小話 魔女のお茶会 1 / グレンの苦悩

 薄暗い廊下に一人の足音だけが響く。

明かりといえるものは壁にあるロウソクの光のみで足元はしっかり見ていないと見えない。

ふと私はなぜこんな所にいるのか思い出してみる

たしか私は夕食の材料を取りに森へ入ったとこまでは覚えている。しかしそこからここに来るまでの記憶があまりない。

記憶をたどっていくと今日があの日だということを思い出して、これからちょっと面倒なことになる予感がした。


「あー、忘れてた。どうしたものかねぇ」


言い訳を考えながら進んでいくと扉が見えてきて無駄に長かった道に終わりが見えてきた。

特に言い訳も思いつかないままドアノブに手をかけて扉を開ける。

 私以外は全員集合しているようで遅刻は私だけのようだ。よくもまぁこんな時だけちゃんと時間というものを守るものだ。


「やっときた」


私が部屋に入ると一人が立ち上がって歩み寄ってくる。燃えさかる炎髪、映るもの全ても焼き尽くす赤い眼、この女が今回の主催者である

炎の魔女 フラム

魔法文明が構築され始めた時からこの世界に存在する最古の魔女。私も500年以上生きてきた結構古い魔女であるが、彼女は彼女はそれをゆうに越して1500年以上生きている。もはや生きる遺物と言ってもいいくらい彼女の魔法の知識は多い。

 席に案内されて着席すると向かい側に座る銀髪糸目の魔女と目が合うとちょっと癪に障る声色で話しかけてくる。


「イアスさんご機嫌よう。随分と遅かったですね」


「どうもメリス、いつも思うけど糸目なのはキャラ付けなのかしら?」


「いえいえ、こうしていないと余計なものまで視えてしまいますから」


このお淑やかさがこういう時だけはこんなにムカつくものなんて知らなかった。


「そんな余計なものまで視えるその瞳で私が遅刻するのも視て欲しかったわ」


笑顔を崩さずにメリスに過去の要望を伝えると。メリスが開眼する。


「うふふ、面白いことを言うのね。イアスさんも知っているでしょう? 未来視ビジョンはとある人間に貸しているのですよ」


銀色に輝くその瞳はこの世界の真の姿が見えているのかもしれない。

あの魔女は私達なんて眼中に無いみたいな態度をとるから嫌いなのよね。まぁ、そんな態度をみせるのは私の前だけだけど。何か言ってやらないと気が済まない。


「随分と人間に熱心のようね。瞳の魔女様」


「人の子を丁寧に育てている貴方には言われたくありませんわ。記憶の魔女さん」


お互い笑顔を崩さずに火花を散らすとフラムが割って入ってきた。どうやら主催者を置いて盛り上がっていることに少々不満のようだ。


「えーおほん、今回集まってもらったのはいい余興ができたからみんなで見ようと思ってね」


定期的に彼女が思いつく余興は基本的に町や国が焼き尽くされる様を見ることなのだけど、これに面白みを感じるのは一部の魔女のみで他は大して興味無しという感じだ。人間が滅びようが生きようが関係ないということでもあるが。


「また悪趣味なものを」


「奇遇ね、私もよ。 貴方と同じ思考していると思うと寒気がしますが」


「一言多いのよ」


メリスはあんな感じだが感性は私と似ているところがある、いつ見ても人間が滅ぼされるところは気分が悪くなる。


「さて! 今回の目標はここ! ユリビア王国!」


部屋の壁に映像が投影される。視覚共有魔法で使い魔の視界を映しているようだ。

映されたのはユリビア王国で上空から見下ろしているようだ。


「一応言っておくけどユリビア王国は私が住んでいる土地の領国よ。それでもやるの?」


私の質問にフラムはこれまでにないくらい清々しく答える


「だからやるんだよ! この大国に住む人々が強大な力にどう抵抗してくれるのか! 気になるでしょ!」


うん、やはりこの人は壊れている。一度死んで治すしかないタイプの病を患っている。


「それに今回はとても珍しい状況だからね。楽しまないと損だよ」


よく分からないことを言っているが無視して私は映し出された風景を見る。春が訪れているのか国全体が華やかに彩られているのを見て少し不安にもなった。


「まさか、そこには居ないわよね?」


メリスの視線を感じたのでこれ以上考えるのはやめておこう、あの魔女は何が視えているのか分からないし、余計なことをされては困る。

魔女のお茶会 1 [完]


 瞼の上から光を感じ、目を開く。眼前には大量の書類が置かれている。


「やべ、寝てたのか」


どうやら書類を作成中に寝てしまったようだ。

椅子から立ち上がると背中にかけられた上着が落ちた。立った状態で辺りを見回すとソファでルーシーが上着を着ていない状態で寝ていた。昨日は手伝ってもらっていないから俺が寝た後に来たのか。


「世話焼きだな。人に親切にするくせに自分はそうでもないんだな」


俺は拾った上着をルーシーにかけてコーヒーを作り始める。

カップに注ぐと部屋が香りに包まれて嫌でも目が覚めてくる。香りに誘われてルーシーも目を覚ましたようだ。


「あんた、いつから起きてた?」


「ついさっきだよ」


寝顔が見られのが相当嫌だったのかもしれない。上着で顔を隠して俺に背を向けてしまった。


「何もしてないでしょうね」


「別にすることないでしょ」


コーヒーでも飲んで機嫌をなおしてもらおう。


「コーヒー、砂糖どれくらい入れる?」


「入れなくていい」


「ミルクは?」


「ブラックでいいって」


言われた通りにブラックで作ってルーシーの前に出す。俺は角砂糖1つとミルクを少し入れて作った。


「そうだ、上着ありがとうな」


「別にあんたに風邪ひかれたらみんなが困るから」


素っ気ない雰囲気を出しているがいつもの照れ隠しだろう。あと俺はさっき何もすることがないと言ったな、あれは嘘だ。日光を感じて理性が正常に働いたから何もしなかったが、もし俺が夜中に起きて薄着の彼女に気づいたら何をしでかすか分からない。それくらいの魅力があるのになんでこうも無防備なのかね? 一緒にいる身にもなってほしい。

 一度水を浴びるために自室にって身なりを整えてから俺の一日が始まった。

午前中は訓練に参加して騎士達の様子を見ながら一番良いチーム編成を考えて、午後は書類の確認と承認、夕方から今日の哨戒記録の確認。通常の内容はそこまで過酷ではない、だが...


「隊長! またダリアの部屋が爆散しました!」


「ダリアにもう経費は出ねぇぞと伝えておけ」


「隊長! 実験資料が燃えました!」


「なんでだよ!」


「隊長!!! 身体が疼いて寝れません!!!」


「寝ろ!!!」


とまぁ、割とここの連中は頭のネジが数本ないやつが多いので問題が次から次へとやってくる。

おかげで自室で寝れる機会もなく、執務室で寝ることもしばしば。ただでさえ今は忙しいのに。

そして、ユウキがこの国にきて国内で異変が起きた。

なんと国中で様々な花が咲いたのだ。しかもそのどれもが魔力を持ち、枯れる様子がみられない。

調査のために採取したサンプルも1週間経過してもなお、枯れる前兆すらみせない。

今までなら植物の変異種として調査、発表などするのだが。研究部曰く、植物のような魔力タンクだそうで植物ではないようだ。

そして先日、この植物の件は騎士団に任されることになった。その代わりとして空間魔法を遠隔で発動できる魔道具の制作を依頼した。研究部にいる異世界人はモノづくりに長けているし、無茶苦茶な依頼だけどやってくれるだろう!

 時刻は夜、子供の街は寝て、大人の街が起きる時間帯だ。書類の山に埋もれている俺には関係ないが。しかし、全く仕事に集中できない。寝不足か?


「ちょっと動くか」


私は制服ではなくかなりラフな格好をして騎士団を出て南へ走っていくととある広場に出た。

『旧騎士団跡地』

俺は今の騎士団しか知らないが、団長や熟練の騎士の人達はこの地で己の技術を磨きあげた。

俺は気が緩んでいる時や迷った時はここに来るようにしている。ここに来ると先人達に見られているような気がして気持ちが引き締まる。


「お任せ下さい。あなた方が護ったこの国を今度は私達が護ります」


跡地に敬礼をして騎士団に戻るとルーシーが待ち構えていた。しかもなんか怒ってるし。


「聖騎士隊長さんがそんな服装で夜の街になんの用なんですかね?」


「別にランニングしてただけだが」


「へぇ〜、ふーん」


そうだ、最近の悩みとしてルーシーの機嫌が悪くなる時が多いのも追加しとこう。女子の思考は読めないものだなぁ。

グレンの苦悩 [完]

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