第5話 メイドは働く
「いらっしゃいませ」
「1名です」
「和弘叔父さん! いらっしゃいませ、窓際のテーブル席へどうぞ。
すみません、私がこちら対応します」
私は二人掛けの席で日当たりもよい窓際の席へ案内する。
「こちらメニューです。おすすめはホットコーヒーとあんみつです」
「じゃあホットコーヒーとあんみつを一つずつお願いします。はぁ……やっぱりメイド服姿とても似合うね。メイドというとどうしてもミニスカートで男性に媚びるってイメージが先行しやすいけれどロングでクラシカルなメイド服に落ち着いた店内で……とてもいいね!」
きっと外だから控えめなのだろう。そうじゃなかったら不審者として通報されている。なんだかいつもの大げさな表現じゃないからか私のほうも照れてしまう。
「ホットコーヒーとあんみつ1つずつですね。店長が目を光らせてくれてるから、変なお客さんとか会ったことないよ」
「そうかそうか、それなら安心だ。そういえばさっき近くで事故があったみたいだけど大丈夫だった? 誰も巻き込まれてない?」
「うん、スタッフさんは大丈夫。お客さんも巻き込まれた人はいないはずだよ」
その言葉に安心したように叔父は顔を緩ませる。
「それならよかった。シフトは16時半までだよね? 叔父さん待ってるから一緒に帰ろう」
「はーい」
叔父はそのまま16時半まで店に残り、私はその後は出動することなくシフトを終えた。
***
「和弘叔父さん、おまたせ」
「全然待ってないよ。今日は頑張ってるところ見られてうれしかったし、ご褒美にちょっといいレストラン予約してるんだ。回り道になるけど大丈夫? 疲れてない?」
「ううん、平気」
叔父はにっこり笑って先を歩く。
こういうところ、スマートだよなぁ……本当になんで彼女できないんだろう。出来ないほうが好都合ではあるけれど、だからといって相手にしてもらえるわけではない。叔父からしたら私は姪で子供なのだから。
「……あれ」
いつのまにか人気のない裏路地を歩いていた。近道なのだろうか。それとも迷ったのだろうか。
「和弘叔父さん、道」バンッと乾いた音と共に衝撃が伝わり身体が後ろに倒れる。
何が起きたのだろう。脇腹が熱い。叔父さんは無事だろうか。
様々なことが頭をよぎるが、言葉が出ない。ゴフッと息を吐く。コツ、コツ、と靴の音がした。叔父は無事のようだ。……よかった。
「あーあ、咲ちゃんが魔法少女になってるなんて、予定外だよ」
聞こえてきた叔父の声はいつもより冷ややかで。私は閉じようとしていた瞼を開いた。
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