第14話
わたしはずっと浮かれていたのだろう。陸が苦しんでいることに気付けなかった。
今思えば、志望大学をはぐらかされた時に、少しはおかしいと疑うべきだったのだ。馬鹿なわたしは、言っても分からないから教えてくれないのだろうと思った。受験シーズンが近づいて、お祈りしたいから入試の日を教えてほしいと頼んでも、気持ちだけで十分だとごまかされた。その時ですら、わたしが祈らなくても余裕なのだろうと解釈した。二月になってから全く会えなくなったのも、忙しいんだなくらいに考えていた。
卒業式の後、久しぶりに陸から連絡が来た。
家に来るように言われて、初めて少し変だなと思った。陸は、わたしが暮らすおばあちゃんの家にはしょっちゅう上がりこんでいたくせに、自分の家にはわたしを呼びたがらなかった。
陸の家の中はガラガラだった。段ボール箱が積み上げられていて、陸たちがどこかに引っ越すのは明白だった。
陸の後ろを付いていきながら、別れを告げられるのではないかと思い至って、一気に心が冷えた。
『大学、決まったの?』
沈黙が怖くてそう尋ねたら、陸は振り向いて、小さく頷いた。
『医学部?ここから遠いの?引っ越すの?』
陸はそれには答えず、サチ、と呼んだ。
わたしは、嫌々をするように首を横に振った。その先の言葉を恐れた。
『一人暮らしするの?おじさんと一緒に行くの?』
泣きそうになっていた。陸に抱きしめられて、これが最後なのかなと思ったら、涙が出た。
『ごめんね、不安にさせて』
サチにはずっと笑顔でいてほしかったんだ、と陸は言った。
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