第35話

思わず三成は声を上げた。


三成の目の前には、女人と見紛うような信長の顔がある。


顔を上げない三成に我慢できず、信長は上段の間から下り三成の前に立っていたのだ。


三成は驚きを隠せず、声を上げてしまったのだ。


父親から教えられた貴人とは織田信長は違う武将だった。



「猿めの近習にしては賢そうな面構えだな」



信長は上段の上座にどっかっと腰を下ろし話し出した。



「猿、話がある」



重要な話だと判断した秀吉は三成に部屋から出るように命じた。


部屋から下がろうとすると、信長がそれを制した。



そろそろ冬籠りの時期になる。長浜はどうじゃ?」



「はっ、思ったよりも寒さは厳しいと感じますが、身体がそのうち慣れると思いますが」



「そうか、野放しにしておった一向一揆を討伐することを決めた」




「では、いよいよ?」



「先だって、紀伊の雑賀た根来を討伐する。彦右衛門(滝川一益)の手の物が寝返りを誘ったのだ」

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