第6話 魔法少女は夢を見ていた


「和弘、叔父さん……?」


「咲ちゃんは大人になったらこっち側に来てもらうつもりだったのに。蛙の子は蛙ってやつかなぁ」


 聞こえてくる言葉は、声は叔父のものだ。でも声のトーンがいつもより低い。それだけで知らない人が話しているように聞こえる。


「ねぇ咲ちゃん。どこまで聞いたの?」


「なに……言ってるの」


「咲ちゃんのことだから簡単には魔法少女になるわけないよねぇ、だってそう育てたんだもん。そうなるとやっぱり兄のことかな?」


 なんでお父さんの名前が出てくるのだろうか。この人は……本当に今まで育ててくれた叔父なのだろうか。


「まぁでももう最後だし。知ってても知ってなくてもいっか。咲ちゃんがあの制服を着て事故現場で活動してくれたおかげで拠点は分かったんだし」


 透明化をしていたはずなのに、どうして見えていたんだろう。いや、そもそもどうして魔法を知っているのだろう。誰も喋れないはずなのに。

 また一つ乾いた音が響く。今度はお腹に衝撃が走る。目の前の銃を構えているこの人はいったい誰なんだろう。


「ちょっと早いけど、お父さんとお母さんと同じ場所へいけるんだから大丈夫だよ。」

「どうして、透明の魔法、見えて」

「ふぅん? 透明の魔法なんてものがあるんだ。どおりで話題にならないわけだ。揉み消されてるんだろうなとは思ってたけど、これだけインターネットが発達した社会じゃ全てを揉み消すのは難しいはずなのに、一般人の目撃情報が全然ないのはそういうことだったんだ」


 だんだん意識が朦朧としてきた。必死に考えるがもうわけがわからない。


「……うん、もう出血量的に助からないね。冥土の土産に咲ちゃんのお父さんと叔父さんの話をしようか。

 叔父さんは子供のころから今の国の政策に反対でね、中学生の時には自分で調べて反政府派として活動する組織に加入していたんだ。当時はまだ子どもだったから話を聞くだけだったけれど、昔から頭は良かったし期待されていたんだ。

 そして大学生になったばかりのころに全国各地でデモ活動を行う話になったんだ。デモをすれば嫌でもニュースで話題に取り上げられるし、今いるメンバー以外の活動者も増えることを想定してね。……だけれど、そのデモ活動は2日と続けられなかった。なんでか知ってる? そう、咲ちゃんのお父さんを含めた国が動いたからだ。魔法を使ってね。

 当時は驚いたものだよ。国が何か動くのは想定していたけれど、人間離れした身体能力を持った人が何人もいて、その中に君のお父さんがいたんだからね。まぁあちらは僕に気づいていなかったようだけれど。そして色々なコネクションを利用して、あれは国が開発した魔法だと知ったんだ」


 そうか、叔父が透明化した私の姿をバスの事故現場で目撃できたのは、もう魔法を知っていたから。だから私も魔法について口にできた。

 そしてきっと、叔父がその話を聞いたのは魔法を知らない人にそのことを話せなくなる魔法が開発される前。叔父やその組織の人は魔法にかけられていないから、今も魔法を知らない人にこのことを話せる。見えるようになれば、あとは一般人とは違う動きをする人を特定すればいいだけだ。


「どうにか立ち向かおうとしても魔法にはなかなか対抗できなくてね……しょうがないから魔法に対抗するための組織を立ち上げたんだ。本当は魔法を無効化できるのが理想なんだけど、どういう理屈で魔法になっているのかがわからないからあくまで軽減することしかできなくてね……まぁあの店に魔法少女がたくさんいるってわかったから、これからはいくらでも実験できるだろうし」


 実験台に、なる……?


「ああ、非道いなんて思わないでね。そもそも人体実験始めたのはそちらでしょ。まったく、ここまでの魔法を開発するのにいったいどれだけ実験したのやら。途中から現場で見かけるのは何故か女性ばかりになったんだけど、君のお父さんが国側だっていうのは分かっていたから、いなくなってもらったんだ。奥さんはどうしようか迷ったんだけど、大学からの付き合いでどこまで知っているかわかんなかったからさ。

 咲ちゃんだけ助けたのは将来僕と同じ組織に勧誘して、魔法少女のプロジェクトに潜入してもらおうと思ってたんだ。それなのにさ、咲ちゃんは自分の意志で魔法少女になっちゃってるし。さすがに咲ちゃんを実験台にはしたくないから、先に殺しちゃうことにしたんだ」


 お父さんとお母さんは事故じゃなかった……殺されてた……なんで、なんで。

 私はこの人に助けてもらって、この人をずっと慕って、信じていたのに。


「んー、あと話してないことは……思いつかないな。咲ちゃんは聞きたいことある? あ、もう喋れないか」


 悔しい。悔しい悔しい悔しい。

 お父さんとお母さんを、殺した人が目の前にいる。それなのに私は何もできない。無力だ。もし、もしあの時、見られていなければ。もし今魔法が使えれば。


 頭の中がぐわぐわと沸騰するように熱い。




「それじゃあ、咲ちゃんおやすみなさい。いい夢を」

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