第6話

気を取り直して、彼のシャツとスラックスを拾い上げた。これもかなり濡れている。干しに行こうとしていると、ちょうど風呂場の戸が開いた。陸の裸を前に再び固まる。

「それ俺のか?そのままでいい」

 わたしの手から服を取り上げて、ポイっと床に放り捨てた。

「それよりサチも脱げって」

 着ているカーディガンに手をかけてくる。それだけのことで身体が跳ねる。

「だ、大丈夫、自分で着替える。りっくんは身体拭きなよ」

 陸の手から逃れようとしたら、腕を掴まれた。

「着替えるんじゃねーよ」

「わ、分かってる。シャワー浴びればいいんでしょ。着替え取りにいくから、ちょっと離して」

 みっともないくらい声が上ずっている。自分ばかり意識していて馬鹿みたいだと思うけど、どうしようもない。わたしには刺激が強すぎる。

「いいからじっとしてろ」

 シャツとキャミソールを一緒に脱がされた。

「ちょっと」

 何の躊躇いもなくパンツのボタンを外そうとしてくる陸の手を掴む。

「暴れんな。いつまでも濡れた服着てたら風邪ひくだろ」

 その言葉に、抵抗の手を緩めた。そういえば陸は過保護な人だった。

 前にもこんな風に、風邪をひくからと、強引にわたしの頭にセーターを被せてきたことがあった。これも陸にとっては同じことなのかもしれない。あの頃と変わらずにわたしを心配してくれているだけなのだとしたら、変に意識している方が恥ずかしい。

 

 自分で脱ぐと言ったら、陸はやっと手を離して自分の身体を拭き始めた。でも、洗面所から出ていってくれない。

「わたしがここに住んでるって、どうやって知ったの?」

 何かを話していないと気まずくて、パンツを脱ぎながら尋ねた。

 かつてわたしが住んでいた家は、おばあちゃんが亡くなった時に相続の関係で売られてしまった。それで、一キロほど離れたこの賃貸アパートに部屋を借りた。だから、陸が戻ってきた時にわたしを捜せるかが気がかりだった。

「あいつに聞いたんだよ。何つった、あの、権田の妹」

「ああ、ユカちゃん」

 納得した。子供の頃に陸と一緒によく遊びに行っていた由香里の実家は、今も変わらず同じ場所にあって、由香里とは今も連絡を取り合っている。

「ユカちゃん、この春女の子が生まれて。アイリちゃんっていうんだよね。出産祝い送ってから連絡とってないな。元気にしてた?」

 由香里と赤ちゃんに会いに行こうかと思ったけど、幸せいっぱいの友達に会うのに何となく気後れしてしまって、お祝いを送っただけになっていた。

「そういや電話の後ろでギャーギャー泣いてたな」

「泣いてたなって」

「そんなことよりあっち行こうぜ」

 ストッキングを脱いだわたしの腰に手をまわしてくる。

「でも、シャワー……」

「いいよ、俺が温めてやる」

 確かに陸の身体は温かいけど、そんな恥ずかしいことできない。

「変だよ、りっくん」

「何だよ。俺のこともう好きじゃなくなったか」

「そんなわけないじゃん」

「だったら変じゃないだろ」

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