第6話 作戦会議
魔族に向けての訓練が始まって3日が経過した
それぞれ分野に分けられ攻撃、防御、支援の3種類に分類された。ちなみに私は攻撃と防御にまわされました。
「1人で2役こなすの辛いんだけど」
「この前あんな化け物じみた才能みせたら当たり前でしょ」
今日はクルー同じ攻撃チームの訓練に参加している。昨日は防御チームでアリスと一緒に攻撃から身を守っていた。今度はその逆で私が防御チームに攻撃をする方にいる。
「いいかユウキ! 絶対に本気は出すなよ!いいな!?絶対だぞ!俺まだ死にたくねぇよ!」
グレンの顔が怖い、言われなくても全力で魔法を使うのは時間がかかるし、案外燃費が悪いから使わないよ。1発に威力を集中するより、10発で同じ威力にした方が簡単だし、楽だし。
しばらく準備運動をしたら訓練開始の合図がおろされ、一斉に防御チームに向けて魔法を放つ。
攻撃チームは3分以内に防御チームの守りを崩す、防御チームは崩されないように守る。昨日は私とグレンと団長とその他グレンが編成した3チームが耐えた。これでも全体の10%にも満たない。
そして今回に至っては団長さんしか残れないという始末。これで本当に魔族と戦えるのだろうか?
「ふむ...悪くない。そこのユウキ騎士で合ってるかな?」
なんか全身鎧で覆われた巨人が歩いてくる。180あるかな、めっちゃ怖い。
「あっはい、ユウキです。なにか御用ですか?」
目の前にきても全く顔が見えない。どれだけ重装備なのだろうか。
「君の魔法は見事な完成度だ。昨日は防御で私やグレンと共に最後まで残っていたのも流石だ」
「は...はぁ...」
突然ほとんど不審者みたいな人から褒められても反応に困る。せめて誰だか知りたい...そういやこの鎧さっき昨日の話をしてたな。昨日残ってた人は私とグレンと団長と何人か...まさかね。そんな団長様が私に用があるわけないよね。
「この後時間あるかな? 良かったら付き合ってくれるか?」
うーん、これはなにか頼まれるやつかな。これ以上余計なことが増えるのは嫌だなぁ。
「いや〜、残念なことにこの後予定がー」
断ろうとしたらクルーが私の脇腹を小突く。そして小さな声で私に言う。
「団長は丁寧に言ってるけどあれは来いってことだから断れないよ。大人しく付き合ってあげなさい」
マジかいな。
最初から逃げられなかったようです。
「どうかな?」
「わかりましたよ。行けばいいんでしょう」
訓練を途中で抜けて団長について行くと会議室に通された。既に4人ほど集まって話している。
「やぁ諸君、ご機嫌いかがかな」
「あー!団長どこ行ってたんですか!」
団長が挨拶をすると4人とも話すのをやめて色々と問い詰めてくる...主にどこで何をしていたかを
「すまんな、部下の様子を見るのも長としての役目だからね」
「いつもそう言って執務から逃げてるじゃありませんか! 今回は真面目にお願いします!」
「でも...グレンはいるじゃん」
「言い訳無用!グレンは仕方がないでしょ! あいつは班編成を決める重要な仕事があってあそこにいるの! 暇なあんたとは違うの」
「うぅ...わかりました」
あの巨体が小さく見えるほど態度が小さい。
にしてもこの人達は何をしているのだろうか?
とうの昔に話についていけてない私の肩に団長が手を置いてくる。
「でも収穫はあったよ。この子覚えてる?」
団長からの質問に答えるため私の顔を見てくる。少し見たあと1人が思い出したように言う。
「その子、もしかしてこの前の実力的検証の時に訓練場の壁を破壊した子か?」
「ピンポーン!正解!」
4人とも私の事を噂程度でも知っていたようだ。
どうやら最近の騎士団は私の噂で持ち切りのようだ。
「で?なんで連れてきたの」
「昨日と今日の訓練の様子をこっそり見てたんだけど、彼女の実力は本物だ。私の眼が保証するよ」
「こっそりって、いよいよ変態じみてきたな」
「今に始まった話じゃないだろ、この人の趣味は」
耳に入ってくる話の内容で団長の見る目が変わりそう。この人もしかしなくてもやばい人かも。
そしてこの人、眼で保証するとか言ったけどそんなに経験が豊富なのか? 声聞く限りそんなに年老いてそうは聞こえないが。
「それで団長の眼にはこの子が本物に見えたんですね?」
「そうだ、これで作戦がもっと楽になる」
「どう組み込むのですか?」
「第一案はユウキ騎士をここに、そして——」
あぁ、いつの間にか真面目な話に戻ってる。全くこの人達のペースが分からない。なんとかついていくので精一杯である。
「守りに集中するか、攻撃に集中するかの二択か」
「攻めの駒が欲しいけど、守りも十分とは言えない状況だからね。速攻で終わらせるか、堅実にいくか」
「前者の場合、賭けになるな。こちらが崩れる前に魔族の討伐が出来るかどうか。後者だとジリ貧になる可能性があるのか」
団長含めみんなが頭を抱えて地図の上の駒を動かしている。とりあえず魔族情報に疑問が残ったので質問してみよう
「あの〜、ちょっといいですか?」
質問しようと声をかけたらもうそれはすごい勢いで許可してくれた。
「えっとですね。その魔族は探知の50mを1秒程度で移動してくるんですよね。そんなやつがわざわざ魔法で攻撃してきますか?」
魔族は低いながらも知能はある、わざわざこちらの位置を晒してから接近するとは思えない。
「うーむ、たしかに妙だな」
「私達じゃあ魔族の考えなんて分かりませんね」
よくよく思ったら速度自体もかなりおかしい。あの速度が正しかったら魔法使いの射程ギリギリで戦っても2秒で距離を詰められる。そんなやつが本当にいたら大ニュースだと思う。
「それでは今回はあまり知能が高くないのでしょうか」
「理性のない力ほど怖いものはないけどね」
「それじゃあこの作戦でどうよ」
作戦の内容は簡単に言うとカウンター狙いだ。
まずこの国の城の最上階に私と団長とグレンを置いてそこから広範囲に魔力探知をはる。この時わざと相手に気づかれるようにして最初の一撃を防御の固い3人で確実に受ける。位置が分かったら王国の外周で待機している攻撃役が一斉に畳み掛ける。いくら魔法の威力が高くてもどこから来るか分かればまだ防げる。
割とちゃんとした作戦ではある。問題があるとするなら攻撃に団長とグレンが参加出来ないことぐらいだ、そしてこれがかなりの問題でもある。
現在、高威力の魔法を一人で完全に防げるのは団長とグレンと私のみでそれ以外は4、5人のチームを組んでやっと守り切れるかどうかのライン。たとえ方向がわかっても2発目を防げる保証はない。私は見晴らしの良い場所から大まかに狙撃できるけどこの2人はそうもいかない。
「せめて城から降りる時間だけでも無くせれば」
「飛び降りるのはどう?」
「やってみたら? 団長の足が折れるだけだけど」
2人を高速で運ぶ方法...お師さまがそんな魔法使ってたような...ダメだ思い出せない。少し考えたら頭に電流が走る。思わずこれだ! と叫んでしまった。
「閃きましたよ!」
これも簡単に説明すると空間魔法の応用技で普通の空間魔法は自分の魔力を使って扉を開くため近くでしか発動できないものです。
しかし空間魔法は自分の魔力が発動のための条件で距離の制限はない。つまり離れていても扉を開けるだけの十分な魔力がそこにあれば発動は可能。そこから発動のタイミングを調節すれば瞬間移動じみたことが理論上できる。
「それでも、仮に魔力を確保しても発動のタイミングはどうするんだ? その場に行って起動するなら変わらないだろう?」
「その辺はあなた方の得意分野では?」
そう、この無茶苦茶な作戦もユリビア王国の誇る圧倒的な魔道具研究技術を前提として考えついたものだ。こんな身体に馴染む服を作れるなら、この世界で魔道具研究の最前線を駆け抜けるこの国ならできると信じてる。
「分かった、研究部に伝えておくよ。緊急の案件だって」
「今あそこの人達は不思議な花の研究で忙しいだろ、変人の集まりでもあるし聞いてくれるか?」
「一応国の危機だから聞くでしょ」
「それじゃあ今日の会議はこれまで、解散!」
そうして魔族討伐に向けた会議はお昼前くらいには終わった。午後から私は他の騎士団員とは違う訓練内容に変わって、団長と連携の訓練を行った
ユウキが旅に出てどれほどの時間が経っただろうか? もしかしたらユウキはもう立派な大人になって人間として暮らしているのかもしれない。
魔女になって長く生きた、もう正常な時間の感覚が残っていないほど。
ふと窓の外を見てみるとそこにはまだピンク色に染まる森が見える。今は春だ、間違いなく桜が咲く季節だと分かる。
でもこの春があの時のままなのかそれとも一巡してきた春なのか、人ではない私には分からない。
記憶の魔法を手に入れて、人間とは違う生き方を選択した日からこうなる事はわかっていた。
「分かっていたはずなのにな」
ふと言葉をこぼすと小鳥が一羽、窓をすり抜けて部屋に入ってきた。
こんな事ができるのは使い魔しかいない。
使い魔の首には小さな紙切れがあり、丁寧に取り外して魔力を込める。
『今度お茶会するの。良かったら来てね。
あなたの友人 フラム』
暇人からのお誘いがきたようだ。ついこの前にやったばかりなのにまた開催とは本当に暇なようね。
私は違う紙に魔力で字を書く。
『お誘いありがとう。
喜んで参加させてもらうわ。
記憶の魔女 イアス』
返事をまた小鳥に託して飼い主の元へ帰らせる。
暇つぶしにはなるかな?
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