第18話
翌日は仕事が休みだったから、一日中部屋で待っていた。でも、夜になっても陸は戻ってこなかった。
わたしからの連絡を待っているのかもしれない。そう思わないでもなかったけど、勤務先の病院に連絡するのには勇気が必要で、やっと電話をかけたのは、一週間近く経った日の晩だった。それも、指を滑らせて間違えてかけてしまったに近かった。
『はい』
電話はツーコールで繋がった。病院名とともに名乗ったその声は、間違いなく陸のものだった。
一応、事前に大学病院のホームページを見て、今日の外来担当医のリストに陸の名前があることは調べていた。でも、診療時間が十七時半までとなっていて、すでに二十時違いから、もう帰ってしまったかもしれないと思っていた。だから、陸が電話に出て、心底ホッとした。
「サチです」
動悸が速くなっているのを気取られないように、努めて落ち着いた声を出した。
『サチさん?』
聞き返された。そんな反応は全く予想していなかったから、面食らった。
『サチさん、診察のご予約でしたか?』
陸が他人行儀にそう尋ねてくる。わたしのことをまるで、患者だと思っているかのように。
何が起きているのかさっぱり分からなかった。でも、それを究明したいという思いよりも、恐怖心が勝った。
「ごめんなさい、間違えました」
それだけ告げて、急いで電話を切った。
頭の中がひどく混乱していた。居ても立ってもいられない思いで、そのまま由香里の番号をタップした。
由香里は、わたしが小学三年生の時に転入してから高校までずっと一緒で、一番仲の良い友達だった。陸とも家族ぐるみの付き合いで、しょっちゅう陸と一緒に家に遊びにいった。由香里のお兄ちゃんが陸と同級生で、同じサッカークラブに所属していたのだ。
もちろん由香里はわたしが陸と付き合っていたことも知っていた。陸がいつまで経っても戻ってこないことを、一緒に心配してくれていた。今の思いを吐き出す相手は、由香里以外に考えられなかった。
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