第9話

陸はしばらくの間、わたしに覆いかぶさったままでいた。

 やがて、のそりと腰を引いて、肩に食いこんでいるわたしの歯を引き剥がした。

「血が……」

 噛み痕からダラダラと血があふれ出している。

「いいからじっとしてろ。サチだって血が出てる」

 陸がティッシュを取ってわたしの血を拭いてくれる。引きつれるような鋭い痛みが走った。

「痛かったか」

「うん。でも、りっくんだって」

「こんなもん大したことねーよ」

 肩をティッシュで押さえながら、陸もわたしの横に寝そべる。

「身体冷やすなよ」

 わたしの上に布団をかけてくれた。

「りっくんが温かいから大丈夫」

 そう言ったら、布団の中でギュッと抱きしめてくれた。


 陸がわたしのもとに戻ってきたのだという実感が、ようやく身体じゅうに押し寄せた。

 口の中に残る陸の血の味を舌でなぞった。陸の息遣いが心地よかった。

 本当はもっといろんなことを訊きたかったけど、時間はいくらでもあると思った。今はただ、この心地よい空間に身を任せていたかった。

 やがてわたしは幸せな眠りに落ちていった。


 ーーずっと会いたかった。

 

 そんな囁きと、優しく髪を撫でてくれる手を感じながら。

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