第3話 女子高生は帰宅する
「ただいま」
「おっかえり~~!! 咲ちゃんバイトの面接はどうだった⁉ 怖くなかった? 危なくない? 無理して働かなくても叔父さんに任せてくれていいんだよ?」
エプロン姿におたまを片手に持った叔父の言葉にいつもならはいはい、とこの勢いも受け流せるのだけれどつい先ほどまでの記憶がよみがえり言葉に詰まる。
「いつもだったら返事があるのに……ま、まさか! 咲ちゃんにあんなことやこんなことを迫る違法なバイトだったとか⁉ 許せない……叔父さんちょっとバイト先に乗り込んで」
「違う違う、
慌てて誤魔化すが叔父は勘がいい。店長のもとに押しかけたらどうしよう、と頭をよぎるも咲ちゃんのメイド服姿……⁉ しゃ、写真は撮ってないの⁉ と詰め寄ってきたところを見るとその心配はなさそうだ。
「それはそうと、本当に無理してない? 学費とかは叔父さんが大学でも大学院でも責任もって出すし、お小遣いだって足りないなら増やすよ?」
「ううん、接客業はしてみたかったの。世の中にはいろんな人がいるって聞いてるし社会経験と思って。バイト代については一応貯金メインのつもりだから足りないとかじゃないよ」
それでも叔父は少し不満げな顔をしたままだ。叔父はバイトの許可は渋々くれたものの子供は勉強が一番という考えなのだ。大学も国公立を上位の成績で卒業しているらしい。だが私には勉強にそこまで情熱は持てない。
「そんなことより、和弘叔父さんこそ私に遠慮して結婚しないとかしないでよ? ちゃんと彼女はいるの?」
「う……アラフォーになる叔父さんに手厳しい……。彼女なんてもう何年もいないよ……」
そっか。彼女、いないんだ。
「頭はいいし顔もかっこよくて性格も優しくて家事もできるのに……いい人がいたら遠慮しないでちゃんと話し進めてね」
「そんな良い人じゃないんだけどねぇ……。叔父さんを好きになるような物好きな人がいるかなぁ」
絶対いる。が、そんなことは言いたくない。できれば自分が高校を卒業して成人するまでこのままでいてほしい。保護者としてちゃんとしてくれる叔父に顔向けできないようなことはしない。これは私の叔父に気持ちを伝えるためのルールなのだ。
なのに、どうして魔法少女になることになってしまったのだろうか。
***
「じゃあ、さっそくだけど澁谷さんはどんな魔法少女になりたい?」
「……はい?」
ん? とサングラスの男は不思議そうに首を傾げる。
魔法少女? なんだそれは。ファンタジーか。実はここはファンタジーの世界だったのだろうか。それともメイド同様コンセプトだろうか。月替わりで魔法少女とメイドと服が変わるのだろうか。いや、どう考えても魔法少女にはなりたくない。
「魔法少女にはなりたくないです」
「あれー……うーん、そうか、知らないのか。実はね……」
そして話し出した。信じがたいファンタジーな話を。
16年前、現在の政策に不満を持った人々が集まり、大規模なデモ抗議が各地で発生した。その活動を鎮静化させるために裏で躍動したのが魔法プロジェクト。実は国の上層部では魔法は再現可能なほど開発が進んでおり、実用化段階に入っているが、当然悪用されることもある。そのコントロールが難しいため、一般層には公開せず、国に何かあった際の有事の手段として保有されていた。
その実験とされたのがデモ抗議活動だ。国内で発生しており、人によっては凶器を持ち出しており早期の鎮圧を必要としていた。当時は魔法少女ではなく、あくまで魔法の活用として一部の男性も参加して魔法を扱った。その一人がサングラスの男……目の前にいる店長だという。
そしてこの店は表向きは喫茶店だが、裏では魔法を扱う魔法少女として活動する国の極秘プロジェクトの1つだという。
ちなみに魔法少女になったのは男性よりも女性のほうがアニメなどで魔法に馴染みがあるのか、使い慣れるまでの時間が短かったこと、妊娠出産前の女性は発動までの時間がなぜか男性より短くかつ防御能力が格段に高かったこと。
魔法少女としての適性がないと判断されたり、魔法少女を引退や辞退する場合は記憶を操作する魔法で関連する記憶を削除される。魔法少女になる場合、外部に魔法が漏れないよう、関連することは魔法を知っている人としか会話できないように魔法がかけられる。魔法は見られても問題ないように透明化の技術が施されており、メイド服にも同様の透明化の機能を付与して、同じ魔法少女同士でしか視認できないようになっている。
「そんな風に僕たちは日々魔法少女として国のため働いているんだ」
「そうですか、では記憶削除でお願いします」
「いやいやいやちょっと待ってぇ⁉」
「なんですか、私は今お世話になっている叔父に顔向けできないことはしないってきめているんです。いくら国のためだといわれても叔父に報告できない仕事はしません。そもそも魔法って言われても信用できませんし。」
夢見る少女という年齢ではないのだ。現実と物語の世界の違いくらい分かっている。
「ああ、魔法は見せてあげるよ」
さらっと言った後、右側のメイドに目で促す。メイドは一歩前に踏み出したかと思うとそのまま宙を踏みしめ、床から一歩高い場所で佇む。
「……わかりました、信じます」
「わぁ、全然信用してなさそうな顔だねぇ」
「信じるので、今回は辞退でお願いします」
頑なだなぁ、と笑いながら二人のメイドに下がるように言う。メイドは丁寧にお辞儀して部屋から出ていく。
そして扉が閉まった瞬間、男は告げた。私が魔法少女となる決め手となる言葉を。
「君のお父さん、和彦さんもこのプロジェクトに関わっていたとしても?」
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