第44話

出陣の三日前から父親が所属する小荷駄隊に配属された。


正直、三成は不満だったが命令ならば仕方ない。



「殿は戦場に出て敵の首を取るだけが戦ではないことをそなたに知らしめるために配属したのだ」



父親の正継はそんなふうに三成に話して聞かせた。


羽柴軍が信貴山の織田軍に合流したのは十月六日のことだ。



羽柴軍の持ち場は明智光秀の陣の隣りだった。


三成は明智陣屋を眺めていると、水色桔梗の旗が立ち並ぶ中に見慣れぬ旗がある。



ーどなたの旗印だろう、一つは確か中国の尼子氏の…



三成の疑問が分かったのか正継は、



「尼子遺臣たちの大将となっておる剛勇の漢(オトコ)の旗印だろう、山中鹿之助殿と言ってな……尼子氏というのは、かつては出雲の雄だったのだが毛利の攻撃によって一度は滅亡したのだ」



尼子氏は出雲を中心として因幡、伯耆地方に君臨していた大名だった。


山口の大内氏、毛利輝元などと抗争を繰り返していたが、毛利による謀略により内紛が起こり、力が削がれ毛利に猛攻撃を受けた尼子義久(ヨシヒサ)は1566年、月山富田城に籠城したが、降伏し義久は命だけは助けられ安芸(アキ)に送られた。

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