第32話

「わかってる、夏耶が悪いわけではないのは……わかっていても許せない……」




夏耶の瞳からは大粒の涙がこぼれていたそれでも、もう抱きしめることも、苦しくて出来ない。





戦で田畑は荒れ、夏耶のような境遇の者はたくさんいるが今の佐吉では何も出来ないのだ。




夏耶と別れ、佐吉は屋敷に戻り真剣を振った。


汗が噴き出す、重辰は佐吉が真剣を振るのを静かに見守る。



「佐吉、何があったが知らぬが自分が今、何を一番するべきが分かっておるだろう、わしがそなたに教えてやれるものはもうないぞ」



「重辰殿、お聞きしてもよろしいですか?」




「なんじゃ?わしが教えられることなら…」



「重辰殿はお菊さんと奥方どちらを思っておられるのですか?教えて下さい」



重辰は笑う。



「佐吉も大人になったようじゃな…どちらも大事な女子じゃ、くらべられん。佐吉も妻を持てばわかるぞ」



「しばらくはいらないです…」



裏切られることが恐い。




***

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