその入口は私の後ろにある。

そんな思考をしていると、以前ジョーさんと命香ちゃんがこんな事を言っていたのを思い出した。


「―――でもね、その心臓部分が最近アタシ達の世界の裏取引に回されたらしくて……」

「―――ここ、主に東京に流れてます」



「っ! まさか貴方が凶魔コアの密売人……!?」

「おぉ〜! まさかその事を知っているとは! あの変態とそこのお嬢様から聞いたようだね!」

「じゃあ貴方がこの一連騒動の黒幕……!」


私が会ったあの黒き衝動も、今回の被害者も、全ての元凶がこの男になる。

話によれば私が出会った黒き衝動の騒動より以前から被害があったと聞いている、つまり何人も出ている被害の元凶はコイツだ。


「ボクはバーク、バーク・ディレントス。西京ではディレントス商会のリーダーを勤めてるよ」

「なんでこんな事を……! 人が何人も死んでるんですよ!」

「何故か。う〜ん、こっちの人に気持ちよくなれる物を提供するのもあるけど、真の目的は実験かなぁ?」

「実験……!?」

「そうそう、凶魔コアって西京の人間としては無害だし安全で便利なんだけど、あの汚い凶魔獣の心臓だからねぇ……危険性を調べろって依頼を受けてるのさ」

「なら……もう結果は出てるはずです! 既に死人が出ています! これ以上何を求めるんですか!」


この男は危険すぎる。私の中の直感がそれを強く伝えてきてはいるがそれ以上に今私の中では怒りが勝ってきた。

いつぶりだろうか、こんなに怒りを覚えるなんて。


「いやいや、まだ結果としては薄い……確かにこれでも完了だけどもっとデータを提出すれば莫大な資金が入ってくる」

「資金……ですって……!?」

「そうだよ? さっきも言ったけどボクは商人だからね。金のために情報を手に入れ売り捌く、何もおかしくないと思うけど?」


理解出来ない。

人が死んでいくのを見てそれをお金にする。

そんな行為、許されるわけが無い、許されていいわけが無い。

その所為で命香ちゃんだって、こんな大怪我をした。

確かに原因は私だ。だがそもそもこんな事がなければこんな現状にはなっていない。


「……」

「ふぅん、流石にこの状態だと凶魔コアは粉々かぁ……もう1個情報発見っと……」


許されない。


「はぁ〜もーちょっと情報欲しかったかなぁ」


この男は罪深き、悪の一端。


「ま、今日はこの位にしておこっと。あ、早くそのお嬢様治療しないと死んじゃうからね?」


その罪、光持って断罪すべし。


「じゃボクはこれで、アデュー!」


逃げること、許さざるべし。







【さぁ誓いなさい、目覚めなさい、私―――】







「とぉ! あっちの方に……どぉあ!?」


地を蹴り空へと逃げたバークだが、飛んでいる途中何かに気づき再び降りてくる。


「な、なんであんなものが……」


空全体には膜、まるで蜘蛛の巣のように膜が張られていた。


「っ! まさか!」


そう、この膜を作ったのは私だ。


「―――MGA《マジェスティックゴッドアーツ》起動」

「おいおい……マジかよマジかよ」


神羅廻門、又の名はマジェスティックゴッドアーツ。それは神機を神より賜る合言葉。

この力は神から与えられる、裁きの武器。

手には球体、9番目の神機【神球儀ヘブンリーミラー】を持ち、私の知る世界を広げた。


「まさかこんなところで……こんな……」

「これ知ってるんでしょ? ならこの先の未来見えると思うけど?」

「っ!」


私は神球儀を左手に、右手は天に掲げ、叫んだ。


「一刀、廻門!」

「なんだと!?」


神球儀を片手に、もう片方の手には1本の剣が舞い降りた。

2番目の神機【神裁剣ジャッチソード】を私は握る。


「……1秒あげる」

「はぁ!?」

「貴方が出来るなら逃げてみてよ、逃げられないなら……」

「ぐぅぅぅ!」


一瞬だけ空に張った膜を消した。

だが危険性を察知したバークは逃げ足は早く、すぐに隣のビル屋上へと飛び去って行った。


「……」

「いやはやまさかこんな時限爆弾いるとは……アンタ! 名前は!」

「……美咲、快原美咲」

「ほ〜美咲か……アンタとはまた合いそうだな! またどこかでな!」


そういうと再び地を蹴り空へと逃げ、どこかへと行ってしまった。


「……ふん、私はもう会いたくな……い……」


膜をそのまま消滅させ神球儀と神裁剣を消した私は、一気に意識が朦朧となる。

マズイ、今は命香ちゃんが重症なのにここで倒れてはいけない、そう思い命香ちゃんを見るとあの怪我、なんだったらあの破けてしまった服まで治っていた。


―――そっか、なら寝ちゃってもいいよね……






「はぁ〜まさかこんな事になるなんてねぇ。でもとりあえずお疲れ様、美咲ちゃん、命香」


それ以降の事は記憶が無い。

後で聞いた話ではこの事件は廃棄物の中に可燃性の物があった爆発事故として事件とはならなかったとか。

亡くなったあの凶魔コアを持っていた男性のことは語られていない。

だがここからだ、ここからまた世界は変わっていく。

いや、変えなければならない。

それが神から武具を賜った私の使命となるのだから。







「いやぁ〜命からがら! 最後の最後に豊作情報手に入れられるとは……まさかあの女、ひょっとしてアレなのか……?」



「マスターメイティと同じ力量なんじゃないか……?」

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