第28話

重辰は己が教えられる全てのことを佐吉と正澄に教えた。


剣術に始まり、槍、馬術、鷹狩、騎射なども教えられた。




中庭で佐吉は真剣を手に対峙していた。


向い合う相手は重辰だ。


酒気が抜けていないし、着込んだ小袖、袴はよれよれだ。


どこの浪人かと思ういでだちだか、中段に構える姿はよれた小袖の中に一本鋼が通っているようだ。


佐吉はわずかに距離を詰めたが、それ以上一寸とも動けない。



ーこれ以上踏み込めば斬られる




隙がなく構える姿からは一気に斬りこまれる様子が簡単に想像できる。


踏み込めない間合いにあるのは覇気ではなく、無の威圧感だ。


そのまま時が止まるが、佐吉は迷わず斬り込んだ。


一太刀めを、流されすぐ身を引きすぐ二合めを繰り出す、三合めと重辰にはじき返される。



重辰はふう、と一息つきながら屋敷の縁側に腰をかけた。


お菊の差し出した水を、一気に飲み干すと、



「鍛錬不足ではないが、まだまだ足りぬ」



「はい…」




「女子を知るのも良いが…」




佐吉や正澄が屋敷に帰るのが翌日になっても重辰は何も言わないが薄々、気がついていたのだ。

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