第4話 友達
歓迎会から一夜明けて朝が来た
私はいつも通りの時間に起きて支度をすます。
「やっぱりこの服は着心地いいな」
服の完成度に惚れ惚れしているとモゾモゾと私の上のベットで寝ているクルーが布団から顔を出した。
「早いですねユウキ」
「おはようございますクルー」
眠そうな顔をこすっている姿はまるで猫のようだ。
「どこか行くのですか?」
「日課の魔法の練習だよ。クルーも来る?」
「自主練とは恐れ入ったよ。誘ってもらって悪いけど今回は遠慮しておくよ。ふぁ...ちょっと夜遅くまで創作意欲に身を任せてたから今は寝たい。また今度ね」
「分かった。おやすみクルー」
「ユウキちゃんどこかに行くの?」
今度はアリスが向かいのベッドの下の方から体を起こしていた
「今から魔法の練習をしに行こうと思うの」
「そうなの?魔法の...練習に...」
アリスもなかなか眠そうだ、ゆっくり寝かせてあげよう
マネスに至っては一向に起きる気配がないし
「すぐに戻ってくるので」
「別に今日はみんな休暇とってるしゆっくりでもいいよ」
女子寮棟から出て訓練場へ向かう。
ここは真ん中は大きく開けていてその端に訓練用人形が置かれている。設備としてはおそらくここを超えるものは無いと思われる
人形を起動させて実戦的な動きを入れてこちらにもある程度の反撃をさせるように設定して始める
水魔法 ウォーターバレット
動かずに杖の先から落ち着いて狙えば的が動いてもちゃんと当たるが、人形も反撃してくると防御魔法と切り替えたり避けるために動いたりするせいで命中率がかなり落ちた。
「10体中6体...まだまだ頑張らないと」
タオルで汗を拭っていると後ろからパチパチと手を叩く音が聞こえてきた
「歓迎会翌日の早朝から訓練か。お前もブレねぇな」
「ほんとにここにユウキちゃんいたし。あんたなんでわかったのよ!」
拍手していたのはグレンとルーシーだった。もしかして訓練の邪魔だったかな?
「グレンにルーシー、なんでここに?私邪魔でした?」
私が尋ねるとそんな事ないよって笑ってくれた。
「俺もまさかと思ったけど本当にここにいてちょっと驚いてんだよ」
「本当にびっくりよ。たとえ今日が休日でなくてもこんな早くに訓練場で訓練する人はごく稀よ」
「そうなんですね」
ルーシーさんと会話しているとグレンが人形の方へ行って様子を見ている。そしてその顔がみるみる青くなっていくのがここからでもわかる。
「ユウキくん...」
「はい」
今にも泣きそうな声で私の名を呼ぶ
「自己鍛錬に勤しむは実にいい事だ。でも今度この人形を的にする時は半分くらい威力を落としてくれ。ホントに頼むよ...」
「うっは〜 これは完璧に壊れてるね。初めて見たよこれを純粋な魔法の威力で壊す人」
「ごめんなさい。これからは気をつけます」
壊さないようにしていたがどうしても余裕が無くなると威力の制御が出来なくなってしまったらしい。
「じゃあ次は私と魔法を撃ち合おうよ!」
「ルーシーと?」
「うん!」
「ダメだ!お前はこれからやる事があるだろ!」
そう言ってグレンはルーシーの首根っこを掴んで訓練場を後にした。
「あっそうだ。訓練はそこまでにしとけよ。お前のルームメイトが待ってるぞ」
そう言い残して2人は出ていった。
言われた通りに人形とかを片付けて部屋に戻る
「ただいま戻りました」
「あっユウキちゃん帰ってきた!」
最初に出迎えてくれたのはアリスで出かける支度をしているようだ。制服ではなく青と白のワンピースでまるで昔話の『アリス』のようだ
「おかえりなさいユウキ。あなたも早く支度をすませてください」
クルーも制服は着ておらず黒と赤の服に身を包んでどことなくクールさを感じる装いだ。
「大丈夫、私はまだ着替え終わってないし〜」
マネスはそもそも服を着ていなかった。
「ちょっと人前で裸でいないでよ!」
「別にいいじゃん同性なんだし」
「良くない!」
アリスが無理やりマネスに服を着せていく。
少しすると色違いの制服のような格好で再び出てきた。黄色のチェックのスカートが可愛らしい
「ほらほら!ユウキちゃんも私服に着替えて」
「私服?私はここに来る時に着ていたやつしかないですよ」
そこまで品質の悪い物ではないがここで他の3人が着ているものと比べると正直見劣りするしかないものだ。結構ボロボロだし、主にグレンとの戦いのせいでだけど。
「それでもいいから早く着替えて」
「そうか、では」
制服を脱ごうとするとアリスに手を掴まれてしまった。アリスは笑顔のようで笑顔じゃない笑顔を私に向けていた。
「ちゃんと更衣室で着替えようね」
「わ、わかったよ」
着替えてみんなの元に行くとまじまじと私を見て何やら相談事をはじめた。
「やっぱりユウキちゃんは絶対に磨けば光るよね」
「わかる」
「今日は思いっきり磨いてあげましょ」
相談事が終わったようで私に向けて一言
「絶対光らせてあげるよ!」
発光魔法の習得に行くのかな?
騎士団を出て街に行くとそこかしこに私の知らないものが溢れかえっていた
「まずは洋服からかな?」
「最初に化粧品じゃない?」
「でも服が決まらないと化粧も決まらないよ」
「たしかに!」
「あの、皆さん何を話しているのですか?」
騎士団は王国の中央部に位置していて私達は西門から出てそのまま西地区に来ていた。
ここは様々な国から来ているものを取り扱う店が多く、服や化粧品類は主にここで売られている。
「見てあの4人組、1人だけ随分とみすぼらしいですね」
「きっと平民が貴族にこき使われているのよ」
ユリビア王国の中央部は王族やある程度の爵位を持つ貴族が住む区域だ。当然それらしい身なりでいないとこうして良くないことを言われる。
「気にしないで。ユウキちゃんはそんなんじゃないから」
「おいテメェら!私の推し...じゃあなくて友達を悪くいうなー!」
「言うなー!」
悪く言われるのは慣れてるからわざわざ言わなくてもいいのに。でも嬉しい。お師さま、私初めて友達が出来ました。
そして私は全然知らない店に連れてこられました。
「ここは?」
「服屋よ。もしかして来たことないの?」
「服屋は何度か来たことあるけどこんなのは売ってなかったから」
私の知っている服屋と違う。なんかキラキラしているし見たことの無い服が沢山置いてある。
「いくつか気に入ったの持ってきてね。買ってあげるから」
「でもここのやつ高いよ。それに私が着るのに払わせる訳には」
「これはユウキの騎士団に入団したお祝いです」
「私達のプレゼントだと思って」
「分りました。でも私あまり分からないから一緒に選んで欲しいです」
そうして一緒に店内を探すが未だに1着も決められずに時間が過ぎていく。
「ユウキちゃん、これはどうかな?」
「すごいなこれは」
「でももっとかっこよさがあってもいいんじゃな?元が可愛いからさらに可愛くしても蜂蜜に砂糖をかけるようなもんだよ」
「ねぇねぇ!これはどう?」
主に私以外の3人が決まらないでいる。
そんな私達を見かねて店員が話しかけてきた
「お客様、どのような品をお探しですか?」
「この子に最高の1着を探しているのですよ」
「この方の最高の1着...少しの汚れが目立つほどの白く透き通った肌、髪と瞳は薄いピンクで春のような柔らかさを感じる髪質。この子イケるわね」
スタスタと奥に行ったと思ったらそこから1着服を持ってきた。
「この品は西の国が制作したものですがどうもこちらの国の人達に合わなかったものでしてね。ここまで色が薄いとインパクトが薄いのですがこの方の肌や髪の色なら似合うと思います」
そういって渡したしてきたのは確かに色が薄く、ほぼ白色と同じだが、微かにピンクの色が入っているようだ。
「ユウキちゃん試着してきたら?あっ着替える時はあそこでね」
「分かってますよアリス」
更衣室に入って服を脱いで着ようとしたが、着方が分からない。仕方ないので誰かを呼ぼう。
「あの、誰か手伝ってくれません?」
「どうしました?」
「着方が分からないの」
「私が手伝うよ」
そう言ってアリスが部屋に入ってきた。そして私の身体を見てまず言葉を発した。
「ユウキちゃんブラは?」
「ブラ?」
「ちょっと待っていつもその包帯胸に巻いてたの?」
「そうだけど...」
アリスが部屋から顔だけ出してほか2人に命令を下す
「2人とも!ユウキちゃんブラしてないし知らないみたい!緊急任務!下着店で買ってきて」
「買うにはまずサイズを知らないといけないから教えて」
「ユウキちゃん胸は何カップ?」
「カップ?は?」
「胸の大きさだよ!どれくらいあるの?」
「邪魔だと思うくらい」
「それだと分からないんだよなぁ!」
ちょっと焦ってるアリス可愛い。
少し頭を抱えたあと覚悟を決めたように俯いたまま口を開いた
「外して」
「え?」
「包帯....外して」
「なんで?」
「私が今測るの!だから包帯とって!」
アリスの気迫におされて私は包帯の結び目を解いて外していく。お師さまにもあまり見せたことないのに。
「ちょっと店員さん計測器あります?」
「はい、ただいまお持ちします」
外し終わると一気に胸に重さを感じるようになった。重力に引っ張られていく感じがする。
「じゃあ測るよ...」
アリスがなにかの魔道具を持って私の胸にそれを当ててく。するとその魔道具から水色の紐が出てきて私の身体にピッタリ這うように進んでいく。その紐が再び本体にたどり着いた時ピピと音が鳴って計測結果が出た。
「クルー!この大きさのやつ買ってきて!」
「了解!ってデッ!!分かった買ってくる!」
少ししたら私のサイズにあったものが届いた。
「まずはこれ付けて」
「後ろのやつがなかなかつけらないからつけてください」
そして四苦八苦しながら無事服を着ることが出来た。
更衣室から出るとその場にいた全員が泣き始めた
「神様はここにいたんですね」
「生きてて良かった!」
「あぁここまで完璧に着こなすとは素晴らしい!」
この光景はちょっと怖い
「この服に賛成の人ー?」
「「「はい!」」」
私の意見ゼロで1着が決まってしまった。
「じゃあ私達これを買ってきちゃうから他に気に入ったものがあったら持ってきてね」
3人とも会計に行ってしまった。
ふと外の店を覗くと目を奪われるものがあった。
この徹底的に無駄を省いた服、余計な装飾もなく、しかもとても軽い。そして安い、いや別に私が買えるほど安くはないがさっきのやつよりかはかなりお求めやすい。
「ユウキちゃん、ここにいたの」
「ここは男性ものが多いですけど」
「もしかしてこれが欲しいんじゃない?」
思っていたよりも私はこの服を見ていたらしくあっさりバレてしまった。
「Tシャツに短パンか〜」
「私は大賛成です!可憐な美少女が本当は活動的な一面もあって汗を流して運動する姿はありとあらゆる人間の心を奪うでしょう!」
「これも買ってあげようよ。今日で1番興味ありそうな顔してるし」
「ユウキちゃん、欲しいの?」
「うん...////」
初めてものが欲しいと思った。そして初めてそれは他人に言った。なんだかはずかしさを感じる。
「それならさっき買ったブラじゃ合わないよね」
「運動用のやつも買おうか。それにタイツも」
その後は買った服に着替えて過ごした。予想通りこの服はかなり動きやすい。魔法の使いやすさはあの制服に軍配が上がるけど、運動となったらこっちの方がいいかもしれない。
ある程度歩き回るとお腹が減ってきた。ちょうど時間もお昼だというのでそこら辺のお店で昼食をとることにした。
「ここのお店は美味しいものが沢山あるのよ!」
「そうなんですね」
「この雰囲気は何度行っても慣れないですけどね」
「まぁ気楽にいきましょ。味が分かる程度には」
各自食べるものを頼んでいくが私はどれがどんなものか一切分からないのでアリスと同じものを頼んだ。そうして私の前に届いたのは骨の付いたお肉であった。見るからに美味しそうだ、匂いも美味しい。
「いただきます」
まずは一口食べてみると非常に美味しかった。今までこんな美味しいお肉を食べたことがない。本当に今まで私が食べたお肉と同じなのか?夢中になって食べているとクルーとマネスが私の皿に彼女らのものも少しだけ置かれた。
「え?何?」
「あまりにも美味しそうに食べるものですから」
「ここのコックもこの子の食べっぷりを見たら向こう10年モチベーションを維持できるでしょうね」
私は置かれた他のものも食べみた。
これがまた美味い!
トマトとチーズがこんなに美味しいなんて知らなかった! キャベツの中にお肉が入ったこの料理も美味しい!
美食で満足したら次は化粧品を売っている店が集まる場所にやってきた。
どこもかしこも本当に知らないものばかりでここは本当にアリス達に任せるしかない。
「ユウキちゃんにはこの色がいいと思うんだ」
「たしかにそれならさっきの服にも合いますね」
「それもいいけどあの子はどちらかというとアウトドア向きの性格だから落ちにくいものを」
「「たしかに!」」
ここはなんだかすぐに決まったらしく。袋いっぱいになるまで買ってきた。なんだか全て決められてしまったが本当に良いのだろうか?私はどうしたい? ねぇ教えてよ私。
「次はアクセサリーかな」
また場所を変えるとそこにはピアスやブレスレット、ネックレスのようなものが売られている場所にやってきた。
「何が似合うかな?」
「ピアスとかどう?」
「あの子に穴を開けるのは少し犯罪みを感じるね」
「ブレスレットは?」
「うーんあまり良いのが見当たらないのよね」
「ネックレスは?」
みんな話し合っているが私は全然中に入れない。仕方ないので周りを見渡すととあるお店のブレスレット達が目に入った。そして今私がしたいことが少しわかった気がする。そしてこれならそれが出来る。
「あの、皆さん」
「どうしたの?いいの見つかった?」
「うん!」
私はみんなをそのお店に連れていった。
「これは...」
「手作りブレスレットですか」
「作りたいの?」
「みんなで作りたいの!」
私の提案を聞いてみんな笑いだした。
「そうだったね。ユウキちゃんは別に高い物は欲しくないんだよね」
「私達が完全に暴走していただけだったね」
「よし!じゃあやるか!」
「おじさん、4人分お願いします」
作り方は至って簡単紐に色々なものを通して作るだけだが私達だけの最高の一品が完成した。
もちろん完成品だけではなくそれまでの過程も含めての最高が出来た。
完成したブレスレットをつけてみんな腕を前に出して円状に並べる
「えー、おほん、ここで一言。ユウキちゃん頼んだよ」
「え!?」
「当たり前でしょう?」
「さぁ、どうぞ!」
そんな事は全然考えていないので今そこで思ったことを素直に口にする
「私達これから先どんなに離れてもこれがある限り本当に離れることはないよ!だから私達ずっと友達だよ!」
その後は4人で手を繋いで帰ったのでした。
執務室でグレンはこれからの方針について考えていた。魔族の種族特定があらかた進んである程度まで絞れた。あとはこいつらとの戦いに向けて騎士たちを強化するだけだ。大丈夫、こっちには見習いの魔女がいるのだから。
「さて、寝るか」
明日のことは明日の自分に任せて今日のグレンは終わりを迎えるのだった。
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