第7話 おはよう魔法少女
「……──きちゃん、咲ちゃん朝だよ!」
ゆっくりと瞼を開くと叔父の顔が目の前にあった。
「勝手に部屋に入ってごめんね、でも朝なのにまだ起きてこないし、体調崩してるんじゃないかって心配で……」
「……おは、よう」
今のは夢だったのだろうか。なんという悪夢だ。しかも生生しくストーリー性のある。
「大丈夫……? 今日は学校お休みしたら? 面接の日程もずらしてもらったほうがいいんじゃない?」
面接の言葉に、私は目を見開いて飛び起きる。
「あれ、今日だったよね? 侑里ちゃんの親戚の喫茶店でバイトする面接」
私の顔を覗き込む叔父はいつも通りで、少し心配そうに眉を下げている。枕元のスマホでスケジュールを確認するときっちり予定が登録されていた。お腹にずきりと痛みが走る。
「……大丈夫。ちょっとお腹痛いから、学校は体調回復したら遅刻して行くね。面接は……予定変更してもらおうかな」
「うんうん、それがいいよ! なんだったら咲ちゃんは叔父さんがいるんだから、バイトなんてしなくてもいいんだよ!」
私は少し考える。
「……うん、ちょっと様子見て考えようかな。部活も気になるし」
ぱぁっと一気に叔父の顔が輝きだす。
「それより和弘叔父さん、もう家出る時間じゃない? 私は自分のペースで学校行くから、心配しないで」
「うわあああそうだった! それじゃあごめんね、叔父さんお仕事いってくるから!
今日一日休んでもいいからね!」
行ってきまーす! と元気な声とバタバタと慌ただしく家を出る音を聞きながら、私も家を出る準備を始める。
私はあの人の顔を知っている。面接が今日ならば、あの人とは会ったことがないはずだ。会ったことがない人と夢の顔が完全に一致することはあり得ないだろう。
1ヶ月通った道を、私はちゃんと覚えている。このベルが鳴る扉も。チリンと音を立てて、扉を開けると夢の中と同じサングラスの男が一人でカウンターを掃除していた。
「あーすまないんだけど、お嬢ちゃん、まだ開店前でね」
「……魔法少女になりにきました」
その言葉を聞いて男はほう、とつぶやいて私の前まで歩みをすすめる。
「へぇ。何のために?」
「────復讐のために」
***
咲は店長に状況を説明し、おそらく固有魔法で死に戻ったのではないかと話した。だがそれは正確ではない。
咲はすでに固有魔法を所持していた。だから制服の固有魔法が発動しなかった。それは魔法開発プロジェクト開発リーダーである澁谷和彦が、自分の仕事が原因で娘に何かあった時のためにと個人で開発を行った誰も知らない魔法だ。それはトリガーは対象の死、発動内容は対象が魔法を最初に見た日に設定された、世界にたった一つの個人への愛情が込められた魔法だった。
その愛情で魔法少女は目覚めた。そして魔法少女は復讐に人生をささげ、道を歩んでいく。
Fin.
魔法少女が見た夢は 卯月小春 @Koharu_April
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