第15話

ガランとした陸の部屋で、空っぽの勉強机の椅子を勧められた。クッションも何もついていない木の椅子は、硬くて、冷たかった。

『親父の会社、経営が破綻してたんだ』

 陸は、マットレスだけになったベッドの上に座って、そう切り出した。

 陸のお父さんは実業家で、海産物の流通に関わる仕事をしていた。いつも忙しくしていて、たくさんお金を稼いでいる印象だった。

『親父は会社を畳むことにした。借金が相当あるらしくて、俺を大学に行かせることができなくなった』

 陸は淡々と話した。

 黙って聞こうという気持ちと、先を急かしたくなる気持ちとがぶつかって、わたしはたぶん複雑な表情をしていたのだろう。陸はわたしの顔を見て、優しく微笑んだ。

『大丈夫、大学は行くよ。だけど、親父とは親子の縁を切ることになった。俺は親父の知り合いの家に養子に入って面倒を見てもらう。そういうことになったみたいだ』

 軽い調子で、何てことないみたいに言ったけど、さすがのわたしにも、それが大変なことだと分かった。でも、何から訊いたらよいのか分からなかった。

『じゃあ、関口陸じゃなくなるの?』

 わたしが最初にした質問はそれだった。

『うん。サチを関口幸にしたかったけど』

 陸はそんなことを言った。

 わたしが浮かれてノートに関口幸と書いていたのがバレていたのだろうかと、動揺した。

『関口陸じゃない俺は嫌いになる?』

 そう訊かれて慌ててかぶりを振った。動揺している場合ではなかった。

『そんなわけない。どんなりっくんでも好きだよ』

 いつもは恥ずかしくてなかなか好きだと言えなかった。でも、今を逃してはいけないと直感的に分かっていた。

『ありがとう』

 陸は、こっちにおいでと言うように、手招きして膝を叩いた。確かに小さい頃は陸の膝に座ったこともあったけど、もう子供じゃないしと思って、彼の隣に腰を下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る