第7話

ベッドの前まで手を引かれて、二人で腰掛けた。

「あ、りっくんのとこ、さっき座っちゃったから濡れてる……」

 場所を代わろうと思って腰を浮かせたら、肩を掴んで押さえつけられた。

 そのまま、ベッドの上に押し倒された。

「……え?」

 経験がないとはいえ、陸が何をしようとしているのか分かった。いや、経験があればもっと早く気付けたのかもしれない。

「えじゃねーよ。何だと思ってたんだ」

「心配してくれてるんだと」

「それで素直に脱いでたのか」

 こくこくと頷くと、陸は少し口元を緩めた。でも、それは一瞬だけで、すぐにギラギラした目つきになった。

「愛してるよ、サチ。だからいいだろ」

 胸元に口づけを落としてくる。

「良くない」

 胸から陸の顔を引き剥がした。拒否されると思っていなかったのか、陸は意外そうな顔をした。

「何でダメなんだよ」

「もっと話したい」

「後でな」

「それに、お腹とか、たるんでるから恥ずかしい……」

 陸の身体は引き締まっているのに。

「何でだよ。綺麗だよ」

「わたしもう二十八だよ。もうすぐ三十だよ。おばさんだもん」

 フハッと陸が噴きだす。こっちは真剣なのに。

「じゃあ三十過ぎてる俺はジジイかよ」

「男と女じゃ、いい時が全然違うじゃん」

「くだらねーこと言ってんじゃねーよ。サチはサチだろ」

 下着を脱がされそうになって、必死に抵抗する。

「待って」

「まだ何かあんのか」

 陸が焦れているのが分かるけど、言わないわけにはいかない。

「わたし、その、したことなくて……」

 ドン引きされるかと思ったら、陸は口角を持ち上げた。

「俺のために取ってあったのか」

「ていうか、りっくん以外に好きになれる人、いなかったし……」

 惨めな気持ちになる。

 こんなの、二十代前半の子が言えば可愛いけど、三十近い女に言われたって、重たいだけだろう。

「何でそんな泣きそうな顔すんだよ」

「だって、引くでしょ。こんなの、面倒くさいでしょ」

 陸に会えたら無条件で幸せな気持ちになれると信じていた。こんなに苦しくなるなんて思っていなかった。

「馬鹿だな。嬉しいよ。優しくする。優しくするからさ」

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