第7話 魔族討伐

 ユリビア王国魔力研究所、ここでは魔力研究や魔道具の開発を行う我が国が誇る施設だ。

200人程の研究員が素晴らしい発明をするため日々努力している。ちなみに50人はこの世界とは違う世界からやってきた異世界人だ。この者たちは豊富な魔力量や今までにない知識でこの国の繁栄に力を貸してくれている。

そして今日はその異世界人に頼んだ品が完成したと報告を受けて確認のために私とユウキは研究所へ足を運んだ。


「お待ちしていました。グレン様、ユウキ様」


入口まで来ると研究員の出迎えを受け、施設内を案内されてある人と会った。


「はじめまして、篠原文哉です」


「はじめまして、グレン・フィードと申します」


「どうも、ユウキです」


今回依頼した物はこの異世界人が製作したらしく、とても気合いが入っていたと聞く。性能が楽しみだ。


「早速、依頼された物を見てください」


私の目の前に出されたものは上下で赤白となってその間に黒い線でデザインされたボールだった。


「私が元いた世界の大人気ゲームのやつそのまま名付けて! 『モン〇ターボール』です!」


「『モン〇ターボール』ですか」


なんだかすごく怒られそうな名前をしている気がするがまぁ怒られたらその時考えよう。とりあえず使い方を説明してもらおう。


「まず真ん中のボタンを押すと収納モードとなって中に入れられる状態になります。そのまま入れたい対象に向けて空間魔法を発動させると収納できます。もう一度ボタンを押すと保管モードとなってあとは投げるだけで離れた場所へ対象を移動させることが出来ます」


「なるほど、何か注意することは?」


「そうですね、収納する時に本来よりも多く魔力を消費することですかね。あと保管モードの時は強い衝撃を与えてしまうと誤作動を起こしてしまうことくらいです」


「ほう、ユウキ、一度やってみてくれ」


「分かりました」


ユウキはボールのボタンを押して私に向ける。

一瞬のうちに私はボールに吸い込まれていき、気がつくと一面真っ白な世界にいた。


「ここがあのボールの中か。意外と広いな」


少し辺りを見回すとまた俺はどこかに吸い込まれていって気づいたら元の世界に帰ってきていた。

しかし元々座っていた椅子にではなく、研究所の中庭にいた。足元にはさっきのボールが転がっている。


「これはすごいな」


驚きで立ち尽くしているとユウキ達が駆け寄ってきた。


「グレン、どこか痛くないですか?」


「驚いたよ、そこら辺に投げてって言ったら窓から思いっきり投げるなんて、アハハハ。綺麗な投球フォームだったよ! プロ目指せるよ」


そういえば俺達が話していた部屋って3階だったよな? つまり俺は3階の高さから落ちた...ってコト?!


「おい、ユウキ...?」


「ごめんなさい、でも本番も高いとこから落とすので強度が心配で」


様子を見ると反省はしているようだ。言い分も分からなくもないし、そういうことにしておこう。


「強度の方は任せてください。試作品で何度も試しましたが高度1000mくらいまでは耐えれますよ...きっと...多分...おそらく...大丈夫です!」


別にこの国で1000mはおろか500mを超える建造物は無いけどな。何はともあれこれで移動問題は解決したのでいよいよ討伐作戦が出来そうだ。


 私がこの国に来て3週間ほど経過した。

ついに今日、魔族討伐作戦が開始される。

周辺の町村の住民は騎士団本部に避難させ、市街地の市民も王城内に移動した。閑散とする王国には騎士達が配置された。

王国を囲むようにある城壁の上には魔法使いが地面には騎士が置かれて、守りを固めている。

 団長とグレンと私は王国内で一番高いところにのぼり、攻撃を誘う。


「準備はいいか?」


「はい!」


「よし、それでは作戦開始!」


団長の合図とともに魔力探知を発動させてとりあえず広範囲に展開していく。広く、とにかく広く、精度も隠密性も全て無視して範囲に全てをつぎ込む。

範囲がかなり広がって30km程度で一つだけ魔力を探知した。そしておそらく向こうにも気づかれた。


「北です! すぐに攻撃がきます!」


「グレン!」


「了解です」


私も背中側のグレンの援護をしようと魔力探知を解除しながら背を向けると背後に同じくらいの魔力を探知した。そして団長が叫んだ。


「違う! ユウキ後ろだ!」


背中から熱を感じて咄嗟に防御魔法で防いだが即席のシールドでは余裕をもって防げずに攻撃が止んだ後に割れてしまった。


「うぐっ!」


魔力をごっそり削られて立てなくなった私を団長が支える。


「おい、大丈夫か...って鼻血が」


「大丈夫....です....」


こんなとこで倒れちゃダメだ。まだグレンと団長を異世界人が製作した『モ〇スターボール』に入れて下へ運ばないといけないのに。


「グレン! ユウキが魔力欠乏状態だ! 自分で向かうぞ!」


「はい団長! ユウキは私が担いでいきます。先に行ってください」


グレンの背に乗せられて階段を駆け下りていく。戦場まではまだ時間がかかりそうだ。


 遠目からでもわかるほどの魔法攻撃を見てすぐに反撃にむかう。団長達は来るのが遅れるが来るまでに決着がつくなら終わりにしてしまおう。


「行くぞルーシー!」


「わかってらァ!」


姿は見えないが場所はわかってる。攻撃するもんならしてみろ!


「2発目来るぞー!」


先頭の騎士が声を張り上げて警告すると全員が集まって攻撃を受ける準備を整える。

息を合わせてみんなの盾を一つにする。

その盾は魔法攻撃をちゃんと受け止められている。


「ルーシー! カウンターだ! 上書きしろ! 他の魔法使いはすぐに攻撃を、やつに動く隙を与えるな!」


特殊魔法 魔力の上書き


火球の魔力を私のものに変えて、属性を変える。


(何? この魔力どこかユウキちゃんに似てる?魔族がこんな魔力を得ることがあるの?)


「ルーシー! できるだけ早めに頼むぞ!」


「もう出来ます!」


氷魔法 アイスソード


魔族にしてはかなり上質な魔力のため最高傑作ができた気がする。これを叩き込んで終いよ!


「消え去れ!魔族! シュート!!!」


森の中へいった槍はそのまま何かを貫いた感覚だけを残して消えた。即座に魔力探知を展開するがそれっぽいものは探知できない。


「やったのか?」


「あぁ、やったぞ! 魔族は死んだ!」


「やったーー!!!」


みんなが歓喜の声をあげて、ある者は泣き、ある者は友と勝利を分かち合う。


「まだ気抜くなよ! 周囲を警戒しながら後退」


「作戦終了の合図を送ります」


空に青い煙が打ち上がる。作戦成功と終了の合図だ。しかし私達の喜びもつかの間のもので事態はまた急変したのである。


「おい、あれを見ろよ!」


1人の騎士が空を指さす、その先には私達が打ち上げたものとは違う色の煙があった。


「紫の狼煙、魔族出現の救援要請!?」


「総員直ちに急行!」


私達とは真反対側で魔族が出現だって? じゃあここにいた奴はなんなのよ!

グレン、もしかしてあんたは団長とそっち側にいるの? 待っててすぐに行くから。

でも世界は意地悪だ、そう簡単には行かせまいと障害を置いてくる。


「うわぁぁ! なんだコイツら!」


「落ち着け!ただの魔獣の群れだ。落ち着いて対処しろ!」


「導師様、それでも多すぎます!」


「ルーシー、お前も早く魔法を...ルーシー!、ルーシー!!、聞いてるのか!」


「行かないと、早く!」


「あっおい待て! 戻ってこい!」


私は無我夢中で駆け出していた。この状況で隊列から抜ける危険はよく分かってる。でもこのままここにいたら間に合わなくなる。そんな予感がして考える前に足が動いていた。

もちろん目の前には魔獣達がいる。しかしそんな事はどうでもいい。だって全部凍らせてしまえばそれは居ないと同義。


氷魔法 アイスロード


「邪魔」


私の吐いた言葉は今までにないほど冷たく、心まで今は冷えているような感覚になった。

待っててね、今行くから。


 グレン背に乗せられて私は地上まで下りてきた。魔力も少しだが戻ってきて話せるようなったのでグレンに伝えなくちゃいけないことを話す。


「グレン、聞いてください」


「喋るな、お前は十分役目を果たした。あとは任せろ」


「違うんです。これはあなたに、団長さんにすぐ言うべきだったことです」


「だから喋るな」


「魔族は2体います」


私の言葉を聞いた途端グレンが足を止めた。私は続けて伝えていく。


「あの時、北と南のどちらにも大きい反応がありました。すぐに言わないといけなかったのに、すみません」


「いや、ありがとう伝えてくれて。とりあえずお前を騎士団に届けてから」


「いえ、私はここで十分です。早く言ってください。北の方は今誰もいません。今そこから攻められたら防ぎようがありませんので、早く」


「でも、」


「早く行ってください! 先人達が守ったこの国を守るのでしょう!」


私が凄むとグレンは私を道の端に下ろす。喋れても歩くことはまだ出来ないので道端に座り込んでしまったが気にしないでと言ってグレンを行かせる。


「わかった。後でどうやってそれを知ったのか問い詰めるからちゃんと言い訳を用意しとけよ」


「はい、用意しておきます」


グレンが見えなくなると一気に疲労がくる。グレンを行かせるためにかなり無理をしていたのだなと自分でも思う。

人は魔力を著しく失うと最悪死に至るとされる。

この場合、私はその最悪を考えた方がいいのかな?

ごめんグレン、言い訳の用意出来なさそうです。

お師さま、申し訳ありません。私は立派な魔法使いにはなれませんでした。

あ...意識が....だんだん.......きえて...


 ユウキと別れて急いで北へ向かう。団長にも伝えないと。


汎用魔法 思念伝達


団長もこの魔法を使用できるので相互通信できるはず。


〈どうしたグレン?〉


「団長! 北側にも魔族が!」


〈あぁ、ちゃんと視えている」


北の方には結構な魔獣がこちらに攻めてきているな。たしかによく考えたら秒速100mの魔族がいたらこの国は既に地図から消えていたよな。2体なら納得出来る。まぁそうでなくて欲しいがな。


「おっと、考え事をしている暇ではなかったな」


剣技 未来斬り


「この斬撃を貴様らが避けることは確実にない! 私が今斬ったのは今の貴様らではない。未来のだ」


魔獣共が私に飛びついてくるが全て2つに切り裂かれ、私にその牙が届くことは決してなかった。


「私は王国騎士団団長! アストロン・ユーテクネス! 貴様らが我が国に足を踏み入れることは私が許さん!」


き...決まった。1度でもいいからやってみたかったんだよね。人相手じゃないから何も意味無いけど。これ見られてたら恥ずかし〜。

私が余韻に浸っていても魔獣は襲いかかってくる


「うわっと! これだから魔獣は、人が気持ちよくなってるのに邪魔しないでよね!...って多い多い多い! 待って聞いてない! ちょっ、待って」


予想よりも魔獣が多くてさすがに対処しきれないんだけど。やばいあんなセリフはいてこのザマは悲しすぎる。良かった〜誰も見てなくて。じゃなくて! コイツらどうしよ!


「はぁ、全くこの団長は。大見栄張ったんだったらちゃんとしてくださいよ」


聖剣技 シャイニングスラッシュ


この声! この技! 間違いない!


「グレン! 来てくれたんだね!」


私の周囲の魔獣を薙ぎ倒してグレンが横に立つ。

ほんとうに優秀な部下を持ったものだ...ん? 今グレンなんて言ってた?


「ほら早く立ってください。許さないんでしょコイツらが我が国に入るのを」


きっ、聞こえてたァー! すごく恥ずかしぃぃ!


「グレン、次の団長は任せたぞ」


「なんですか急に」


「殺してくれ、この際魔獣でもいいや」


「せめて魔族で死んでください」


「ヒドイな!そこはさ、生きてくださいとかあるじゃん!」


「いや、別にこれからあなた方が起こした問題が起きなくなると考えたらいいかなって」


「どんな問題よ?」


「実験と称して騎士団の一部を壊す、未来視を悪用して面倒事を押し付ける、あと」


「やめてくれよ、事実陳列罪で訴えるよ」


「じゃあもっと、団長してください」


「はーい」


こんな他愛もない会話をしているが魔獣は常に襲ってきている。なぜ話せているのか?グレンが全部やってくれてるよ。俺は未来視で特に何も起こらないってわかってるし。

にしてもこの未来視だが、先程から様子がおかしい。普段はかなり魔力を消費ないと見れない未来まで今は見通せるし、確定していない未来も視える。ちょっと脳の処理が追いつかなくなりそう。


「ここの状況を反対側の皆にも伝えるぞ」


「救援要請の狼煙ですね。既にあげてます」


流石の仕事の速さ。今度私の仕事も渡してみようかな? でもグレン自身も何か焦っているように見える。この状況ならたしかに焦りもするか。


「大丈夫だ。私がついている」


「そうですね。これ以上ない安心感です」


「他の物が来るまで時間を稼ぐぞ」


「了解です」

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