第13話

佐吉は自室に入り朝、目を通していた書物を手に灯りをつけた。



夜空には満月が浮かんでいた。



半刻以上して正澄が帰って来たようだ。


なにやら言い争う様な声が佐吉の部屋まで届いてきた。



ー?



しばらくすると、正澄が佐吉の部屋に入ってきた。



「はぁ、彩殿も何故あんなに怒るのか…」



部屋に入ってきた正澄からはいい香りがしてくるが佐吉にはそれが白粉の匂いだとはわからなかった。



「兄上、何処に行かれていたので?」



「うん?まあ、その辺をうろうろしておっただけだ」



「うろうろしているだけで、彩殿が怒るので?」



正澄は少し笑うと、



「佐吉が大人なったら連れて行ってやる」



「なぁ、俺は十六になりました」



「十六になっただけだろう…」



正澄の露草色の小袖の衿には紅が僅かだがついていた。


それが何を意味するか佐吉は想像でしか分からないし、恥ずかしくなり、腹が立った。




「兄上、もう休むので」



佐吉は寝衣に着替え寝具に潜る。


佐吉も若い男で女子に興味がないわけではないが今は武芸に集中したい。


そう思うのも本当だが昨日あった夏耶が気になる気持ちもある。



気になるだけで好きだという気持ちなのかわからない。

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